第5話-下起部
ウタのメガホンがなった・・・。
役者達が解けた糸のようにスーと動きだす・・。
ウタ【じゃあ、10分休憩。】
僕は一人だけ舞台の上で、動かずじっとしていた。
なんだか頭が重い・・。
俯き加減で座る僕の前に、ワンピース姿のノリが立った・。
静に見上げる・・。
女・・。
ノリ【・・ケイさん?】
彼女は僕の顔を覗き込んだ・。
美人・・。
口元が笑った・・。
ウタ【さあ、始めるよ。】
始める・・。
僕は立ち上がった・・。
あ・・ぅ・・。
足が竦み、床に倒れこむ・・・。
ケイ【・・く・。ぁ・・】皆が僕を振り替える・・。
頭が膨張する・・・。
リカ【・!ケイ・・!救急車・!先生は?!】
マズイ・・。
奴だ・。
僕は身体を這わせ、リカの腕を掴んだ・。
ケイ【・・直ぐ・治まる・・・。】
そして彼女は地面に座り込んだ・・。
や・・めろ・・・。ケイ【・・あ・・ぅ・・!】
僕は部員達の視線の中で、低く叫び声を上げた・・。ケイ【あ‐!!!】
ぐ・・。
僕は蛇のように全神経を使い・・
猛獣のように全細胞を使い・・暴れ回る・。
こんなのは今までで初めてだ・。
脳みそが千切れそうだ・・。
身体が電気が走ったような痙攣を始める・・。
僕は必死で床に身体を押しつけた・。
手を掛けたパイプ椅子はガタンと倒れる・・。
僕の身体に触れたカナエの手は、僕の痙攣のせいか、彼女自身か、小刻みに震えていた・。
僕は瞳孔をかっ開いた・。そして・・
もう一人の僕はいらない・。
そう言い残し、気を失った・。僕は床に寝かせられていた・・。
ただ、音だけが聞こえる・・・。
僕は耳を澄ます・。
ウタ【どうする?】
何が・・?
・・。
僕のことか・・?
リカ【・・分からない。】僕は会話が気になっていたが、同時に恐怖も沸き上がる・・。
僕は身体を業と動かした・・。彼らの会話を遮ったのだ。
ウタは僕に歩みよった・。ウタ【君・。大丈夫・・?】
彼は適度に微笑んでいる・・・。
彼は・・
何か企んでいるように、僕に優しかった・・。
奴が暴れた後で・・。
僕は身体を起こす・・。
頭の痛みがまだ少し残っているようだった・・。
ケイ【ああ・・。】
僕はふらつく足取りで歩き、パイプ椅子に腰掛ける・・・。
サラが毛布を持ってこちらに近づいてくる・・。
そして四つ折りになったそれを僕に差し出す・・。
サラ【これ、使って・・】
彼女は落ち着かなく、僕の隣に座った・。
ケイ【ありがと・・。】
僕がああなった後でも、皆の僕に接する態度は変わらない・。
僕を避ける様子も無いし、僕に向いても可笑しくない、冷ややかな視線も無い。
僕はそれが疑問だった・。
サラ【役者・・】
僕は真っすぐな瞳で舞台を見つめる、サラの横顔を見つめた・。
彼女はそのままで呟くように言う。
サラ【・・やりたかったの・・。】
僕は単純で、やりたければやればいい、と言った・。彼女は僕の視界の外で、どんな顔をしているのかなど、僕は知らないでいた。
彼女はこっちを向いて笑った・。
ごめん・・。
僕は心の中で呟いた・・。サラ【・・頑張らなきゃ・】
サラは笑顔を消さなかった・。
その分、彼女は傷だらけだった・。そして最後の傷は・・
僕がつけたんだ・。ウタの周りに部員が集まった・・。
配られたのは劇部のスケジュール表だった。
ぎっしり詰まっているようだ。
休み、という文字は見当たらない・。
カナエ【・・やだ。あたし来ないからね。】
カナエは床に紙を投げ捨てた。そしてひらりと落ちたそれを中靴でくしゃくしゃになるまで床に擦り付けた・・。
サラ【・・やりすぎです・。】
カナエの肩にそっと置かれた手は、一瞬の内に振り払われた・。
