第五話 変化
この山に落ちてからどれぐらいの月日が経ったのだろうか。まだ一週間しか経っていないのか、それとももう一ヶ月経っているのかなんて、今のハルキには考える余裕すらない。
この山に来てからは苦難の連続続きだった。魔物に襲われたり、落とし穴に落ちたりしたが、これらはまだマシな方だ。何が、一番辛かったかと言うと、食糧が全く確保出来なかった事だろうか。
食糧に関して正確に言うならば食糧はある。食糧はあるのだが、食えたものではなかった。
例えば、木になっていたリンゴみたいな形をしている赤い実。
そのリンゴもどきを初めて見た時は喜んだ。これなら食べられるんじゃないのかと。
だが、人生はそんなに甘いものではなかった。
何せそのリンゴもどきは、何より渋かったのだ。甘味など一切感じない。現代の食べ物で例えるなら、渋柿だろうか。
勿論、ハルキが口にしたものはリンゴもどきだけではない。木の葉っぱや、そこら辺にいっぱい生えてたキノコ、そして魔物の死体。
結論から言うと、全て不味かった。不味いだけなら我慢しよう。
ハルキが口にしたものは、全て吐き気と腹痛をもたらしたのだ。
(こんなもの食えるか!)
ハルキがそう思うのも無理も無い。が、それしか食べれる物は無かった。
だからハルキは仕方なく、吐いてでも食べる事を選んだ。そうでもしないと餓死で死んでしまうから。
ハルキは食糧を確保するだけでは終わらない。毎日、毎日自分の体をいじめた。【採掘】、腹筋、背筋、腕立て伏せ、スクワット、剣の素振り、ランニング。
それらを暇があれば繰り返し、ランニング中に何か使えそうな物があれば、【アイテムBOX】にしまう。
そんな生活の中で何週間、何ヶ月過ごした結果、ハルキは見違えた。見違えてしまった。どのように見違えたのかを単刀直入に言うならば、彼は完全な人間では無くなった。
だけどそれは仕方の無い事だと思う。毎日の様に、魔物を食べていたのだから。それで体に何らかの変化があってもおかしくはない。
この事については取り敢えず、ハルキのステータスを見てくれたら分かると思う。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
横山 ハルキ 15歳 Lv 14
《種族》 人間族(98%)
《天職》 採掘師
《ステータス》
【HP 300/300】 【MP 350/350】
【筋力】 330 【耐性】 320 【敏捷】 340
【魔力】 300 【魔耐】 310
《スキル》 【言語理解:Lv-】 【採掘:Lv10】
[+採掘速度上昇][+採掘範囲上昇]
[+鉱物鑑定][+鉱物感知]
【アイテムBOX:Lv4】 【状態異常軽減:Lv3】
【自動回復:Lv2】 【魔力操作:Lv1】 【瞬発:Lv1】
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
【採掘】を何十、何百、何千と使用している内に、【採掘】に派生スキルが発現した。発現したのは、【採掘速度上昇】、【採掘範囲上昇】、【鉱物鑑定】、【鉱物感知】の四つ。
派生スキルは、スキルレベルが最大、つまりレベル10になると、そのスキルに関連した派生スキルが発現する。
発現する派生スキルの数には、特に決められていない。が、派生スキルには、元々のスキルがレベル10になった時に発現するものと、そのスキルに何らかの操作が加えられた場合、また違う派生スキルが発現する。
派生スキルに関しては、全く意図的に発現させようとしていたわけではない。唯暇だったから、何となくハルキの寝床となっていた小さな横穴で、【採掘】を使用していただけで、派生スキルが発現してしまったのだ。
【採掘】の使用方法としては、壁や床に手をついて、【採掘】と唱えるだけで発動し、ある一定距離の鉱物を地表に飛び出して来る。
次に【状態異常軽減】、【自動回復】、【魔力操作】、【瞬発】についてだが、ハルキもそれに関しては把握出来ていない。
出来ていないのだが、発現した原因は分かっている。
その原因とは、ハルキがこの山で口にしてきた物だろう。そうとしか考えられないし、それぐらいしか見当もつかない。
というわけで、先程も言った通り、ハルキは完全に見違え、体重は104キロあったのが63キロまで落ち、身長も165センチだったのが175センチと10センチも伸びた。
もうこの山から出てもいいのだが、ハルキはまだ出ない。出る前にランニング中に見つけた、ある大きな洞窟を踏破したいのだ。
洞窟には別に行かなくてもいい。が、この山から下りる前に、現在のハルキがどれほど強くなったのかを知っておきたいのだ。
だが、今日はもう遅い。大きな洞窟に挑むのは明日からにして、今日は明日の為に早めに寝る事にしよう。
布団も枕も何もない場所で睡眠をとるのは、もう慣れてしまった。最初は全く寝付けなかったが、気づかないうちに、それはもう普通に眠れるようになっていた。人間の慣れって怖い。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
朝になり、大きな洞窟の前に到着したハルキは最後の準備を進めていた。【アイテムBOX】の中にしまっていた鉱物、明光石をいくつか取り出し、この山で偶然見つけた瓶の中に入れる。
