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第5話 罠

 洞窟の最奥にあった部屋。そこに踏み込んだ俺達の目に飛び込んできたものは……


 [うわあ、こりゃひどいな……]

 [完っ全に、破壊されてるね]


 文字通り、破壊つくされた室内だった。


 恐らくは人間の手によって、掘り作られたであろう部屋に広がる惨状。


 元が机であったものは、ただの木片の山とかし、ベットらしきものは原型が留めないほどに叩き壊されていた。他にも、棚やらなにかの実験器具らしきものなんかの成れの果ての山、山、山。

 最早、ここで人が暮らすことなど不可能な有り様だ。


 (報告書にあった資料なんかが、全くない。ということは、持てるものは持ち出して、それ以外は処分したといった所か……)

 

 [風、ちょっとこっちに来て]


氷に呼ばれ周囲を見回してみると、俺達が入ってきた入り口の反対側にあったもう一つの入り口が目に入った。

 

 そこから、隣の部屋に入ると氷に背中が見え、その隣に並ぶとそこに見えたのはーー





 ーー大量の魔物の死体だった。


 [なんだ、これ……]

 [見て、風。そこに転がってるのはグレンチーター、向こうのはジャイアントビー、あっちのはアクアスネーク。他にもたくさんの魔物の死体があるけど、どれもこれもこの辺りには絶対に居ないはず(・・・・・・・・)のBクラス以上の魔物だよ]


 確かに、ここは試しの森にある洞窟。そしてこの森にいるヤツらの平均クラスはDだ、Bクラスの魔物なんて居るはずが無い。


 [ああ、明らかに外から持ち込まれてるな。しかも、それぞれ生活圏も違う魔物たちだ。世界各地で集めてきたんだろう。だけど、なんのためにだ?]

 [それは分かんない。けど、少し見ただけでも明らかに手が加えられた(・・・・・・・)痕があったから、何らかの実験が行われてたのは、確かだと思う]

 [なるほどな。ということは、これが≪影狼≫のいう〝痕跡〟ってことか。確かにこれは持ち帰りたくはないな]

 [あれ? 持ち帰りたくないから持ってこなかったの?]

 [あ、いや、そういう側面もあるかなと思って。なにより、魔物の死体は一定の条件下ではアンデッド化することもあるから。……幸いここは、その条件には当てはまら……な……い……はずなんだがな……]


 俺がそう言ったからいけなかったのだろうか? 


 段々と言葉尻がすぼんでいった俺の目の前に広がるのは、明らかに死んでいたはずの魔物達が、のろのろとではあるが起き上がっていく姿。その数、百体超。


 [……ねえ、風。これって明らかに]

 [アンデッド化してるな……]


