プロローグ
初めましての方は、初めまして。もう一本でご存じの方は今回もよろしくお願いします。あいうえおです。こっちでは水渡というペンネームで書かせていただきます。二本同時進行のためペース遅くなる可能性が高いですが、お付き合いしていただけるならよろしくお願いします。それではどうぞ。
ここは宇宙に幾つも浮かぶ星々の一つ≪レーオス≫、その星中の東に存在する森。この星に住む人間からは“試しの森”と呼ばれる場所。その森中にてーー
「ハアハアハア……。くそくそくそくそくそ!! 何なんだよ!! おかしいだろ!!」
「ルー、騒いでないでさっさと走って!! 死にたいの!?」
昼間でも暗い森の中を五つの影が走る。その足取りは、その息遣いは荒い。今にも森の中に無数に広がる木の根に足を取られ転がってしまいそうな程に……。
と
「ルー、ミュウ、こっちだ!!」
腰に短剣を帯び身軽な革鎧に身を包んだ男が、逃げ道を他の四人に示す。もちろん走りながらだ。
「分かった。凛、ミュウはそのまま走れ!! ルーは俺と壁を!!レンはそのまま索敵と道の確認を!!」
「「「了解!!」」」
大剣使いの男が指示を出すと、刀ーー長さから脇差だろうーーを差した15、6くらいの少女ーー凛と、肩にライフルを担いだ凛と同じくらいの少女ーー銃使いと呼ばれるーーミュウは、前方に居るレンに続き、直剣を帯びたルーは指示を出した男と共にその場でくるりと振り返った。
「いくぜ、ルー。カウントスリーだ」
「分かったぜ、リーダー」
そう確認を取っていると、まるで二人に襲い掛かってるように轟音が響き渡った。
「来たぞ!! 集中しろよ……。3、2、1、今だ!!」
「≪堅土壁≫!!」
「≪樹木壁≫!!」
二人がそう叫ぶと同時に、彼らの五メートル程前の土が盛り上がり、さらにその壁に土から生えてきた太い木が絡みついていく。あっという間におよそ七メートル程の壁が出来上がった。
その直後にーードンッ!!という凄まじい音が辺りに響き渡る。
「よっしゃ、野郎、見事に引っかかりやがった!!」
「馬鹿野郎が、そんなことで喜んでる場合か!! さっさと逃げるぞ!!」
「あ、待ってくれよ。リーダー!!」
そういって追ってくるルーを見ながら、仲間からリーダーと呼ばれている男ーーレッズは考える。
なぜ自分達がこんな状態になっているのかを。
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(俺は、いや、俺達は何故こんな状態に陥っている? だってここは、試しの森。初心者に優しい事で有名なあの森だぞ)
そうここは試しの森。南、東、西の三方を都市に囲まれており、残る北には山があるが、そこのボスと言われる魔物は精々がCクラスの下位といった強さしかない。そしてそんな強さの奴がボスになれるということは、当然山とこの森の周囲にはそれ以下の奴らしかいないのだ。だからこその試しの森。初心者冒険者達が野宿や魔物との戦闘に慣れるための場所で、世界的にも有名なEクラスーー下から二番目に安全とされる場所。なのに……
(なのに、なんで……なんで、Aクラスが居るんだよ!!)
そう今彼らを追い立てる存在、それはーー本来なら絶対に居ない、否、居てはならない異常だった。
(山のボスが進化した? いや違う。前に聞いた話じゃボスは確か、蛇型の魔物だったはず。でも今俺達を追っている奴は、狼型。いくらなんでも系統が違いすぎる。なら、外から迷い込んだ? ……いや、良い。兎に角今は逃げる事を……ッ!!)
