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初仕事 その4

ここまでお読みいただいてありがとうございます。


スーアが仕事を始めます。


ではでは~


「えーと。どうしたの?」

「・・・」


「何か、用かな?」

「・・・」


スーアは困っていた。

一角ウサギが警戒して近寄ってこない。


その原因はなんとなく予想がついていた。

2人でいるからだ。

一角ウサギは、相手が個体だと突進してくるが、複数だと警戒して逃げていく。

今、明らかにスーア()を警戒している。


「あのー、何か用ですか? 俺、仕事にならないんだけど」

スーアは、しびれを切らしたように少し抗議を含めた口調で原因の彼女に問いかけた。


「・・・」

少女は、何も答えなかった。


「調子が悪くなったなら、街まで送っていこうか?」

『・・・ょ』

少女が何かを小声で口にした。


「ん、何?」

スーアは、駆除対象たちの動向を伺いながら、少女の言葉に耳を傾ける。


「怖くないの? こんなに心細いのに!」

少女は緊張が破裂したように吐き出した。


「怖いよ。メッチャクチャ緊張してる」

「嘘。 臆病なわたしをバカにしてるでしょ」

「そんな余裕はないよ。逃げるなら、早めに逃げたいくらい」

「そ、どうしてよ。逃げだすの?一角ウサギ相手なのに」

スーアは、彼女の主張が少し面白かった。

【一角ウサギ相手】に心細くなっているのは彼女の方だ。


「数の問題だよ。逃げる体力のある間に逃げないとウサギが相手でも危険だしさ」

「何よ、意気地なし」

「はい。俺は臆病で意気地のないオークです」

スーアは、揶揄(からか)うように吐き捨てる。

「うーーーー」

少女は唸るだけだった。


「じゃあ、世間話も終わりみたいだし、俺、行くわ」

そう告げるとスーアはスタスタ歩き出した。

本音は、少女が煩わしかった。

仕事の邪魔をされた上に難癖つけられてはたまったものではない。

見た目は、姉に並ぶほどの美人でも所詮は人族。

心の奥では、自分や亜人を見下しているかもしれないと思うと人族の祖父たちには悪いが交流を持ちたいと思わなかった。


「バカー!どっか、行っちゃえー!」


後ろで大声で少女が叫んでいた。

(はいはい、どっか、行きますよー)

スーアは、声に反応せずに仕事の場所取りに専念した。


 = = = = =


≪ドドッー≫

≪ドコッ≫

≪キュー!ドサッ≫

「ふー、はい、6羽めっと」


スーアは、一角ウサギの角を折り、腰の雑納に放り込む。

「立って待ってるだけで、襲ってくるくらいだから、本当に増えすぎたんだな」

何気なく周りを見渡すと見覚えのある少女が一角ウサギの突進に追いかけられていた。

「おーおー、頑張れよー」

スーアは、心から逃げる少女にエールを送っていた。

「さて、そろそろ、お弁当をいただくとしようか」

しかし、心の奥は弁当に向けられていた。


スーアは、放牧地から森のはずれに移動して、薪や柴を集める。

転がっている手ごろな石で簡単なカマドを作って、火を起こす。

「これで、落ち着いてお弁当がいただけます」

一部の魔獣を除いて、野生の動物は火を避ける。

一角ウサギも例外ではなかった。


外套を敷布代わりに敷いて、ヴェルンお手製の弁当を置く。

鍋に水筒の水を注ぎ、お湯を沸かす。


お湯が湧くのを待ちながら、ウサギに追われる少女の姿を見物する。

べそをかきながら逃げる少女。


「意外と持久力あるなぁ」

スーアは、少女を眺めながら、湯が沸くのを待っていた。


木製の湯椀に杓で白湯を注ぎ入れ、ハチミツを垂らして混ぜる。

「うん、甘い」

スーアは、満足そうにひとりごちると弁当の包みをほどく。


なぜ、スーアは少女を放置しているのか。

一角ウサギの突進は、体を縮め跳躍したときが威力がある。

走っている間は、狙いも定まらず、避けるのは容易なのだった。

万が一、走っている間に角が当たっても、悪くて打ち身で痣ができる程度で、危険はなかった。


スーアは、相変わらず逃げ回る少女を横目にヴェルンの作ってくれた弁当に舌鼓を打っていた。

茹でた腸詰を薄焼きパン(チョイベス)で巻いたモノ。

大公都ではありふれた料理の一種だが、調味料が違っていた。

卵と酢と植物油を混ぜたモノだった。

ヴェルンが【旦那】さんに教えてもらったらしい。

トロッとした舌ざわりと酸味が食欲をそそる。

細切りの根菜と一緒に食べると食感と相まって、口が飽きなかった。

あっという間に3つ平らげてしまった。

ふと、母親に≪よく噛んで食べなさい≫と叱られたのを思い出し、苦笑いをした。


「そろそろ、加勢しようか」

スーアは、ひとりごちると食後の運動とばかりに肩を回して大剣を持って少女に方へ歩き出した。


 = = = = =


「おーい、こっちこっち」

スーアの呼ぶ声に少女が気付いた。


勢いよく、というより死に物狂いに駆け寄ってくる。


「あーあ、よっぽど怖かったんだな」

スーアは、少女の形相から、その具合を知った。


少女がスーアの後ろに隠れようとする瞬間、スーアは半身を翻し、一角ウサギの角を躱して頸をねじ伏せた。

「ほら、角折って」

「え?」

「君の仕事だよ。思いっきり」

暴れる一角ウサギをスーアが押さえつけている間に少女が角をへし折った。

「キュー」

角を折られた角なしウサギは、トボトボと森に戻っていった。


「え?逃がしちゃうの?」

「食べもしないのに殺すのは、かわいそうだよ」

少女は、目の前のオークが優しい人だと知った。

いかがでしたか?


スーア君、基本的に気の優しい少年です。


次話をお待ちください。

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