カナエ【・・あんた、そういうのまぢうざ・。】
顔を背けたサラ・・。
《サラ・・。》
瞳孔が開く・・。
僕の脳がピクリと反応した・。
そして僕は知らずの内に行動に出ていた・。 目を開くとそこにはマメがいた・・。
どうやら僕は長テーブルに身体を預けて寝ていたようだった。
部員達は相変わらずじゃれあっている・・。
彼は普通より少し大きめの大学ノートに何か書き込んでいた。
彼は僕と目が合うと、不自然な笑い方をした。
彼は無口な学生だった・。
よく笑う癖も無く、口の周辺の筋を使うのは慣れていなかった・。
その為か、彼が笑うとどうしても不快そうに口元を吊り上げたような笑い方になってしまうのだ・・。
彼は初めてしっかりと僕の目を見て、弱々しく言った・・。
マメ【・・・日記・。】
彼は自分の書き込みを確かめると、大事そうにそれを鞄にしまい込む・。そして僕から目をそらすようにして去っていく・。僕は彼の背中を目で無意識に追い掛けていた・。
演技をひとまず終了し、10分が経った。
ウタが部員に、休憩終了の合図をする・・。
笑い声がぽつりぽつりと消えていく・・。
ウタ【昨日の続きで、正孝と幸彦のシーン。】
彼は舞台がよく見える中央の椅子に腰掛け、真っすぐ舞台を見た。
僕は舞台に立つ・・。
そして手にしっかりと握ったナイフを、倒れるシンゴの上に固定した・・。床には点々と血の溜りができ、幸彦のシャツは返り血で赤く染まっていた・・。正孝は身体を丸め、必死の思いで呼吸をしている。
彼を見下ろし、笑い掛ける幸彦・・。
後ろから静かな足音・。
幸彦は兄を見つめたままだ・・。
百合奈【・・・!】
幸彦の背中越しに、百合奈は赤い液体を目にした・。百合奈は電話を掛けた・。
彼女の声は、彼に怯え、震えていた。
百合奈【・・お願いします・・】
百合奈は祈るような気持ちで、救急が来るのを待った・・。
助けて・・。
正孝・。
幸彦の目が、百合奈に向けられる・・。
助けて!・・
誰でもいい・。助けて。
幸彦は表情の無い目で、百合奈に近づいた・。
呼吸さえ出来ない程怯えきった、百合奈の前で・・
キラリとナイフが光った・・。カラン・・。
彼の手からナイフが滑り落ち、彼自身の足を傷つけた・・。
靴下から血がふつふつと滲み出てくる・・。
そして・・
百合奈が目を瞑った瞬間・・・
幸彦は彼女を抱き締めたのだった・・。
彼は何も言わなかった・。百合奈は動けなかった・。そして彼にたいして一言も言えなかった・・。
救急車の音・・。
正孝は酸素マスクを装着され、運ばれた・。
意識は微かだがあった・。
【110・・!】
腕を捕らえられた幸彦は、無抵抗なまま、ただ狂ったように笑い続けるだけだった・・。
百合奈は救急車に乗り込んだ・・。時間の流れがぴたりと止まった・・。
暗転・・。
ウタがメガホンを鳴らすと、照明が再びついた・。
僕は何度も夢と現実を行き来したような感覚があった・。
暗転と明転を合図に、それは切り替わる・・。
そして不思議なことに、劇が終わり、夢から現実へ戻されたとき、僕はいつも同じ態勢でいるのだ・。
今まで寝ていたかのような、態勢だ・・。
しかし、それはありえなかった・。
僕は演じていたのだ。
役者として・・。
舞台に立っていたハズだった・・。
僕はこの矛盾を無理に理由を付け、納得させようとしていた。
しかし、何だか気持ち悪い・・。
僕は辺りを見回した・・。何ら変わりはない、いつもの部員達・・。
ライやウタの低い声が聞こえる・。
ネコは音響をいじっている・・。
マメは相変わらず日記を書いている・・。
