狩りはいいけど金足りねえ。
「よーし魔王、狩りに行こうぜー」
「もう・・・やだ」
あくる日。
例のごとく俺は一緒のベッドで眠る魔王に色々ちょっかいをかけ、そのたび魔王が面白い反応取るもんだから可愛くて仕方なかった。
あー、久々に生きててよかったとおもったぜ。
魔王も妙に俺を意識しているせいか、立ち振る舞いが嫌に色っぽい。
照れたりするから俺もちょっかいかけたくなっちゃうの分かってないのかな。
まあ、だからこそ俺はウハウハなんだけどな。
「んだよ、そんな縮こまるなって。せっかくかわいい魔王ちゃんがよく見えないじゃんか」
「だ、だからそういうこというなばか!」
そういって体育座りをギュってした感じにしゃがみ込む。
なんでこいつは困ったらすぐに肩を抱くんだろうな。
「まあともかく、今日は肩慣らしだ。適当にそこら辺の魔物倒して、今日の目標は5000ゴールドな」
「わ、分かったが帰ってくるまでえっちな事は禁止だからな!」
「はいはい気を付けますよー」
ってか帰ってきたらえっちな事していいのかよ。
* * * *
相も変わらず住人にいやーな感じの視線を向けられながら町郊外に出ていく。
入口から延びるように荷馬に踏み固められた道があり、そこはいろんな行商人が実際に通っている安全を保証された道。
その脇にちらほらと見える幅の狭い道は魔物が通った獣道。ここに一般人はあまり近寄らないほうがいいかもしれない。
俺たちが通る道は言わずもがな獣道のほうだ。
狩りに行くのに安全な道を通るはずがないからな。
「よーしじゃあ狩りますかねー」
前方約10メートル程の所に居る豚っぽい魔物に狙いを定める。
「ほい!」
指をパチン!と鳴らすと、地面が盛り上がりその魔物を下から貫く。
刺さった場所から血が溢れ、やがてその魔物は黒っぽいモザイクのようになり消えていった。
消えるとともに全世界共通の通貨が辺りにばら撒かれる。
「4ゴールドか、しけてんなー」
一般にかかる食事の金額は500ゴールド。一日ずっと外食の場合は1500ゴールドだ。
そして手に入ったのは4ゴールド。魔法を使う労力やペースなどを考えると。
これはかなり非効率ということだ。
「なー魔王、魔物が落とす金の量っていじれねーの?」
「ばかか。そんなことしたら世界のインフレーションが激しくなって物価が高くなってしまうではないか」
おおう。魔王がなんか難しいこと言ってる。俺にはよくわかんねーけど。
「そっかそっか、じゃーだめだな」
適当に相槌打っとくか。
「・・・本当にわかってるのか?勇者」
分かってないこと見透かされてるし。あと勇者じゃねえ。
「狩り場変えるかー」
それから少し同じ魔物を狩り続けていたがやはり効率が悪い。
まあ最初は肩慣らしも兼ねてたし、こっからが本番ってことでいいか。
「ああ。どこへ行くんだ?」
魔王も退屈していたのだろう。アリの巣を木の棒でつついて遊んでいる。
「次は洞窟だなー。敵はここより少し強くなってたまにめっちゃ金持った魔物が出たりする」
一応敵の説明はしてみたけど魔王ってのはその名の通り魔物の王な訳だから、魔物を統べるものとしてどんな奴がいるか位知ってるかもな。
「そうか、それは楽しみだな」
口ぶりから察するに知らない様子。それも本来恐れるべき魔物に対し少女が楽しみと言っているこの図は何とも謎すぎる。
その実態や魔王なんだが。
「なー魔王」
「どうした勇者。えっちなお願いは聞かないぞ?」
お前は俺が話す内容の全てがそういうものだと思ってんのか。実に心外でありますな。
・・・まあ、近い事頼もうとは思ってたけど。
「俺戦ったりして疲れたからおんぶしてー」
「お、お前は子供か!・・・全く、そういうからかいはよしてくれ」
まあ予想通りの反応。別にからかってなんかねーのにな。
「いーじゃんか、魔王はただ俺の隣で魔物がやられていくのを見てただけなんだから」
「手を出すなと言ってたのはお前ではないか!」
あ、ばれちゃった?
でも、ここまで来て引くわけがないよな。
「なー頼むよー」
「い、いやだ」
「すぐそこまでだろー?」
「し、しつこいぞ勇者」
「・・・わかったよ、んじゃ歩く。行くか」
押してダメなら引いてやれ。
「す、すぐそこまで・・・だぞ」
流石魔王。押しに弱く離れて行っちゃうと寂しくなるそういうとこほんとかわいい。
「ラッキー」
今の俺の顔なんてすがすがしいほど笑顔だろうな。
「変なとこ触るなよ・・・?」
言いきらないあたり少し期待でもしてんのか?
そう思われるからあんま語尾にはてなを付けないほうがいいぞ、魔王。
「触んない触んない」
冷たくあしらわないで相手に傷を付けないようにする魔王の優しさなんだろうけどな。
そういって魔王の後ろに回る俺。
腰を低くし、垂れた髪を耳にかける魔王の仕草は俺の男心を擽る。
そして前かがみになってくれた魔王の肩に手をかけ、背中に飛び乗る。
その時に香った匂いはとても甘かった。
さらさらな黒髪が鼻を擽ってこそばゆい。
俺が倒しに行く前の魔王の名残か、頭の左右に丸まった角が生えているのだが、こんなに近くで見たことはなかったから少し感動だ。
白い首筋綺麗なうなじが風に揺れる髪の間に見える。魔王だからか俺の属性付与に依存したものなのか、どちらでも無いかもしれないが、肌が素晴らしく透き通っている。見た目年齢同い年位の人間の娘ではここまできれいではないと思う。
少し横から顔を覗くと、魔王はこちらに気付き、困ったように笑みを浮かべる。
それはわがままな子供を優しくあやすような、母性のある笑顔。
俺は「おっと手が滑った」とかいってちょっかいでもかけてやろうかと思っていたが、やっぱりやめる。
「さんきゅーな魔王」
「・・・ふん」
ここは素直に礼でも言っとこうと思った。