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第1話 学校

 「お、風翔。うぃ~す」


 朝登校した俺ーー青井風翔が教室のドアを開けた瞬間、軽い挨拶が飛んできた。


 「ああ、雄太。ういっす」


 俺に声をかけてきた級友、上野雄太に挨拶を返しながら、その後ろの席に座る。


 「なあ、風翔聞いたか、あのニュース」

 「何の?」


 雄太が目をキラキラさせながら、俺にそう聞いてくる。

 だが、大抵コイツがこういう目をしているときにしてくる話は、二つに絞られる。女関係か、またはーー


 「何って、出たんだよ。NoA(・・・)が」


 --冒険者関連か。


 どうやら今回は、冒険者の方らしい。


 「お前ホント好きだよな」

 「はあ~、なんでこの良さが伝わらないかな~。いいか、よく聞けよ。NoAってのはすごいんだぞ。たった十人ーー〝1〟≪光獅子≫、〝2〟≪時鹿≫、〝3〟≪嵐龍≫、〝4〟≪雷虎≫、〝5〟≪氷熊(ひぐま)≫、〝6〟≪炎鳥≫、〝7〟≪影狼≫、〝8〟≪水蛇≫、〝9〟≪空鯨≫、〝10〟≪音猫≫だけで、世界に数多あるパーティーの中でたった三つしかないSランクを維持してるんだぜ」


 ……知ってるって。


 「それでな、今回は試しの森でピンチになった初心者パーティーを颯爽と現れて助けたんだってよ」


 それも知ってる。……颯爽かは知らんが。


 「で、その助けられたパーティーのリーダーがテレビのインタビューで感謝しっぱなしなんだぜ。あの二人が来なかったら、今自分はここにはいないだろうってな」


 それは知らなかった。でも確実にそうなってたことは分かる。


 ……さて、ここまで来ればもう分かると思うが、何故興味が無さそうな俺がこんなに知っているか。別に興味なさそうに見えて実は、滅茶苦茶あるってわけじゃない。単に俺がーーNoAのメンバーだからだ。しかも、今回は当事者。俺の数字は〝3〟、名は嵐龍で助けに行った二人の内の一人なのだ。ちなみに最初が自分の属性、俺で言えば嵐ーーつまりは風で、後ろが背負う獣を表している。で、この数字は、メンバー同士で戦った時の勝った順。といっても、最初にやったきりなので今はどうかは分からないが。

 ただ、もちろんこれを知っているのは同じNoAだけだ。だからーー


 「いや~、マジでカッコいいよな~。絶体絶命、五人の命は風前の灯。もはや、ここまでかっていう時にどこからともなく現れて、魔物を一瞬で切り捨てたっていうんだからな~」


ーーこれを正面切って聞かなきゃいけないのだ。正直恥ずかしいなんてもんじゃない。だが、やめるように言えば必ず何故? と聞かれて答えなきゃいけなくなる。別に、適当な理由を出せばいいんだけど、こいつはそういう所で妙にカンが良いのだ。おかげで、高校の入学式で出会ってから、高2の現在までずっと聞き続けるハメになっている。


 「まじで、ホ・ン・ト、かっこいいよな~」


 正直ホントにやめてほしい。ぶっちゃけ魔物の相手するよりも精神的にダメージが来る。とはいえまだ、そうまだ今の状況はマシだ。もし、こいつに身バレでもしたらと考えると本当にヤバい。マジでヤバい。はっきり言って恥ずかしさが軽く限界突破だ。今までの精神的ダメージと合わせて普通に死ねる気がする。


