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第8話 ヴァルク帝国

 〝ヴァルク帝国〟が擁した秘密工作機関〝鷹の爪〟

 

 それについて語るには、150年前までさかのぼる必要がある。


 当時、まだ〝統一政府〟は存在していなかった。いや、正しくは成立の寸前(・・)だった、か。


 人類が生きる唯一の大陸、ユールニシア。その大陸と付近にある諸島には、当時は100を超える国家が存在した。当然、お互いに利益を奪いあう仲であったし、過去幾度も戦争をしたことがある。


 が、そんな関係性であったにも関わらず人々は一つの巨大な国家を作る方向に舵をきったのだ。


 それは何故か?


 その理由は、至ってシンプル。無茶苦茶簡単なことだ。


 ただ単純にーー〝人〟同士で争ってる場合じゃなくなったのだ。


 〝魔王〟の出現によって。


 〝魔王〟とは、ユールニシア大陸から海を渡って北西に行った所にある魔大陸・アムレリアを治める存在の事だ。

 アムレリアには、人型で高度な知恵を持つ魔族や魔物が住んでいるのだが、数百年に一度、他の魔族とは一線を画す者が現れる。

 その者は、他の魔族や強力な魔物達を従え王となると、畏怖を込め〝魔王〟と呼ばれるようになる。


 この〝魔王〟が、現れたことが150年前に確認されたのだ。文献や長寿系の能力を持つ者に話を聞いてみれば、およそ300年ぶりのことらしい。どうやって確認したのかといえば、実に簡単で〝魔王〟が生まれるとアムレリアの上空に黒いオーロラが出るらしく、それが150年前に実際に出たということだ。


 それを知った人々は焦った。なにせ〝魔王〟という存在は本当の意味での化け物。

 300年前に居たという〝魔王〟は、たった一人で人間の軍10万を薙ぎ払ったというし、歴代の〝魔王〟の中には大陸一つを消した者も居たらしい。……まあ、それは神話レベルの話なんだが。


 それはともかく人間達は、自らの身ひいては、人類そのものを守るために話し合った。

 いままで、憎み合っていた者達も、小国の者も大国の者も関係なく。


 そして、出た結論が自分達の総力を、つまりは国家の全てを束ねることだった。

 自国の利益を優先して行動をすることがないように、国家という枠組みを壊し一つの巨大国家を作る。

 そういうことだ。


 もちろん、それは簡単には進まなかった。

 王政をひいている国家があれば、民主主義の国もある。考え方や法律もまるっきり違う。そして何より皆、自分の国に誇りを持っていたからだ。


 だが、脅威は目の前にある。ユールニシアからアムレリアまでは、直線で一万キロ以上離れているが〝魔王〟には常識は通じず、いつその刃がここまで届くか分からない。


 だから、人々は急いだ。王家がある国には、その王家の身分を保証し国民を納得させ、どうしても話を聞かない国には多少強引な手も使った。


 そうした経緯を経て、〝統一政府〟は段々と形づくられていったのだ。


 だが、一つの国家がその行く手を阻んだ。

 その国こそが〝ヴァルク帝国〟。大陸のほぼ中央に広大な領地を持っていると同時に、大陸最強の軍隊を持つ国であった。

 

 〝ヴァルク帝国〟皇帝であったリベリオル=ヴァルクは、交渉に訪れた者達を前にこう言い放ったという。「たかだか魔族の一匹程度になにを怯えているのだ? そんな腰抜けどものかわりに我が国が魔大陸へと攻め込み、その首を取ってきてやろう。その代わり、お前たちは新たに作った国家の全ての権利を渡せ」と。


 その傲岸不遜な態度に憤った者達は、最終手段に出た。

 今まで集まった全ての国々の総力を持って潰しにかかったのだ。

 もちろん、今から見れば双方共に愚か以外の何者でもない。だが、〝魔王〟への恐怖心がその目を曇らせた。


 しかし、実質一対百といってもいい戦争はすぐには終わらなかった。



 その理由こそが秘密工作機関でありながら全土にその名を知らしめた組織〝鷹の爪〟。

 情報収集から、工作活動、果ては暗殺まで、ありとあらゆる裏の仕事を世界最高レベルで行う者達。

 彼らの行動により、総力で勝るはずの軍は大ダメージを負い、首脳部も混乱させられーー


 ーー結果として〝統一政府〟側は撤退を余儀なくされたのだった。


 その結果に当然として〝統一政府〟側は焦った。

 そして、さらに間の悪いことにーー〝魔王〟が襲来してきてしまったのだ。


 〝魔王〟率いる魔王軍は、アムレリアから真っすぐユールニシアに接近していた。

 それを知った〝統一政府〟は絶望した。ああ、間に合わなかったと。

 しかし、〝統一政府〟の首脳部の一人がある作戦を思いつく。


 その作戦を行った結果、〝ヴァルク帝国〟は滅び、〝魔王〟は深手と一人の能力者による呪いを負い撤退したのだった。


 さて〝統一政府〟は、なにをしたか。

 それは簡単なこと。ただ単純に、魔王軍の侵攻上から人間を避難させただけだ(・・・)


 だが、それだけで良かった。

 

 魔王軍は、真っすぐこちらに向かってこちらに向かっていた。

 しかし、魔王軍がユールニシアにたどりついた時にはすでに人間はだれもおらずもぬけの殻。

 そのまま魔王軍は、警戒しながらも進みーーやがて、人がたくさん居る場所を見つけた。


 そう、〝ヴァルク帝国〟だ。


 そこで、魔王軍は攻撃をしかけ、〝ヴァルク帝国〟は応戦した。

 その結果は、先程述べた通り。


 かくして滅亡した〝ヴァルク帝国〟の国民を取り込み、〝統一政府〟は成立した。

 

 そして、〝ヴァルク帝国〟が滅びたと同時に、〝鷹の爪〟も消滅したハズだった(・・・・・)

 なのにーー


 (おいおい、なんで今更そんな遺物が出てきやがる……)


 目の前に居る男たちに彫られたタトゥー。それは、まさしく〝鷹の爪〟のシンボルマークだった。

 〝ヴァルク帝国〟の最後については〝統一政府〟により厳重に情報統制が行われており、その中にはもちろん〝鷹の爪〟の事も含まれている。俺が知っているのは、NoAが〝統一政府〟から良く依頼を受ける関係からであって、一般に出回るはずが無いのだ。

 

 つまり、模倣犯や愉快犯じゃない。とすると考えられるのは……


 (裏で生き延びていたってことか)


 依頼を完了するためにここに来たハズが、さらに大きな面倒ごとを増やしてしまった感が半端ない。

 が、とにもかくにも、報告の必要がある。……まあ、もっとも今すぐというのは無理なのだが。

 

 なぜなら、


 「……てめえ、どこでこのその事を知った? ……いやいい。とりあえず捕えさせてもらう」


 明らかな殺気を纏った男たちをどうにかしなきゃいけないからだ。


 「あっそ。とりあえずどこで知ったかは秘密だ。そのうえで、こっちもお前達を捕えさせてもらう。聞きたいことが山程出来たんでな。あ、一応だが聞いといてやる。今、投降すれば手荒には扱わないぜ」

 「……おい、お前ら。殺さなきゃいい。痛めつけろ!」


 リーダーの男が、そう叫ぶと男たちは一斉に武器を構えた。


 「物騒だな~、おい。……一応警告はしたんだ、恨むなよ?」


 そう言って、俺も短刀を抜き放つ。さあ、戦闘開始だ。

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