イチゴはケータイをいじっていた。ノリはサラと笑い合っている・・。シンゴはケータイでウタを写メっている・・。
リカは台本を読んでいた・・・。
その他は騒いだり、準備・・。
僕は少し安心した・・。
この日の部活はいつもと違っていた・。
舞台作りに専念しようというのだ・。
確かに何も無い舞台は殺風景だ・。
ウタ【舞台は、客が見て、大体の劇の想像が出来るようでないと駄目なんだ。
役者にとっても、物が無いと、動きが単純になってしまうからね。】
彼は僕に言った・・。
僕は彼の熱意に、しっかりと頷いた・。
僕は改めて、舞台監督という偉大な存在に気付かされる・・。
ウタ【買い出しは・・ケイ、行ってみるか?】
僕はサラが書き込んだ、買い出し用のメモを丁寧に畳み、ポケットにしまいこんだ。
僕は、ウタの後に続き、建物を出た・・。
イチゴの【いってらっしゃい】という声を、耳に微かに感じながら・。建物に残された部員達・。二人の姿が見えなくなると、二人の歩く方向へ手を振っていたイチゴも、ゆっくり手を下げた。
ネコ【行っちゃいましたね。】
ネコは長テーブルにだらしなく腕を伸ばした・・。
サラ【まだ時間あるから、劇の練習でもしましょう・・?】
そして皆そろそろと動きだす・・。
時計の針は二時十三分を指していた・・。
サラ【私切っ掛け入れます。正孝と路の最初のシーンやりましょう・。】
舞台にリカが立つ・・。
そして・・
メガホンが鳴った・・。
二人抜けた部活はあまり持続しなかった・・。
ウタがいない部活は集中力が欠けた・・。
演劇部にとって、ウタは特に重要人物だった・。
そしてケイ・。
しかしこれは作戦だった。ケイを一時除く為の・。
それは案外スムーズに片付いた・。
ケイは新部員という好条件を理由に、買い出しを教えるという仮の目的で、自然に連れ出すことができたのだ・。
演劇部が活動するこの建物の二階には、生徒が普段使わない倉庫がある・。
ライは人がいないことを確認し、階段に足を掛ける。
一階にサラだけを残し、部員達は面白がってライの後ろに続く・・。
シンゴ【あの三人、どうしよう?】
サラは二階に保存してある、記憶を思い出し、身震いした・・。
ウタと僕は大きなストアにいた・・。
二人で歩くには広すぎた・・・。
ウタは僕の開くメモを覗き込んだ・。
教会にある、ガラスのドアを作る、ガラス、ベニヤ・・・。
白い花束と、白いペンキ・・・。
傷を負った正孝を運ぶタンカを作る、白い布、手持ち棒・・・。
ウタ【とりあえず、廻ってみようか。】
僕はウタと並び、店内を探索しはじめる。ウタ【そういえば、ケイって、何で演劇部入ろうと思った?】ウタは僕に向かって問うた・・。
僕は黙り込んだ・・。
ウタに返す都合の良い理由が思いつかなかった・。
僕はもう一人の僕を確信している・・。
そしてそいつと共に生きる方法を探すため・。
そんなことを言ったら、彼に笑われてしまうだろう・・。
彼は悩んでる僕を見つめている・。
僕は慌てて、ただ、
ケイ【面白そうだったから・。】
とだけ答えた。
僕はとっさに口から出た、つまらない逃れ文句を、しまった・・と思った・・。
ウタは僕と違う・・。
劇に対してとてつもない愛情と情熱を持っている・。そんな彼の前で、気持ちの一つも籠もらない、言葉を吐いた・。
彼を傷つけたようで、彼の顔が見れなかった・。
しかしウタは怒る表情一つ見せなかった・。
そして僕に言った・。
ウタ【僕も最初はそうだった・。軽い気持ちで入部した・。】
僕は彼を振り替える・・。ウタは笑う・・。
ウタ【自分でもビックリだよ・。こんな演技に熱くなってるから。】
彼は、沢山努力したのだろうか・・?
