初仕事 その6
ここまでお読みいただいてありがとうございます。
初仕事初日も半分過ぎました。
ではでは~
「じゃあ、見てて」
スーアは、放牧地に少女を置いて、森の方に向かって立っていた。
低木がザワザワと音を立てる。
≪ダムダムダム!≫
苛立つウサギが威嚇してくる。
スーアは、剣の切っ先を地面すれすれのところで留める。
呼吸を整え、ゆっくりと腰を下げて静かに構えてウサギを見据える。
ウサギは、跳躍の間合いまでにじり寄って身体を縮める。
弾けるようにウサギが角を突き出し跳躍してくる。
スーアは、その動きに合わせて横へ跳ぶ。
剣を振り上げ、身体を捻り込んで一撃を繰り出した。
角を折られたウサギは、意気消沈し森に向かって駆け跳ねていく。
「うーーーー。見てると簡単そうなんだけどなぁ」
少女はスーアの手並みを見て、ますますできなさそうだと思い始めていた。
「次、やってみたら?」
スーアが戻ってきた。
「う、うん」
少女の歯切れの悪い返事。
「大丈夫だよ。角だけ見切ったら、ただのウサキだから。そろそろ夕飯の材料も欲しいし」
人懐っこいスーアの態度に嫌味は感じはなかった。
「やってみる」
「大丈夫。角をよく見て盾で躱せばいいからさ」
スーアと入れ替わって森の方に歩いていく少女。
「あ、ちょっと待って」
スーアが呼び止める。
「な、何?」
振り向く少女の顔には血の気がなかった。
「うーん、他人にしていいかどうかわかんないけど。おまじない」
ちょっと困惑しているスーア。
「おまじない?」
不思議そうな少女。
(わたしの方が、どうしていいかわかんないんだけど)
「じゃあ」
「ひゃっ!」
スーアが少女に抱き着いた。
正確には、ぎゅっとしたのだった。
「これで、俺の【気】がそっちに移ったから、もう大丈夫」
ニカッと笑うスーア。
優しい顔に戻すと牙に唇がひっかかっていた。
スーアは、手を振りながら、少女から離れていく。
少女は茫然としていた。
徐々に状況を把握し始める。
あまりに突然のことでびっくりすることを忘れていた。
「ひゃ、ひゃ、ひゃ、何てことするのよーーー!!!」
少女は叫んだが、充分に離れたスーアには、その強い憤慨は減衰しながら伝わった。
= = = = =
「あーあ、やっぱり怒ってる。まあ、あれくらい気合が入れば大丈夫だろう。親父には、バシバシ叩かれたもんな」
ふと、少女を抱きしめた感触から、姉のことを思い出した。
「いつも俺の方が【ぎゅっ】てされてたんだよな」
森の方に目をやると少女が一角ウサギを仕留める瞬間だった。
「おーーー。お見事」
≪パチパチパチパチ≫
= = = = =
「ふひぃ、ふひぃ。や、やったぁ」
少女は息を弾ませていた。
その表情は、達成感に満ちていた。
「お見事、お見事。いい剣筋だったよ」
スーアが少女の許に駆け付け、初仕事を褒め称える。
「君のおかげだよ!」
(・・・やっぱり、彼のおかげよね。もう、あんな風に抱きしめられたら、ちょっと、ドキッてしたじゃない)
思い出すと少女は耳まで赤くなって、顔が熱くなるのを自覚してしまった。
スーアは、ウサギの角を折り、少女に渡す。
「おめでとう。これは記念に持っておくのも良いかもね」
「うん。そうかもね」
「じゃあ、捌くとするか」
スーアはナイフを取り出し、てきぱきとウサギを解体していく。
少女は、しゃがみこんでその様子を眺めていた。
「君、上手いね」
「うん?うん、そうかもね。旅の途中で何回も捌いてたからかな」
短時間で肉と毛皮に解体される。
「そうだ、夕飯はどうする予定?」
スーアは、何か思いついて、少女に尋ねた。
「そうねぇ。宿に戻って、そこで食事かな?」
「良かったら、工房でコイツを食べないか?」
「え!工房って、ラヒト工房?」
「ああ、そうだよ。コイツ4人でも充分食えると思うからさ」
スーアが収穫を指さす。
「あたしがお邪魔してもいいの?」
微妙に距離のある少女の態度。
「亜人が嫌なら、無理にとは言わないから、気にしないで」
「ち、違うよ。わたしみたいな駆け出し冒険者が、上級者御用達のラヒト工房に入るなんていいのかなって思って」
スーアの気づかいは的外れだった。
むしろ、少女の方が遠慮していた。
「それなら、大丈夫。ラヒトさん、ちょっと気難しいかもしれないけど親切な人だよ」
「うーん、なんか緊張してきた」
「アハハ。今から緊張したら、疲れるよ。あと2、3匹角を折って、上がろうか。帰りの馬車が無くなる前に」
スーアは、毛皮で肉を包むと放牧地の方に歩いて行った。
「よーし。見てなさい。今度はもっと鮮やかに決めてあげるわ」
少女は、森の方に意識を集中すると新手の一角ウサギが現れる。
わざとウサギのテリトリーに踏み込む。
あっという間に間合いを詰めてくるウサギ。
少女は、盾でその突進を軽くいなして身構える。
ウサギは向きを変え、再び挑んできた。
≪パキーン≫
少女は盾で角を受け、角の根元を短剣でへし折った。
角を折られたウサギはトボトボと森へ引き返していく。
= = = = =
かくして、ふたりの初仕事、初日はケガもなく終了した。
街へ戻る馬車で、ハーフオークにもたれて少女は寝息を立てていた。
スーアは、少女の匂いが、姉やヴェルンと違っていることに気が付くとついつい意識してしまう。
スーアもいつの間にか眠ってしまった。
いかがでしたか?
少女はまだ自己紹介していません。
次話をお待ちください。