 「--と。お~い、風翔。聞いてるか~?」

 「あ、ああ、悪い悪い」


 どうやら相槌を打つのを忘れていたらしい。

 俺は、雄太への苦情を考えるという名の現実逃避をやめて、雄太に意識を向ける。


 「まったく、ちゃんと聞いとけよ~。……それでな」


 いや、まだ話すのかよ……と、再び現実逃避に戻ろうとした俺に救いの手が差し伸べーーられたという訳ではないだろうが、結果的に雄太の意識を逸らす出来事が起こった。


 ガラッというドアの開く音と共に入ってきた一人の少女。


 すっきりとして鼻梁に、大きな瞳とふっくらとした唇を持つ、少し幼さの残る可愛らしい顔。何より目立つ白髪は、肩の長さで切り揃えられ左のこめかみあたりから一本の三つ編みが垂れている。そして身長150㎝前後の小柄な彼女の前面にある女性の象徴と呼べるそれは、慎ましやかだがしっかりと存在を主張していた。……とまあ、長々と語ってみたが要するに美少女だってことだ。


 「はあ~、今日も可愛いな~、氷華ちゃん」


 彼女ーー宮田氷華に意識が行き話が逸れた事に俺は、ほうっと息を吐いて肩の力を抜いた。


 「なあなあ、風翔って幼馴染なんだろ。仲取り持ってくれねえか?」

 「またその話かよ。何度も言ってるだろ。今はしゃべってねえって」

 「いや、で「お~い、お前ら~、席着けよ~。HR始まるぞ~」……ちぇっ、この話はまた後だな」

 雄太の話は、教室に先生が入ってきた事で中断された。しかし


 (はあ~、まだあきらめてねえよな~。さすがにこれ以上はめんどくさいな。……逃げるか)


 とりあえず休み時間は逃げることに決めた俺は、こっそりとため息をついたのだった。


~~~


 ここはとある町のとある路地の最奥。大通りから何度も曲がった所にあるここには人々の声も、魔動車ーー動力は魔力だーーの騒音も伝わってこない。そんなこの場所は、一部の者達からはある名前で呼ばれている。その名は≪獣道≫。本来の意味では無く、獣へとつながる道という意味のこの言葉が指し示すものはただ一つ。


 「指定された場所は、ここか……。もうすぐ約束の時間。本当に来るのか?」


 今その獣道に、サラリーマン風の男がやってきた。だが、その纏う雰囲気は並みの者ではあり得ないものであり、明らかにただの会社員では無い。


 「お待たせしたわ。あなたが、依頼主(クライアント)?」


 と、突然男に声がかかる。女の声だ。


 「っ!! 誰だ!?」


 男は、即座にスーツの内側に手を突っ込み小ぶりのナイフを取り出した。そのナイフには、いつも間にか炎が纏っている。男の能力だろう。


 「そんなに警戒しなくても良いわ。私は≪音猫≫。NoAの窓口役よ」

 「信用できん。姿を現せ!!」

 「はあ~、ビビりね。……まあいいわ」


 そう女の声が答えると、最初から居たかのように背後に女が現われた。いや、正確にはらしき(・・・)か。

 何故なら、その人物は仮面をかぶっていたのだから。そして、革鎧からのぞく左肩には、〝10〟と〝猫〟のタトゥーが。


 「本物か?」

 「いきなり失礼ね。本物よ?」

 「……やはり、信よ……」


 信用できないと、再び言おうとした男の口は不意にとまり、その目は自らの右手に注がれていた。

 そこには、先程取り出したナイフの柄だけが(・・・)握られていた。炎を纏いながら銀に輝いていた刀身は、今はもう存在しない。


 「な……に……が?」

 「最終通告よ。次くだらない事を言ったら次はあなた」


 その言葉からこれをやったのは、目の前の女だという事は分かった。しかし、どうやってかはまったく分からない。男に背にはダラダラと冷や汗が流れている。

 

 「わ、分かった。悪かった。依頼の話に移ろう」

 「はあ、まったく。自治政府もなんでこんな小物を使いに出したのかしら」


 女は、あきれた声を出しながらも仕事の話に入っていく。

 


 ここは、≪獣道≫。世界最強のパーティーへとつながる道。

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