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救血鬼

作者: かげる
掲載日:2016/02/22

もしもーし。

玄関から入ってもいいですか?


へへへ。

入っていいんだね。

初めまして。

あなたが入っていいって言ったからお邪魔しています。

いっきに暗くなりました、ね。

停電でしょうか。

ほら。

カーテンを開けても街灯が一つも点いていません。

台風ではないのに珍しいですね。

電力が足りてないのかな。

あ、いえ。

私は暗いのに慣れていますから大丈夫。

夜目がきくんです。

でも、あなたは今なにも見えていないのではありませんか?

……やっぱりそうですよね。

見えてませんよね。

え? 私ですか?

私は吸血鬼です。

吸血鬼だから目がいいんですよ。

あなたは純血の人間だから、ここは私に任せてください。

あなたの役に立ちたいのです。

この一軒家、築何年ですか?

いつも見ていて思うのですが、鉄の支柱がサビついていて今にも崩壊しそう。

こんな家に人が住んでることを知った時は驚きましたよ。

へへへ。

あなた両親や兄弟は?

……そう。

ごめんなさい。聞かない方が良かったわね。

つまり、ここがあなたの実家なのね。

……そんな車に轢かれた蛙みたいな陰気な顔ををしないで、陽気にいきましょうよ。陽気に。

ねえ? 未来は可能性に満ちてるよ?

へへへ。

ごめんなさい。恥ずかしいセリフを言ってしまいましたね。

はい。

懐中電灯をどうぞ。

や、やめてください。

渡した途端、私の顔に光を向けないでください。

まぶしい。

……え? 綺麗?

へへへ。

顔立ちがですか。

よく言われます。

あ、ここは謙遜しなくちゃいけないんだっけ……。

あなたも綺麗ですよ。

スベスベしていて食べ甲斐がありそう……。

なんて、冗談ですよ。あなたは食べません。

純血の人間はあなた以外はほとんど……。

いえ、こういうことは言わない方がいいんですよね。

わざわざ本当のことを言わなくたっていいですものね。

あなたがここで自宅警備員……いわゆる引きこもりをしている間に、外で何があったかは口が裂けても言えませんもの。

……口が裂けたら言えないけど。

私には他に仲間がいたわ。

Kくん。

Aちゃん。

Rさん。

みんな食欲旺盛でこの地域一帯を駆逐していった。

駆逐、というか吸血鬼の噂がひろまって逃げていっただけなんだけどね。

とくにKくん。

彼は日の当たる時間帯でも容赦無く狩をする吸血鬼としてあるまじき最悪だよ。

あなたは部屋に引きこもっていたから知らないだろうけど。

あら。

……口が裂けなくても、言ってしまったわ。

まあいいか。

要するにあなたは今、私の仲間に狙われているのよ。

……大丈夫?

動揺する気持ち、少しわかるわ。

これでも吸血鬼なりに人間の気持ちを察することはできるのよ。

だけど、安心して。

あなたには私がついてる。

地の果てまで、ついていって、私があなたを助けてあげるんだから。

これでも、優秀なのよ。

吸血鬼の部類の中ではね。

最優秀な優し過ぎる吸血鬼なんて名前で呼ばれたこともあった。

え? なんで親切にするかが気になる?

なにか裏があると思った?

