うっほ、コイツ金持ちかよ。
せっかくの魔王もふりタイムを邪魔された俺はいやいや音の鳴る方へ振り向く。
別に邪魔されたわけでも無ければずっと存在に気付いてた事は秘密。
まあ魔王はずっとうずくまってるだろうし早めに蹴りつけてまたもふりますかねえ。
相手が姿を現すのを待つ。
カランカラン。
骨の音が近づいてきた。
そこの曲がり角にいるんだろう。
俺はいろいろ試したい魔法があったから、どれで倒そうか考えていた。
そして、奴は姿を現した。
カランカラン。
「・・・は」
一言で言うと眩しかった。
もう、直視できないくらい眩しかった。
そいつは、全身金ピカだった。
「うお、なんだこいつ!」
俺にしては珍しく興奮した声を上げる。
「魔王見てみろよ、カネだ、カネが歩いてるぞ」
俺はその動く金塊に目を奪われつつもこの素晴らしい光景を魔王に伝えたい。
魔王に振り返るとまだうずくまってやがる。
俺がこんなに騒いでてもまだ気にならないとは。
「まーいっか、無難に倒せるのでぶっころすか」
当初の予定であった新しい呪文で倒す、というのをやめ、確実に仕留められる魔法にシフトチェンジ。
「HOIっと」
指を鳴らし、その金ピカにめがけ無属性の魔法をぶつける。
パチンと指がはじける音が洞窟内を駆け巡り、その後金ピカ中央に禍々しい黒い球体が出現する。
それは音もなく金ピカの中央部分を消し去り、背骨を失った体は地を嘗める。
数秒も立たずにそれは姿を隠し、同時金ピカも人工的な光学迷彩のように天へ召された。
「はい終了っと」
額を摩り、かいていない汗を拭う。
金ピカが元いた場所からジャリンっというような、両替機から100円玉が落ちてきたような嬉しい音が響く。
「おい、まじかよ」
見ると、そこには大量のゴールドが山のように積もっていた。
総額1200ゴールド。おおう、これがロマンってやつか。
「すごいぞ魔王、こいつ1200ゴールドも落としやがったぞ」
この喜びを分かち合うべく魔王に近づく。
体育座りをギュってした感じの座り方をした魔王は膝におでこを乗せるような形でまだうずくまってる。
「おい魔王、そろそろ顔上げてくれよ、な」
そんな魔王の隣に、子供をあやす親のようにしゃがみ込む。
「・・・ん」
すると魔王は返事なのか何なのか、何かを俺に伝える。
「どうした喘ぎ声なんか出して」
「ん・・・ん」
俺のジョークにいつもの突っ込みすら入れない。
「どうしたんだよ」
俺はできるだけ優しい声で話しかける。
「・・・あたま」
「頭?がどうしたって?」
「・・・んんて」
「ん?」
「・・・撫でて」
「あー・・・うん」
少し潤んだ瞳で俺を見上げる。
さっき撫でてやった時、気持ちよかったからもう一回やれと、そういうことか。
俺はその魔王の頭をなでる。
角の後ろから手を持っていき、優しく、優しく。
一撫でするたび「んっ・・・んっ」と気持ちよさそうにする魔王は何というか、刺激的だ。
たまに乙女になる魔王だが、やはり俺も若いのだろう。少し弱い所を見せる魔王に俺は胸を握られたように、心臓が跳ねる。
つまり、なんだ。・・・可愛い。
「よし、もういいだろ?さーてと、次の狩りに行きますかねー」
そう言い、俺は手を頭の後ろに組んで立ち上がる。
いつもは冗談交じりに胸を揉んだり抱きしめたりして、でも最後は茶化す俺だが、今はただ、ただ何も言わず抱きしめてしまいそうなほどに心臓が俺の男心をノックする。
俺の腕の中に収めたいと、本能が囁いている。
だから今は茶化してエロとは真逆の戦闘に行きたかった。
横目に魔王を見ると「もう終わり・・・?」とでも言いたげな、河原に捨てられた子犬のようにちょっぴり悲しい目をする。
あーもう。
「早くしないと置いてくぞ、魔王」
俺はこの気持ちを、気づいているがしかし。
・・・恋心とは言わない事にする。
だって。
「ま、待って勇者」
魔王と勇者が恋なんて、おかしいだろ?
「だから、勇者じゃねえって」