走りながら考える、そんな余裕とも取れる事をしたのがいけなかったのか。だが幾らそれを悔いようとももう遅い。一瞬なにかが頭の上を過ぎていったのを感じ取り、思考を打ち消し前を向き直ってみれば、前を走っていたレン達のさらに十メートル向こう。そこにーー後ろにいたはずの魔物が居た。
~~~
「おい、なんでこいつがここに居るんだ!?」
「いきなり跳んできたのよ!!」
そう問えば、普段は冷静沈着な凛が大声で返してくる。
「くそ、一回のジャンプで壁越えて先周りしやがったのかよ。化けもんが!!」
「どうしよう。このままじゃ」
「どうもこうも、こうなったら戦うしかねえだろ!!」
「無理言わないでよ!! 勝てるわけないじゃない。私達はEランクパーティー、初心者なのよ!!」
「じゃあ、このまま黙って食われろってか。冗談じゃねえ!!」
俺達の動揺を見透したか、その大きく裂けた口の口角を吊り上げて笑ったように見えた。
そして、獲物を狩るためにジリジリと近づいてくる。当然獲物は俺達だろう。
「やばい、近づいてくる」
「ちっ。俺はやるぞ。リーダーあんたは?」
「……やろう。このまま何もやらずに終わるのは癪だ。ならせめて奴を道ずれにしてやる!!」
「さすがだ、リーダー。行くぜ」
「グスッ。……分かった。私もやる」
「ああ、俺もやるぜ」
「ミュウ。残るはお前だ。どうする?」
いつの間にか泣いていた凛も、いつもと違い暗い表情を浮かべているレンも乗ってくる。
「……分かったわ。ここまで来たなら一蓮托生。死んでも一緒よ」
「すまんな。よし皆いくぞ」
そして悲壮ともいえる覚悟を決めた俺達は、決してかなわない相手に特攻をしかけーー
ることは出来なかった。いや、する必要が無くなった。
何故ならば、特攻を仕掛けようとした相手はズッウウウウウウンという音と共に崩れ落ちたからだ。
~~~
(な……に……が、起こった?)
俺は信じられなかった。目の前の巨大な化け物が突然地に伏したことが。ただ、何度目をこすってみても、何度頬を叩いてみても、目の前の状況は変わらない。まるで自立駆動していたロボットが、電池切れを起こし唐突に動かなくなるように、それは起こったのだった。
(本当に何が……うん、上に誰か居る?)
巨大な狼の死骸の上。そこに彼らがいた。いや、彼女かもしれない。だが、どちらにせよ。その姿は分からないだろう。
だってその二人組は顔を隠すための仮面をかぶっていたのだから。
「おい、なんだあいつら?」
「ほんとだ。いつの間に」
どうやら、仲間達も気づいたようだ。
「……おいお前ら。あの仮面……」
「うん? どうしたレン……そういやなんか着けてんな、変なの」
「違う!! そうじゃない。あの仮面に描かれてる絵。何かに見えないか?」
「絵? ……確かに書かれてるけど、何かしら? よく分からないわ」
「あれは、龍の顔だよ。それにもう一人は、熊の顔だ」
「ふう~ん、レンってやっぱり目良いのね。それで?」
「それで? じゃない! それを聞いて思い出さないか?」
「何を?」
「~~~っ!! ならこういえば分かるか? 龍の仮面の方の右腕に、龍のタトゥーと共に“3”の数字、熊の方は右顎の所、仮面が少し駆けている所に、熊のタトゥーと“5”が刻まれているっていえば」
レンのその言葉を聞いた俺の頭に、電気が走った。
動物が描かれた仮面、体のどこかに刻まれた動物と数字のタトゥー。それに当てはまる者達と言えば一つだけだ。
ランクが高くなればなる程に構成メンバーが多くなるのが通常のこの業界で構成人数は、わずかに十名。そして知名度の高さに対して、その素性は一切不明。顔を仮面で隠し他のパーティーとは一切組まない。ただその実力は明白。年に一度パーティーに依頼を仲介する組織であるギルドが主催する≪武闘祭≫において、たった一人だけを出場させ限度の十人でそれぞれのパーティーから選抜されたチームの群れを物ともせずに優勝を勝ち取る姿はまさに怪物。それこそがパーティー最上位のSランクの一つであり、そして全パーティー中最強とされる者達ーーSランクパーティー≪NoA≫
俺が、それを思い出すと同時に狼の上にいる二人がこちらを振り向いた。
「お前ら大丈夫か?」
「あ、ああ。助かった。礼をいう」
「そうか。なら俺達はもう行く」
そう片方が男の声でそう言った瞬間風が吹きすさび、俺は思わず腕で目を覆う。そして風がやみ、再び前を見たがーーもうそこに二人はいなかった。
「あれが、伝説と呼ばれる奴らか」
俺の一言は、先程吹き荒れた風の余韻に消えていった。