へへへへ。

ないないないない。

そんなのないよ。

あなたは私のこと知らないから、そうなのかもしれないけど。でもね。私は違う。

あなたを見てた。

そして聞いてた。

物陰に隠れながら。

二階の部屋で引きこもっているあなたが、やるせない気持ちで、布団にくるまりながら、悲鳴をあげているのを。

きっとあなたは、普通の人と同じように生きれないことを嘆いて泣いていたんだわ。

私もね。そうだったの。

吸血鬼のみんなより優れていただけなのに、嫉妬されて、吸血鬼として名を轟かせる頃には、ネットに嫌味を書き込まれた。

私が強いから、弱い奴が嘆くの。

『あんたはいいよね。自分なんか』って。

呆れるわ。

『いい』ことはわかるのに自分でなんにも行動しないのよ。

こんな私も世間体は気にするよ。

陰口を気にしながら生きていくのは居心地が悪い。

誰も私のことを理解してくれない。

仕方ないわよね。

だって私、最強の吸血鬼だもの。

だから誰も私のことをわかってくれないの。

あなたと一緒なのよ。

……もちろん全部一緒ではないけどね。

大丈夫。

うまくいくよ。

これからあなたはこの境地から生き延びなければならない。

自信をもってほしい。

過度に自分が駄目だなんて思わないで。

真っ暗闇の中でも私があなたの目の代わりになる。

だから逃げましょう。

この家にいると危ない。

あなたの身内はみんな最悪な殺人鬼の吸血鬼Kくんに殺られた。

今もこの家を見張っているはずよ。


用意は出来た?

じゅあ緊張したまま立ってね。

リラックスすると重くなるから。

よし。

軽い軽い。

ほら。

両腿はもってあげるから、落ちないように首に手をまわして。

おっけー?

結構跳ぶから、気圧の変化で耳がキーンてなるかもだけど、この際、そんなこと気にしてられないよね。


隣町まで来たわね。

ここは人間が少し生息しているみたい。暗闇の中だからって、やたらに跳ぶのは危ないわね。人に見つかったら大変。

Kくんは追いついてきてないみたい。

速さで私が負けるはずがないんだけど。

でも用心に越したことはないわ。

あなたも、周りの気配に注意してね。

耳が痛い?

へへへ。

ごめんなさい。

もう歩きましょう。

おぶるのも疲れるからね。

あの公園で少し休もう。

て、誰かいる。

嘘?

あれは最悪な殺人鬼の吸血鬼。

Kくん。

……なんでこんなところにいるのかな。

うわ追ってきてるし。

ほら。

しゃがむから首に手をまわして。

耳が痛いかもしれないけど我慢してね。

追いつかれるなんて。

まったく。

これじゃあ最優秀な優し過ぎる吸血鬼の名を返上しないといけなくなるわ。

返上したところで、人間の味方をした私なんか裏切り者でしかないんだけどね。

誰かの家にお邪魔しましょう。

家に入れば、吸血鬼は許可なく中に入ることはできない。

それなら自宅で待機していたほうが良かったなんて言わないでよね。

私の仲間のRさんは家の中から外に人をおびき寄せる巧妙で高貴な殺人鬼として有名なんだから。

あなたは純粋だからいとも簡単に騙されてしまうわ。

だからずっとあの家にいるのはまずい。

……まずいのは今の状況か。

どの民家も鍵が閉まっていてすぐに入れない。

へへへへ。

もう追いつかれちゃった。

大丈夫。

私が、死んでもあなたを守る。

あの家と家の隙間に隠れていて。

物音を立てちゃ駄目だよ。

それじゃあね。


ふう。

やった。

あの最悪を骨の髄までズタズタのぐちゃぐちゃにしてやった。

吸血鬼だから死なないけど、あそこまでやったら回復にはだいぶ時間がかかる。

行こう。

場所は決まっている。

もう一度、跳ぼう。


久方ぶりだな。

積もる話もあるが、ことは急ぐ。

この男をかくまってくれ。

秘密な良人鬼の吸血鬼。

秘密のAちゃん。

お前ならこの状況をなんとかできるだろ?

ああ。

お願いする。

ありがとう。

ああ。

そうなんだよ。

どうやら私の吸血鬼最強の匂いが原因で、吸血鬼が集結し、彼とその周辺を危険な目に合わせてしまったみたいなの。

……あなたには迷惑をかけた。私がいたから簡単にKくんに追いつかれたのかもしれない。

吸血鬼最強の匂いだけはどうやっても消せそうにない。

私はしばらく隠遁するよ。

仕方ないさ。

あなたは大事な恋人だからね。

へへへ。

遠くから見守っておくことしかできないんだよ。

最優秀な優し過ぎる吸血鬼。

この名は私に似合わない。

今は。

激情に駆られた馬鹿な最弱の救血鬼だ。

あなたとその血液を救う鬼。

最強の吸血鬼が。

最弱に成り下がった。

あなたのせいだ。

だけど悪くない。

最高な最善で。

最愛なんだ。

私にとってはね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 雰囲気がよかったです。他の作品も読んで見ますね。
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