日だまりの魔王と夜闇の魔王
今ではない時
此処ではない場所
二匹のキツネの……
哀しい物語――
陽だまりの魔王
と
夜闇の魔王
ある世界に、二匹の狐がいました。
一匹は金色の毛並みのキツネ。
もう一匹は銀色の毛並みのキツネ。
世界には、二匹の他に茶色い大地と真っ黒な海しかありませんでした。
二匹のキツネは、このままだと寂しいので、大地と海以外の何かを作ることにしました。
――金色のキツネは、日だまりの空を。
――銀色のキツネは、月の瞬く空を。
それぞれ精一杯の優しさと、愛を込めて作りました。
すると、世界は輝きだし、茶色い大地はみずみずしい緑に包まれ、真っ黒な海はきらきらと輝く青に変わり、いままでに存在しなかったものが次々と生まれました。
――空を飛ぶ鳥。
――海を泳ぐ魚。
――大地を駆ける動物。
たくさんのものが生まれ、人間と呼ばれるものも生まれました。
でも、せっかく生まれたのに、みんなすぐに消えて無くなってしまいます。
それでも、またすぐに形の違う新しいものが生まれて……、消えて……。
世界はどんどん変化して……。
変わらないのは、二匹のキツネと、二匹が造った空の色だけ……。
ある時、人間たちはふと思いました。
「なぜあの二匹のキツネだけはずっと変わらないのだろう?」
みんな、かわっていくのに。
「おかしい」
「おかしい」
人間たちは急に二匹のキツネのことがこわくなったのです。
彼らはいつまでも姿が変わらないこの二匹のキツネを『魔王』と名付け恐れ始めました。
ある日、人間たちは真っ暗な夜になったあと、二匹のキツネが住んでいる森の中へと向かいました。
木々に囲まれひっそりと建つ塔の中、二匹のキツネがぐっすりと眠っているはずです。
人間たちは、その塔に大きい鎖をぐるぐると巻き付けて、二度とキツネが起きることのないよう魔法をかけました。
そして、その塔をどこか違う空間に移動させたのです。
夜が明けて、びっくりしたのは銀色のキツネ。
夜空の下を散歩して帰ってきたら、帰るはずの塔がありません。
金色のキツネも見当たりませんでした。
銀色のキツネは人間たちに聞きました。
「金色のキツネと、お家はどこにいったの?」
人間たちは苦い顔をして何も答えてくれません。
銀色のキツネにはなんとなく解りました、この人間たちが自分の大切なモノを隠したことが……。
それでも、銀色のキツネは人間たちを責めたりはしませんでした。
キツネはこの世界に存在するものすべてを愛していたからです。
銀色のキツネは金色のキツネを探す旅に出ました。
……でも、何処を探しても見つかりません。
何年も、何年も、銀色のキツネは金色のキツネを探し続けました。
……それでも、やっぱり見つかりません。
銀色のキツネはあきらめずに探し続けます。
何年も……何十年も、……何千年も。
銀色のキツネの体は疲れてどんどん小さくなっていきます。
それでも、それでも、さがしつづけました。
……。
…………。
――…………。
もうどのくらい時が流れたのか、銀色のキツネにもわかりません。
キツネの体はてのひらくらいに小さくなり、……やがて青い石になってしまいました。
それでも、キツネは探し続けています、大切な、大切な……ともだちを。
石になっても探し続けているのです。