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初仕事 その1

ここまでお読みいただいてありがとうございます。


ひとりで引き受ける初仕事編始まりです。


ではでは~


あっという間に1巡間が過ぎ去った。


滞在中に工房を手伝い、一日中大鎚を振るいつづけたスーア。

大剣の扱いに正確さが増していた。


「なかなか筋が良くなってきたな」

ラヒトは、蓄えた髭を撫でながら、ちょうど仕上がった打ち直したスーアの大剣を確認しながらごちた。


「ラヒトさんの鍛えは、いつ見てもすごいですね」

「まだまだなんじゃよ。旦那の話だとまだまだ鍛え方があるそうじゃ。説明をしてくれるんじゃが、理解が追い付かん」

「へぇー。旦那さんって、鍛冶仕事まで知っているんですかぁ」

鍛冶匠の言葉に驚嘆するスーアだった。


「試し斬りなら、木炭(きずみ)を斬ってみるといい」

「木炭だったら、(なまく)らでも切れるじゃないですか」

「いいから、斬って来い」

「ブツブツ」

スーアは、ラヒトの言葉に納得できなかった。

木炭は、大した強度もない固まりなので、試しに斬ったからといって、切れ味がわかるとも思えないからだ。


かといって名匠にケチをつけるわけもいかず、裏庭に木炭を持って試し斬りに行った。


裏庭では、ヴェルンが本を片手に薪を割っていた。


トボトボ歩いてくるスーアに気が付いた。

「スーア君、どしたの?」

「ラヒトさんが木炭で試し斬りして来いって」

「それが?」

「だって、木炭なんかで切れ味がわからないだろ」

スーアは、ヴェルンに愚痴る。


「ええやん。ほら、薪割り台、開けてあげる」

「へーい。ブツブツ」

「男のくせにブツブツ言わんと」

叱られ不満が募るスーア。


薪割り台に木炭を置き、適当に大剣を振り下ろした。


「!!」


スーアは目を剥いた。

木炭は、斬れた。

想像していた手ごたえと全く違っていた。

サクッともならない。

まるで果物を斬ったように刃が食い込んでいく感触と錯覚してしまった。


木炭の切り口は、まっすぐに切れていた。

目の細かい砥石で磨いたような断面から、驚異的な切れ味が見て判った。


 = = = = =


「ラヒトさん、疑ってすみません」

「いいってことよ」

「どうしたら、ここまで切れ味が上がるんですか?」

スーアは、素直に謝り、素朴な質問をした。


「門外不出。と言いたいところだが、どうということはない。刃の場所ごとに別々の(はがね)をこさえて組み合わせてあったんじゃ」

「はあ」

「使ってる間に鈍ったのを熱処理で復活させたんじゃ」

「え? じゃあ、元からアレくらい切れたんですか?」

「そうじゃよ。どうせ、焚火をほじくったりしてたんじゃろ?」

「う、そうです。やってました」

スーアは、刃物の使い方を一刻(約3時間)の間、叩きこまれることになった。


 = = = = =


「害獣駆除の依頼ならありますが」

「はい、それを引き受けます」

「では、登録をいたしますね。プレートをお持ちですか?」

「はい。お願いします」

スーアは、冒険者ギルドの大公都北部事業所の窓口で仕事の斡旋を受けていた。


冒険者ギルドは、知られた通り冒険者が日銭を稼ぐ仕事の依頼を受注してくる。

ギルドの運営費をマージンとして天引きするが、仕事の受注者として責任を持つ。

この世界での人材派遣業として成り立っている。

冒険者の等級に見合った仕事を紹介してくれるので、等級の低い者、初心者にはありがたい。

スーアは、未成年のため、初級にしか成れない。


冒険者の等級は、下から「銅」「青銅」「鉄」「銀」「白金」「金」「金剛」


スーアは「銅」のプレートを差し出す。

窓口嬢がプレートを受け取り、身元の確認をする。

プレートには、本人の情報が思念変換で刻み込まれている。

読み取り結晶にプレートを翳すと結晶の中にスーアの情報が映し出された。


「スーアさんですね。未成年なので初きゅ・・・・ス、ス、ス、スーアしゃん! いえ、スーア様、ご本人に違いありませんか!」

(あ、ヤベ。この女性(ひと)俺のこと知らなかったんだ)

「えーと、窓口のおねえさん。落ち着いてください」

地味に有名人であることを自覚していたスーアだった。

昔から交流のある人たちは、気も置かず接してくれているが、初対面だとまず祖父たち、そして両親の武勇伝が先行してしまう。


「ひゃい。あたし、いえ、わたくし、西にあるシャーデ町のイシュグダと申します。以後、お見知りおきいただきましたら、幸いでございます」

「あ、あの、俺はただの初級者で、たぶん年下ですし、特別でも何でもありませんから」

すでに手遅れだと思いながら、宥めてみるスーアに敬語を止めない年上の窓口のおねえさん。


「そのような、恐れ多い。スーア様は、お二方のお孫さま。ご両親のご活躍も庶民にとっては、伝説級でございます」

「それは、俺の実績じゃありません。ですから」

「いえいえ、これからなのですから、失礼があっては、わたくしを始め親類縁者が世間様からの誹りを免れません」

どうやら、将来のことを見越しているらしい。


「その、スーア様。年上でよろしければ、ぜひ伴侶に」

「ええー、ちょっと、初対面ですよ」

「いーえ、こういうことは出会いが大切です。こうして、初めての(仕事をご紹介で)お相手となるのも何かのご縁です!」

斡旋フロアに響き渡る大声で≪初めてのお相手≫と宣言するイシュグダ。


その声は、その場に居合わせた全員に聞こえることとなった。


ヒソヒソ

ヒソヒソ

ヒソヒソ


未成年だが、なかなか整った容姿のスーアが、年上の窓口嬢を口説き落とし夜の約束まで取り付けたように誤解された。


「ヒィーーーーー」

スーアは、大山犬の群れに襲われたときよりも危機を感じ悲鳴を上げるのだった。


 = = = = =


「ただいまぁ」

ぐったりして、工房に帰ってきたスーア。


「おかえりー。夕飯できるから、お義父さん呼んできて」

麻織のエプロンをしたヴェルンが出迎える。


「ほーい」

「あ、そうだ。スーア君、ギルドの受付おねえさんとやっちゃうんだって?」


「ヒィーーーーー」

スーアは、ヴェルンの不意打ちに悲鳴を挙げるしかなかった。

いかがでしたか?


スーアは、名の通った有名人ですが、肖像画が出回っていないので、知らない人が多いのです。


次話をお待ちください。

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