 俺達の困惑を嘲笑う様に、


 「「「ギャグアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」」」


 アンデッド達の咆哮が、響き渡った。


~~~


 [ちっ。とりあえずこいつら片づけるほうが先か。行くぜ、氷]

 [OK]


 そういうと二人同時に駆け出す。


 幸いこの部屋は、先程の部屋やここまでの道中の洞窟に比べてだいぶ広い。戦闘は十分に出来る。


 俺は、駆け出して魔物の懐に入り込み、素早く居合いを行ってその首を飛ばし、さらに翻して胸に突きさした。


 アンデッドは、不死身の魔物ではあるが、絶対に倒せない魔物じゃない。その弱点は、魔物の胸に存在する魔石というものだ。この魔石とは、他の動物における心臓の役割を果たしているものであり、魔物の死後、その魔石に魔力やその周囲の瘴気をため込むことによってアンデッドと化す。


 つまり、魔石さえ壊してしまえばアンデッド化の要因となったものが拡散し、アンデッドは沈黙する。


 ってことで、今やるべきは淡々と魔石を狙う、これ一択だ。


 一体を倒した俺の元へ、左右から虎型のアンデッドが襲い掛かってきた。

 俺は、足の裏で空気を小さく爆発させ、無理矢理前方に回避。前方に空中でくるりと回りながら着地した後ろでは、二匹のアンデッドによる激しく地面が破壊される轟音が炸裂した。


 内心冷や汗を掻きながらも、後ろに素早く≪風刃≫ーー風を飛ばし切り裂く技ーーを放ち、魔石ごと真っ二つにして黙らせる。


 と、後ろを向く俺を好機と見たか今度は、三体が襲い来る気配が。


 それを感じ取った瞬間に一気に上へ跳び上がり、くるりと反転して天井に着地、短刀を突きさし、ついでに天井に思いっきり足を突き入れ固定した。


 その下、つまり先程まで俺が居た地面は先程と同様に無残に砕け散っていた。

 それを起こしたアンデッド三体は、逃げた獲物ーーつまりは俺ーーに目を向け唸り声を上げている。


 そいつらに≪風刃≫を叩き込みながら考える。


 勢いよく飛び出したはいいがはっきり言って、この数を刀で切るのはキリがない。俺がこうしている今も、(こおり)で作り出した短刀二本を使い、切った張ったの大立ち回りを演じている(ひょう)には悪いと思うが。


 この状態でもいずれは、勝てるだろう。が、それがいつまで続くかは分からない状況だ。で、こういう場合は一発の大技でいっぺんに沈めるほうが楽なんだが……。

 今いるこの場所は、地下。つまり下手に大技ぶっ放すと、そのまま生き埋めになりかねない。

 それは御免蒙りたいため、何らかの対策が必要になる。


 そのためには、必要となるのは……


 [氷、ちょっといいか]

 [え? ていうか、今風どこ?]

 [上]

 [上? ……ちょっと、何してるの風!? そんなとこで油売ってないで手伝ってよ!]

 [良いから、聞けって……。アンデッド共を一掃する手がある。手を貸せ、あ、右後ろから来てるぞ]

 [!? ……分かった、手伝うからなるべく早く言って。もうキツイよ!!]


 俺の忠告を聞き、蛇型のアンデッドを切り飛ばしながら、氷から肯定が返ってきた。


 [良し、まずは……]


~~~


 [分かった。合図は、風に任せるよ]

 [了解]


 氷と作戦を示し合わせた俺は、タイミングをひたすら待つ。


 そして……


 [今だ、行くぞ!]

 [了解!]


 アンデッド達がある程度固まったのを見た俺は、入ってきた入り口から奥へと吹き込む強烈な突風を発生させた。それと同時に、一気に氷が先程の部屋に≪転移≫で移動。


 それを確認した俺も、風による≪転移≫で移動。これで部屋に居るのは、アンデッドだけだ。


 [氷!]

 [OK、行くよ。≪千年氷結≫!」


 地面に手をついた氷がそう叫んだ瞬間、(こおり)とそれが発する凄まじい冷気が地を這いながら、隣部屋に流れ込んでいく。

 そして、たちまちのうちに、壁、床、そしてアンデッドを問わず氷が覆っていった。


 だが、これだけではアンデッド共は動きを止めない。閉じ込められた氷の中で、今も外に出ようと蠢いている。


 だからこそ、アンデッドの動きが止まり、氷によって崩落の危険が無くなった今、大技を叩きこみ終わらせる!


 [風、決めて!]

 [任せろ! ≪旋風連刃≫!]


 氷が後ろに下がると同時に、俺は前へ出る。


 そのまま右手を前に掲げ、溜めた魔力を開放、能力を発動した。



 そしてーー暴風が吹き荒れる。



 手から放たれた暴風は、アンデッド達が閉じ込められた部屋へと吹き込み、その全てを蹂躙していく。

 その風は剛力を誇るアンデッドでさえ割れない程に固い筈の氷をいとも簡単に中のアンデッドごと切り裂き、吹き飛ばし、天井や壁、床の氷を削り、へこませ、砕き割っていった。


 (かぜ)が逆流しないよう氷によって張られた氷壁を取り除き、俺達が再び入った部屋の中にはもうーー動くものはなかった。

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