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自己研鑽 その1

ここまでお読みいただいてありがとうございます。


無事、初仕事をこなし帰ってきました。


ではでは~


「さすがはスーア様ーー!」

イシュグダさん、90度立ち上がりのハイテンション。

斡旋フロアに響き渡る黄色い声。


冒険者ギルドの窓口係になって、初めて会った有名人(の血縁者)

その方の初仕事を見届けるという栄誉にあずかる。

もう、実家の両親に手紙を書こうと内容まで考え始めていた。


「もしもし。あのう、角の確認を」

スーアは、窓口嬢の高揚についていけなかった。


『ねぇ、君。このおねえさんに何かしたの?』

『何もしてないよ』

少女は、スーアを疑った。

スーアは、即座に否定した。


スーアは、気を取り直して再度窓口嬢に声を掛ける。

「おねえさん。角の確認をお願いします」

「はっ!」

スーアの声にイシュグダさんは、帰ってきた。


「申し訳ございません。確認いたします」

「お願いします」

彼女は、おもむろに成果を見定める。

「ああ、この手触り、太くて硬い」

うっとりと見つめ、角を撫でまわし、表面を擦る。

その仕草はどこか淫靡に見えた。

「堪能、いえ確かに確認しました」

唇からかすかに舌がのぞく。


「コホン、わたしのも確認、お願い」

少女は、刺繍の入った革袋をカウンターに置く。


「承ります」

イシュグダさんは、事務的にテキパキと角を確認する。

「確認しました」

事務的に答える。


角は、1本毎に評価される。

長めの1本を途中で折り、2本に見せかける不正があった場合、その角は無効になり、報酬の対象にならない。

ただし、途中で折れたことを申告していれば、数の水増しがないかが基準になっている。


昔、角を折られたウサギが、また冒険者に角を折られたりすることがある。

その場合、角の骨が少し回復するので目視で判るので、申告の必要はない。


当然、角に疑う点はなく、ふたりの成果は、そのまま認められた。


ふたりは報酬を受け取る。

スーアが10匹分、80リクン(約80,000円)。

少女が4匹分、32リクン(約32,000円)。


今日は、運よくそこそこ稼げた。


 = = = = =


現地に向かう乗合馬車は、1往復1リクン。

弁当と水で、大体1リクン。

これらは自費になる。


武器や装備が壊れた場合も自費になる。

刃の研ぎ直しは、短剣で4リクン以上、大剣だと24リクン以上が相場。


一角ウサギの角を折るとなれば、刃こぼれするので、研ぎ直しが必要となる。

研ぎに出すと一日仕事にならない。


スーアの手元に残るのは、54リクン、少女26リクンになる。

予備の装備がなければ、明日は休みになる。


大剣を使うスーアの場合、ノルマが4匹以上。

短剣を使う少女の場合、ノルマは1匹以上だが、宿代が足りなくなる。


一角ウサギの駆除は、進むと遭遇する回数が減り、実入りが減るので、止め時が難しい。

おまけに地味な仕事で、成果で名が上がることもない。

冒険者に人気のない理由だった。


スーアにとっては、実入りは関係ないので、集中できる方がありがたかった。

彼女は、駆け出し冒険者とかけ離れたフルアーマーを持っていたので、少女の目的もほぼ同じのようだ。

ただし、彼女が1人だった場合、大けがをし、命を落としていたかもしれない。


 = = = = =


「スーア様、一つお尋ねしてもよろしいですか?」

イシュグダさんが、おずおずとスーアに文字通り尋ねる。


「はい、なんですか?」

スーアは、付き合いの浅い女性が何を聞きたいの想像つかなかった。


「そちらのお嬢さんとは、どういうご関係ですか!」

唐突な質問に固まるスーア。

(えーっと、このおねえさんが何が聞きたいんだろう?)


「仲間よ」

少女が割り込んで言った。

「「えっ」」

イシュグダさんとスーアが驚いた。


窓口嬢の瞳から光が消えていく。

勝利を確信したように見える少女。


「まだ仲間じゃないよ?」

スーアの答えで窓口嬢が生き返る。

復活の呪文となった。


「スーア様、御一緒にお食事などいかがですか?わたくし、もうすぐ上がりますので」

窓口嬢は、積極的だった。

最初は、有名人の血縁ということで興味が湧いただけだったが、地味な仕事を確実にこなしてきた堅実さの方を評価した。


彼を知る事務所の職員たちが言うには、小さい時から父親に同行していて、将来剣士を目指しているとのこと。

職員たちは揃って驕っていない彼の人となりを褒めた。

実力なら中級者レベルと噂されるが、親に倣って地味でも困っている人の役に立つ仕事を優先するから高評価だった。


「あいにく、これから彼と夕食を共にするの」

少女は嘘ではないが、誤解を生むような言い方をした。


「本当ですか」

イシュグダさんの言葉には、勢いがなくなっていた。


「はい。ラヒトさんちでコレを食べます。一緒にどうですか?」

スーアは、森で作った即席の背負子に括り付けたウサギを見せた。


「ラヒトさんというのは、あの天才鍛冶師のラヒト様ですか!」

イシュグダさんの言葉に勢いが戻ってきた。

大公国の有名人といきなりお近づきの機会に恵まれたことに軽く興奮してしまった。


『もう、女ったらしなんだから』

少女は、小声でつぶやいた。

いかがでしたか?


少女は、まだ自己紹介をしていません。

名乗らずとも会話はできるのもですね。


次話をお待ちください。

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