第十話 人間族VS悪魔族
今まで、一人だった。一人になりたがっている自分がいた。友達の事で、家族の事で、ハルキ自身が傷つかないようにするために。
でも、それは間違いだったようだ。昔、『人』という字は、人と人とが支え合って出来ていると誰かが言っていた。
だけど、昔のハルキはそれは間違いだと頑なに信じようとはしなかったんだ。
『人』という字は、人と人とが支え合ってるんじゃなくて、一方の人がもたれかかっているせいで、もう一方の人が仕方なく支えてるだけなんだって。
さっきも言ったけど、それは間違いだった。そんな事を今更人でない生物に教えてもらったような気がしたんだ。なんてバカバカしいのだろうか。
いや、今も昔もバカのままだったな。でも、それでもいいじゃないかって。
ハルキはそう思えたんだ。
今まで十五年間生きてきて、十五年目に気づくなんて遅すぎるんだろうな。こんな事、小学生でも分かるよ。
だからこそ、またハルキは再スタートを切り、動き出すのだ。これからも間違える事もあるだろう。でも、その間違いを認め、正していく為に。
それを実行するには、今のハルキのままではダメだ。生まれ変わらなければならない。だから今のハルキとは、ここでお別れをする。
そしてこれからは新しいハルキとなって、自分の為だけではなく、他人の為にも生き、強くなろう。
だけど、このアザゼルとの決着がつくまでは、今のハルキのままでいよう。それが、今のハルキの最後の仕事だ。
『だから協力してくれよ! これが僕の最後の戦いなんだから!』
『おう!』
喰われた相手に、こんなに優しくする魔物がいるのだろうか。……いや、いるな。ここに、ハルキの中に。
ハルキは自分の中の、今自分が出せる最高の答えを整理し終えた。だから、後はアザゼルを殺すだけだ。
右手に持っている剣を、【硬化付与】と【風纏】で、硬さと殺傷能力を上げ、その剣でアザゼルに斬りかかるが、勿論躱される。
が、そこでハルキは【風纏】の派生スキルである【風斬】で、斬撃を飛ばすが、それもアザゼルに容易に躱されてしまう。
……手数が足りないな。もう少し、攻撃を繰り出す速度が速ければ、攻撃を当てられる可能性も出てくるんだが。少し相談してみるか。
『おい、お前ら。攻撃の手数を増やしたいんだが、どうすればいい?』
『【魔力操作】と【魔力放出】と【風纏】を、同時に発動してみればどうだ?』
『【魔力操作】と【魔力放出】と【風纏】だな。分かった、試してみるわ』
スライムのライに言われた通りにハルキは左手から、【魔力放出】で魔力を放出し、【魔力操作】で魔力の形を剣にし、それを【風纏】で殺傷能力を上げる。
……維持するのが難しいな、これ。いつまでこれを維持出来るか分からない。なら、やる事は一つだ。
それは、維持出来なくなる前に、アザゼルを殺す! その為に、今まで魔物を喰って得たスキルをフル活用する。それしか方法はない。
【神速】を主な移動手段とし、【気配遮断】で気配を消しつつ、アザゼルを攻撃する。
音速を超えたハルキの動きには、やはり全く反応出来ないのか、ハルキの攻撃は全て命中し、アザゼルの血液が宙を舞う。
斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って──斬りまくっているのに、アザゼルは倒れない。それどころか、倒れる素ぶりすら見せない。
一体どれだけタフなんだろうか。……ハルキの単なる攻撃不足か。ハルキがアザゼルに付けた切り傷は、すぐに治癒してしまっている。
「こんな攻撃じゃあ私は倒せないよ? 今も彼女を呪いが蝕んでいってるよ? いいの? ねぇ、彼女死んじゃうよ? く、くははははは! そもそも君には私は倒せないから、彼女は絶対死んじゃ──」
「黙れ」
アザゼルの言葉を遮ったハルキは、こう言葉を繋げた。
「次で勝負を決めてやる。次の攻撃が、俺の最後の攻撃だ。もし、それでお前を殺せなければ、焼くなり煮るなり好きにしろ」と。
『おいおいおいおい! ハルキ、お前何言ってんだよ! 次の攻撃で勝負を決めるって、お前本気か?』
ライはこう念話で話してくるが、ハルキは『あぁ。次で決める。ライ、俺が今から言う事を一分以内に済ませてくれ。それまで、俺は時間を稼ぐから』と言って、無理矢理念話を切断する。
が、もうライはハルキが言った事を済ませてしまった。今からアザゼルと戦って、時間を稼ごうとしたのに。
……だが、早いに越した事はない。まずハルキは【魔人化】を最大許容範囲である二十五パーセントを解放する。
次にライに無理矢理言って解放させた【瞬発】の派生スキルである【畜力】で、筋力をチャージする。
精神が物凄い速度で擦り切れていく。が、現在の【畜力】の最大チャージ時間である十五秒までは耐えなければならない。
念の為にここで【威圧】の派生スキルである【拘束】をアザゼルにかけておく。後はアザゼルが攻撃して来ないのを祈るだけ──あ゛っ。
くっ、そっ。この事を頭に入れるのを忘れていた。アザゼルの権能、【平行時空】を。そのせいで、ハルキは体を斬り刻まれてしまった。
【平行時空】で創り上げた世界の方で、アザゼルはハルキの体を斬り刻んだのだ。
──ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。
体が痛いし、熱い。意識を手放したいくらいだ。……だが今は集中しろ。後、五秒だ。
──五、──四、──三、──ニ、──一、──ゼロ。来た、ハルキの最後の攻撃のチャンスが。ハルキは息を吸い、吠えた。【神速】でアザゼルとの間合いを詰め、「これで終わりだ!」と。
魔力で構成された透明の剣をアザゼルに向けて振り下げた。アザゼルはハルキの最後の攻撃にも、一切反応出来ずに斬られる。
アザゼルを斬るどころか消滅させてしまった魔力の剣は消え、その剣の持ち主であるハルキも全てをやり終えたかのように、安らかに眠った。
体を斬り刻まれ、血液を滴らせている事も忘れて。
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アザゼルを倒したことによって、呪いが解除され、苦しみから解放されたシルは唯呆然と座り込んでいた。
目の前に倒れている少年がたった一人で、六天魔に数えられているアザゼルを倒したのだから。
「……あなたは一体何者なの?」
呆然と座り込んでいるシルの口から言葉が漏れる。
ハルキはおぞましくて、寒気がする魔力と、とても暖かくて、どこか安心出来る魔力の二つを持ち合わせていた。
「まさか、魔人? ううん。そんなはずない。だって魔人になってしまったら、人の心を忘れ、こんなに安心出来る魔力なんて持つ事なんて出来ないもの」
ハルキは魔人なんじゃないかと、頭によぎるが、シルはそれを否定し、こう言葉を繋げる。
「ま、今はあなたを回復させる事が優先ね。目が覚めたら、あなたが一体何者なのか、教えてもらうからね」と。