僕は思う・。
僕も彼のように、偉大になれるだろうか・・。
彼とスタートが同じことに僕は少し安心していた・。ウタ【僕は、演技がなきゃ、生きられないかもしれない・・。】
僕は少し早歩き気味の彼の背中を追った・・。
そして吸い込まれるように彼の話に耳を傾ける・。
ウタ【それは僕に限ったことじゃない・。人間知らず、皆演技するんだ。】
僕は不思議の感に打たれた。
演技は不自然で、人工的だと錯覚していた為だ・。
しかし、それもあるが、全てがそうとは限らない。
時には自然に演技が生まれ、完成していた、という場合がよくあるというのだ。人間は知らずに演技をする・・。それを演技と気付かずに。
ウタ【笑ったり泣いたりするのも演技・。
そう考えると、ほとんどの感情が演技・。】
・・・。
ウタ【だから本当の自分を見失いやすい・・。
人間はそんな生きものなんだ・。】
僕はまさにそうだ・。
自分が分からない・。
ものすごい恐怖がある・。ウタ【自分を失うのは恐い・。もちろん僕も。
誰でもそうだ・・。
だから、そのことで悩んで、苦しんでる人がいたら、助けてあげたいんだ・・。】
僕は立ち止まった・・。
そして、ウタを見た。
ケイ【・・僕は・・・】
僕は口を開いた・・。
偉大な彼に・・・
助けてほしかった。
僕らは買い出しを終了し、ストアを出た。
秘密の打ち明け話をした後で、彼の顔を見て話すのは、何だか恥ずかしかった。
それでも僕は彼に聞いてもらったことで、少しは楽になった。
彼は言った。
【一緒に頑張ろう。きっと彼も苦しんでると思うから。】
彼は僕の話を聞いても笑わなかった・。
真剣に考えようとしてくれた・。
彼は他の奴とは違う・・。
僕は助かった・・。そう思った。
ウタ【もし彼が出てきたら、何かしようとしたら、止めてあげる。全力で・。】僕は彼に、皆には言わないで欲しいとだけ頼んだ・。
彼は僕を見て、頷いてくれた・・。会館に戻り、僕達は舞台作りを始める・・。
ノリ【ナグリ取ってください。】
ナグリとは、舞台用語で金槌を指す・。
彼女は華奢な体に似合わなく、金槌で釘を差し込んでいる・。
彼女が作っているのは、教会のシーンで使う、ガラス戸だ・。僕が彼女の傍に行くと彼女は冷たく【足りてるので要りません。】
と僕を突き放した。ウタはそれを見て苦笑いをする・・。
彼は手招きで僕を呼んだ。ウタ【ブーケと・・ウエディングドレス、手伝うか。】
彼は今さっき、ノリに振られてしまった僕に、気まづそうに言った・。
ウタの横ではサラがドレスを縫っている・。僕はサラの手先の器用さに呆気に取られて、そのままじっと見つめてしまっていた。
彼女は僕の視線を感じると、微笑んだ。
僕はブーケに使う白い造花を握り締めたままだ・・。
ウタは僕に、ブーケ作りをしろ、と急かす・。
僕は手を動かした・。僕らが作ったブーケは、ラッピング用紙に詰め込んだ花と花の間に隙間が出来てしまっている。
サラ【また、花を埋めればいいよ。】
サラはブーケを手に取ってそう言った・。
僕達は彼女の優しさに、照れたように笑う。彼女は僕らをいつも和ませてくれる・・。
いい子だった・。
ウタ【やるか。】
僕は笑った・・。
にやけた顔が元に戻らない・・。
ウタはそんな僕の隣で真面目に作業し始めた・。サラ【出来た・。】
そう呟く彼女を振り替えると、真っ白なウエディングドレスを抱いて立っていた。
これは・・!!
シンゴらも、彼女に近寄ってくる・。
シンゴ【すげぇじゃん・。手作り?!】
サラは恥ずかしそうにして笑っている。
それはノリの身体にぴったりフィットした。
彼女は自分の手で髪をかき揚げる。
美しい花嫁・。
皆くいつき、じっと眺める。
シンゴ【俺のだぞー。】
ノリはシンゴを見て不快そうに去っていく・。
僕は苦笑いのままで部員の輪の中にいた・。僕は此処に存在出来ていることが何より嬉しかった・・。
僕はもう孤独じゃなかった。
何も恐くなかった・・。
ケイ【うっ・・】
僕は強い吐き気に襲われ、よろけながら廊下に出た。視界が真っ白になっていく・・。
ケイさん・・!
