第3話 任務開始
すみません、結構遅れました。
今回、説明要素多いです。
「うん、これくらいで良いか……。氷、準備はOKか?」
「OKだよ」
≪音猫≫による依頼伝達から五日後。
その間学校があった俺達は、今日から本格的に動くため装備の確認をしている所だ。とはいえ、俺も氷も最低限の胸当て、腕、足の保護の装備しかしていないし、その上から防御の面から見れば申し訳程度にしかならないフード付きローブを着込んで終わりだ。
こうなってる理由は、二つ。一つは動きやすさ重視のため。もう一つの理由は、俺達には奥の手があるからなんだが、まあ、こっちの方はおいおい説明するとして……。
「じゃあ、行くか」
「うん」
そう言うと俺達は、NoAの象徴である仮面を被り、その後俺は右肩の下辺り、氷は右顎の辺りに手を持って行き、手に魔力を集めてその部分に魔力を放出していく。すると、その部分にタトゥーが浮かび上がってくる。
実はこのタトゥー、少々特殊な魔道具ーー世界各地に存在する迷宮からの発掘品の総称ーーによって刻まれており、自身の魔力を当てることにより出したり消したりすることが出来る。そのおかげで、俺達は周りに身バレずに済んでいるといっても過言ではないんじゃないだろうか。だって高校でタトゥーなんかしてたら目立ちまくるからな。非常にこれはありがたい。
しかもこのタトゥーはそれだけじゃない。量は多いとは言えないが少しなら魔力をストック出来るという便利な機能付きもある。これもありがたい機能だ。
そしてタトゥーが浮き出たことを確認した俺達は、調査地域ーー試しの森に向けて出発したのだった。
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数日前
「二人は昨日の仕事の時の事、覚えてるよね?」
「ああ、もちろん」
「私も大丈夫」
昨日、俺達は試しの森にて見回りを行っていた。
試しの森では、ギルドからの依頼でS~Aランクのパーティーが持ち回りで定期的に見回りを行っている。これは後進の育成の場として知られるこの森に凶暴な魔物が現れていないかを調査し、見つけたら駆除するというもので、初心者の安全を守る重要なものだ。もちろん、三つの都市に近いことも関係しているだろうが。
そして、昨日は俺達が担当の日だったのだ。
「そこで出てきた狼型の魔物。私は、二人の話やニュースを聞いただけだけど、それでもやっぱり……」
「異常、か」
あの時の俺達は、試しの森の背後にある山ーーノバイス山にて生態系の変化やボスの座の入れ替わりがないかの調査の帰りだった。その時ふいに、轟音が聞こえ何事かと思った俺達は、すぐさまその場所に急行した。
そこで俺達が見たのが、巨大な狼だった。
明らかにこの森には、生息していないはずの狼だったため少し動揺したが、初心者パーティーが襲われているのを見てすぐさま倒したのだった。
「ええ。あの森とノバイス山は全体的なレベルがとても低くて一番安全なFクラスーー都市の内部ーーの次に安全なEクラスに指定されている場所。にも関わらず、推定Aランクの魔物が現れた。これは、かなりの異常よ」
「あの森で自然発生した……は、考えられないな。あそこまでの強さに成長するには、いくら魔物といえども時間がかかる。それを他の見回り組が見逃すとは思えない」
「それに、外から入ってくるのも厳しいんじゃないかな? 都市がある南、西、東から来ようものなら都市警備隊か街道警備隊に発見されて駆除されるだろうし、あのくらいの魔物が北のノバイス山を越えてきたなら、山の生態系も変わってなきゃおかしいけど、それもなかったから」
「うん、流石に頭の回転が速いわね。でね同じことを、自治政府も考えたみたいなのよ」
「なるほど、じゃあ依頼の内容は……」
「試しの森にて出現した狼型魔物の調査、そして背景調査よ」
「うわ、一気にキナ臭くなったな……。やりたくねえ~」
「まあそういわずに、ね。依頼を任されるってのはリーダーから信頼されてるってことよ」
この世界は、三つの大きな大陸で構成されており、その中で一番大きな大陸はユールニシアと呼ばれている。
その大陸を領土とする国々が集まって作られた集合体、それがユールニシア大陸及び諸島統一連合政府ーー通称〝統一政府〟。
統一政府に率いられている大陸はさらに、連合首都ユーシアと二十にも及ぶ自治州に分かれていて、
今俺達が住むここも自治州の一つ。正式名称を第10自治州という。そして、ここを修める役割を担うのが自治政府というわけだ。
つまり、自治政府という存在はその自治州では最高権力機関であり、そこからの依頼がなされ、それが俺と氷に回されたというのは確かに信頼されていると言って良いんだろう。……普通に考えれば、だが。
「……どう考えても、適当に面白がって回してきたイメージしか沸かないんだけど」
残念ながら俺の知るあの男は、そんな真面目な性質ではない。今も、そのヘラヘラ顔が脳裏を……あ、イラッとする。
「ハハハ……」
「まあいいや。さっさとすまして直接文句言いに行くとするよ」
「じゃあ、そういうことで依頼は伝えたからね。あ、期限は特にないけど出来るだけ早く、だって」
「了解」
そして、≪音猫≫は去っていったのだった。
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「さてと、この場所も六日ぶりか」
現在、俺達は狼を倒したあの地点に居た。
「で、発見された痕跡ってのはあっちか?」
「うん、情報によれば間違いないよ」
依頼を回されたとはいえ、その間俺達には授業がある。だから、その間に他のメンバーに辺りを調べてもらっていて、今からその情報を元に調査を開始するところだ。
「よし、じゃあ行くか。と、その前に無線を」
そう言いながら、俺はローブのポケットから小型の機械を取り出して、それを耳にはめた後、それから伸びているプラグを仮面の内側についているマイクに接続した。
[あ~、あ~。氷聞こえるか?]
[大丈夫、感度良好だよ]
隣で同じように接続を行っていた氷からすぐに返事が返ってくる。
これは、小型無線マイクというもので離れていても話が出来る機械だ。充電で稼働するが、もし切れても魔力を流せば使用可能。そのため壊れるか、魔力が尽きるかしない限りは、ずっと使い続けられる上に消費する魔力の量も少なくて済む。通信距離は大体五キロ程。だが場所によっては著しく下がってしまう欠点もある。が、全体として優れものだ。
マイクがちゃんと使えることを確認した俺達は、改めて進みだした。