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初仕事 その2

ここまでお読みいただいてありがとうございます。


スーアは、仕事を決めてきました。


ではでは~

食卓を囲んで夕食。


ヴェルンの料理の腕は上達してきている。

小さいときから器用で母親と一緒に料理を作り、父親の仕事のまねごとをしていた。


両親を流行り病で亡くして、父親の師匠のラヒトに引き取られてからは、料理を引き受けていた。

ラヒトは、料理といえば、煮込みしか作らない。

感謝はしていても、譲れないところがあったヴェルンが、努力を惜しまなくなったきっかけだった。


それも<旦那のお嫁さん>という目標ができてからは、異邦人の旦那の家計を支えることも視野に入れて奮闘している。


今晩は、残り物を整理するために干し肉がメインの煮込み。

肉屋でただで骨をもらってきて、煮込んだ煮汁に塩を振ってスープで肉と野菜を煮込んでいた。

旨味が増して干し肉のエキスと相まって味に深みが増していた。

穀類は挽いて卵白と併せて練って団子にし、炙った後にスープに浮かべた。


「あの材料でこんなに美味い料理ができるんだぁ」

「へへー、これで料理も旦那に褒めてもらうんや」

スーアが料理を褒めるとヴェルンがのろけ始める。


「へいへい、ごちそうさま」

「あー、バカにしてぇ」

「こうやって見てるとお前たちのお似合いなんだがなぁ」

「えー、ウチは旦那がいいよぉー。スーア君、いい男だけど、家に居なさそうなんだもん」

ラヒトの言葉が、いきなり否定されたスーア。

ちょっと傷ついた。


「ウチは、お義父さんの工房を盛り立ててくれる人をお婿さんにするんやもん」

「ヴェルン、そりゃ、旦那もできねえ相談かもしれねえ」

「どうして?」

「正直に言うとな、あれほどのお方が大公都といえ、片隅に収まるとは思えねえんだ。大陸に名を轟かすかも知れねえと思ってる」

ラヒトの賛辞に黙ってしまうヴェルンは少し寂しそうだった。


 = = = = =


「ところで、スーア。初仕事は、何にしたんだ?」

鍛冶匠は、杯を片手にスーアに尋ねる。


「害獣駆除です。一角ウサギが繁殖し過ぎで、家畜に被害が出ているそうで」

装備の綻びを繕いながら、答えるスーア。


「そうか。防具はいるか?あいつらが跳び突いてくると剣では捌ききれんからなあ」

「ご心配なく。大山犬の(なめし)革ができたので、タセット(腰の装甲)と(すね)当てを作っておきました」

「そりゃいい。お前さんなら、それで凌ぎきるだろうな」

「痛いとイヤなんで、数が増えたら、逃げますよ、アハハ」

「おいおい、若いのに、弱気でどうする、ガハハ」


「何々?ふたりで笑いだしたりして」

ラヒト用に肴を持ってきたヴェルンが不思議そうに話の輪に入ってくる。


「スーアは、ウサギを相手に逃げ出すそうだ、ガハハ」

「いいじゃないですか。痛いの嫌なんだから」


「スーア君らしいね。フフフ、ケガしないようにね」

「うん。未熟者は、焦っちゃダメなんだ」


「おっ、おやっさんの口癖が感染(うつ)ってるじゃねえか。ガハハ」

「先輩の言葉は、守って損はないですから。アハハ」

「スーア君のくせに生意気ー」

「えー、ひどいよー」

「「「ハハハハハ」」」

鍛冶工房の夜は、団欒に包まれていた。


 = = = = =


大公都西側平民居住区の繁華街。


「「「「カンパーイ」」」」


「ルントの初仕事も無事に終わったな」

「みんなのおかげです。ありがとう」

リーダーの青年が仕事の労を(ねぎら)うと笑顔で謝意を返す少女。


「ルントちゃん、筋がいいから、冒険者でもやっていけるよ。フフフ」

先輩の魔法使いが、少女を褒める。


「最初は、危なっかしくて、漏らすんじゃないかと心配したぞ」

体格のいい戦士が、娘ほど年の開いた少女を揶揄う。

「えーー、ひっどーい。もう、大丈夫だよ」

キャハハと笑い飛ばすルントと呼ばれる少女。


「そうさ、ルントは、充分戦力になった。どうだい、このまま、パーティを組んでいかないか?」

「わたし、しばらく独りでやっていこうと思っています」

リーダーの青年の誘いをためらいなく断るルント。


「どうしてだい?俺たちは上手くやってこれたと思うけど」

青年は、疑問をぶつける。


「解ったんだ。わたしには、まだ基礎が無いの。もし、みんなと(はぐ)れたら、終わっちゃう」


「「「・・・」」」


「だから、みんなに付いて行けるように、自分のことは自分でできるようになってから、また、パーティに入れてくれると嬉しい」

ルントは、決意を告げるとうっすらと潤んだ瞳でニッコリと微笑んで見せた。


 = = = = =


「ちょ、わたしはそんなことしたくない!」

「何を言っているんだ。君も僕に気があるから、ここまでついて来たんだろ」

「変なこと言わないで。今まで一緒に仕事をしてきたから、何か二人っきりで言いたいことがあるんだと思っただけよ」

盛り場の外れにある連れ込み宿の前で言い争う男女がいた。


並んで歩けば、お似合いのカップルに見えるが、明らかに女が嫌がっていた。


「リミス、僕は君の事が」

「その名前で呼ばないでください。あなたにそれを許した覚えはありません!」

「いいのかい? 僕となら将来を約束されたとようなものだよ」

「ご遠慮します。 たとえ、あなたが大公家ゆかりの方だとしても、後悔しませんから」

言い寄った女にとことん拒否されて、せっかくの色男が台無しだった。


ここまでくると宿に入ろうとするカップルも足を止めて痴話げんかを見物し始める。


クスクス

くくく


失笑に曝される青年は、とうとう実力行使にでる。

「いいから、くるんだ。君は僕の物になるのが幸せなのだよ」

腕を掴み強引に連れ込もうとする。

普通なら、女は抗いきれず、連れ込まれるはずだが、違っていた。


「離しなさい。さもないと痛い目を見ますよ」

「フフ、何を言うかと思えば、どうなるのかな?お嬢さん」

青年は、端正な顔に微妙にゆがんだ微笑みを張り付けていた。


「こうなります」

少女は自分を捕まえている腕を捻って、軽々と投げ飛ばす。


クスクス

くくく


地面に投げ放たれ、見物人の眼前で、みっともない姿の青年は、唖然と夜空を見上げていた。


「これ以上つきまとったら、家名に傷がつきますわよ」

踵を返し、立ち去る少女の後ろ姿は、颯爽としていた。

いかがでしたか?


仕事は、一角ウサギの駆除ですが、実入りが少なく引き受ける冒険者は少ないのです。


次話をお待ちください。

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