誰かが話し掛けた時、僕はもう僕ではなくなっていた・。
僕は目を開けて、すぐ頼るようにウタを見た・。
ウタは僕の方に歩いて来た・。
僕は素直に聞いた・。
僕が何かやらなかったか?と・・。
ウタは首を横に振る・。
僕はおどけた目で、僕のいるこの部屋を見渡した・・。僕が口を開き、声を出す前に、ウタは言った・・。ウタ【皆帰ったよ。】
僕の目には一人も映らなかった・。僕とウタしかいなかったのだ・・。
ウタ【今日はカーテンコールまでいきたいなあ。】
僕は役者達の輪の中にいた・。
奥の方ではサラが演劇部の小道具をチェックしている。ウタ【カーテンコールは、劇が終わった後に、劇に関わった役者が並んでする、挨拶のことだよ。】
僕は頷いた・。
僕は嫌な予感がした・。
役者は揃っている。
しかしそれ以外は・・
シンゴ【ラストだぞ。カーテンコールはケイ真ん中ー。】僕はシンゴにひっぱられ、舞台の方へ歩く・・。
僕は袖(客からは見えない、役者が待機などをする舞台の両端をいう。)に待機した・。ウタのメガホンが鳴った・・。【美しい音】
幸彦は殺人未遂で捕まり、正孝は病院で回復していく・・。
百合奈は花嫁衣裳で正孝の見舞いに来る・・。
正孝は百合奈に気付く・。百合奈【私は・・貴方が好きです・。】
正孝は何も言わずに聞いている。
百合奈【正孝さんが好きです・。】
正孝は軽く微笑む・。
舞台は暗転した・・。
シンゴ【本日は、美しい音を御覧頂き、ありがとうございました。今後とも、南高校演劇部をよろしくお願いします。本日は本当にありがとうございました。】
僕はシンゴの隣で頭を下げた・。
これで一通り終わった・。ウタは拍手をし、メガホンで止めた・・。
ウタ【よし。一旦休憩。】
劇が終わっても部員は全員揃わなかった・。
ここにいるのは、ノリ、シンゴ、サラ、リカ、マメ、ウタ・・そして僕・。
皆笑いあって、まるで家族のように・・欠けた者を気にしなかった・。
僕がおかしいのか・・。
そうだ、僕はおかしい・。他とは違う・。
頭ではケイが活動している・。
僕の身体は僕じゃないみたいだ・・。
僕は・・
頭が再び膨張を始める・。ケイ【僕は・・】
ウタは僕を振り替える・。ウタ【ケイ・・・!】
皆僕に注目した・。
サラは口に手をあて、ただ立ち尽くしている・。
リカ【ケイさん・。】
彼女は慌てるだけだ・・。僕は身体を痙攣させた・。苦しい・・。
ウタは冷静だった・。
ウタ【落ち着け。ケイ、大丈夫だから・。】
僕は彼の大丈夫という言葉に安心し、そのまま彼の腕の中で意識を失った・。ウタは自らの腕の中で意識を失っているケイが目覚めるのを静かに見守っていた・。
ウタは目をかっぴらいたケイの手に、何か握らせた・。冷たい・・何かを・・。
ウタはケイを観察するように見ている・。
リカ【ウタ・・さん・!】カッターだった・・。
有利な刃物を握らせて貰ったケイは、目を喜ばせ、何も言えなく、口を閉ざしたノリに迫った・。
マメはペンを走らせた・。僕は静かに目を開けた・・。
サラとウタが、僕の顔を覗き込むように見ている・。
ウタ【ケイ・。】
皆・・。
ノリ・・?リカ・・?
マメ・・・?
マメは日記を付けている。良かった・・一人じゃない・。
僕はマメに歩んだ・・。彼は気付けば、いつも日記を付けている・。
僕が近づくと、彼はいつものぎこちない笑顔で笑う。マメ【・・・。】
僕は何気なくノートを手にとった。
そして開く・・・。
ケイ【・。】僕は言葉が出なかった・・・。
これは・・!!
日記じゃない・。
人間観察だ・・・。
マメはノートを手にし、固まっている僕を黙って見ている・・・。
それはひどく残酷だった・・。[・・・・・Kは、意識を失う。・・・金槌で・・を殴る。・・血が辺りに散らばって・・・・・。・・・・・・。]
K・・。
意識を失う・・?
僕は血の気が引いた・。
頭が痙攣を始める・。
僕だ・・。
ケイ【・・僕がやったんだ・・・!】
僕は心の奥底から込み上げる笑いを抑え切れずに、声を震わせて笑った・。
それはまるで何かに取りつかれているかのような、狂った笑いだ・。
そしてウタを睨み付ける・・。
ケイ【僕はやっぱり一人なんだ・。】
ウタはケイにカッターを向ける・・。
両手でしっかり握り、ケイを見ている・。
サラ【・・・・ウタさん。】サラは弱々しくその場に座り込む・・。
マメ【・・やめてください!】
ウタは初めて聞く、彼の声に驚き、カッターを落とした・・。
そして何も言えなくなり、蹲った・・。
二人を見下すように、立っているケイ・・。
ケイ【何がやめてくれだよ・・。僕を面白がって見てたんじゃないのか・。】
再び込み上げる笑い・・。そして頭が裂けるような頭痛・。
僕が目覚めた時には今までと同じ二人はいなかった・・・。