この大きな洞窟には一切光はないが、この明光石が洞窟に入った途端に青く光り、洞窟の中を照らす。
「よし、行くか」
そう口にしたハルキは、一歩ずつ確実に進んで行く。怖いなんて感情は一切ない。未知なる世界に行くという事が、堪らなく嬉しく思うし、心の余裕もある。
余裕があるからこそ、この洞窟に入った時から、【鉱物鑑定】と【鉱物感知】を使用している。
【鉱物感知】は、一度見た鉱物ならその鉱物の名前と詳細が記載されるのだが、見たことのない鉱物は???で記載される。
が、【鉱物鑑定】と併用している場合、見たことのない鉱物でも名前と詳細が記載されるのだ。
【採掘】で、高値で売れたり、これから使いそうな鉱物は積極的に採る。それだけは怠らないように、どんどん奥へ、奥へと進んで行く。
奥へ進んで行くと、ついに魔物が現れた。日本で住んでいたなら、一度は目にした事があるであろう動物の形をしていた。
その動物とは、兎だ。兎だという事は間違いない。あの長くて可愛い耳と、丸っこい尻尾。間違えるはずもない。
だが、その兎もどきは日本で見た事がある兎と確定的に違うところがある。
それは、可愛い見た目にはとても似つかない体と、その体に見合ったとても発達している大きな足だ。
兎もどきの体長は裕に一メートルは超えているが、動きの速さは劣っているどころか、勝っていた。何故その事を知っているのかと言うと、さっき兎もどきに攻撃を仕掛けられたからだ。
兎もどきは、その発達している大きな足で地を蹴ると、圧倒的脚力で地面を抉り、一瞬で間合いを詰め、その足で見事なライダーキックを繰り出して来た。
が、その蹴りはハルキに【瞬発】によって起こった圧倒的速度で躱され、逆に回し蹴りで反撃をもらった兎もどきは後ろに吹っ飛び、壁に衝突する。
しかし兎もどきは何もなかったかのように、スッと立ち上がり、また同じようにハルキとの間合いを詰め、次はかかと落としを繰り出して来たが、ハルキは避けずに、腰にかけていた剣を手にかけ、兎もどきを突き刺した。
「ふぅ。今日の食糧ゲット!」
ハルキは内心こんなもんかと思いながら、初戦闘で危なげもなく仕留めた兎もどきを、【アイテムBOX】の中に入れて、また先を進む。
それからも、幾度も様々な魔物と交戦しては殺し、【アイテムBOX】の中に入れる。
その繰り返しだったが、偶然見つけた横穴の入り口に、魔物を寄せ付けない魔除け石を置いて、今日はその横穴で休む事にした。
鉱物って色々と便利だなと思いながら、今日の晩ご飯を用意する。用意すると言っても、先ほど倒した魔物を、火で焼くだけなんだがな。
この山に来た時はあまりの空腹で、魔物をそのまま喰った事もあったのだが、臭すぎて喰えたものじゃなかった。
だから火で焼く事によって、喰っても安全な物に──なるわけないだろ。でも、うん、多少はマシになった。そんな気がする。
腹痛に関しては既に解決済みだ。【状態異常軽減】のおかげで、腹痛の痛みは耐えれるほどに軽減しているからだ。
〜本日のメニュー〜
兎もどきの丸焼き
フクロウもどきの丸焼き
是さて、喰うとしますかという事で、ハルキは兎もどきの丸焼きをそのまま口に運び、豪快に噛みちぎり、咀嚼し、飲み込んだ。そして最初に放った言葉は勿論、不味い、だ。
それは当然の事なのだが。ある時魔物って、もしかしたら臭みをとれば意外といけんじゃね? と一時期思っていたのだが、そんな臭みをとる香草とかハルキは持っていなかったから、考えるだけ無意味だった。
そんな感じで今日の晩ご飯を済ませ、今日の成果を見る為に『ステータスプレート』を見る。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
横山 ハルキ 15歳 Lv 34
《種族》 人間族(96%)
《天職》 採掘師
《ステータス》
【HP 780/780】 【MP 830/830】
【筋力】 810 【耐性】 800 【敏捷】 830
【魔力】 780 【魔耐】 790
《スキル》 【言語理解:Lv-】 【採掘:Lv10】
[+採掘速度上昇][+採掘範囲上昇]
[+鉱物鑑定][+鉱物感知]
【アイテムBOX:Lv4】 【状態異常軽減:Lv3】
【自動回復:Lv4】 【魔力操作:Lv1】
【瞬発:Lv3】 【天歩:Lv1】 【暗視:Lv1】
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
更に完全な人間ではなくなったようだ。人間部分が96パーセントで、何が4パーセントなんだろうと思ったのだけど、あれしかないだろうなと思った。そう、あれとは魔物の事だ。
一種類の魔物を喰うたびに、1パーセントずつ人間部分が減っている。つまり、後九六種類の魔物を喰うと、ハルキは人間では無くなるわけなのだが、ハルキは対して気にしていない。
ハルキはそもそもこの山にいる時だけ魔物を喰っているだけであって、この山から出たら普通の食事をとろうと思っている。それに何よりデメリットは特にないからだ。
デメリットというか、魔物を喰い続けると魔人にはなる。魔人というのは、人間を超越した存在の事なのだが、魔人の話はいずれする事になる、そんな気がするから、今はやめておこう。
さて、今日はもう寝よう。そう心の中で思いながら、深い眠りへと落ちていった。