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第4部-美しい音〜2

僕は台本という、台詞の束を貰う・。それを読み始め、初めて知りたかった結末を知る。

確かにハッピーエンド。

正孝と百合奈が結婚し、終わるのだ。

この台本からはいろんな事が分かる・。

人間性や人間関係、キャストの心の状態、例えば愛や憎しみ・・。そして役者はそれに基づき、成り切ろうとする、というより、その人格から離れられない。

抜けられないし、逃げられない。

また再び、メガホンが叩かれるまでは・・。    僕は舞台の上に立った。

何も無い、スペースだけの舞台に・・。

隣には正孝役のシンゴがいた。ウタがメガホンを叩くと、舞台は緊迫した空気に包まれた。

正孝には双子の弟がいる。正孝に似た、容姿を持つ、幸彦という名の男だ。

幸彦はある一人の女を使い、正孝を呼び出した。

その女とは・・・

正孝の妻になるはずだった百合奈であった・・・。

百合奈は正孝の顔を一目見てから、すごすごと奥へ去っていった。

正孝は百合奈を追おうとするが、幸彦が邪魔をする。正孝【どういうことだよ。お前百合奈に何した?】

興奮する正孝に向かい、静かに笑い掛ける幸彦。

幸彦【俺は何もしていない・・。】正孝は目を逸らした幸彦をただ見つめている。幸彦は軽く言葉を口にした。

幸彦【兄さんには無関係なことさ・・。】

彼はずっと冷静だった。

幸彦【ところで・・俺が何故兄さん呼んだか、分かる?】正孝は微笑を浮かべた幸彦に視線を戻す・。

正孝【・・分からない。】彼はただそう答えた・・。ウタは静かに立ち上がり、台本を見つめながら、役者であるシンゴに近づいた。ウタ【君の正孝は感情的過ぎる・。冷静な感じにしてほしいんだ。】シンゴはウタの目を見て頷く。

シンゴ【分かったよ。】

彼はそして僕の元へ戻ってきた・。

冷静な正孝は・・見ている者に恐怖感を与えた。

今まで皆彼を、花嫁に逃げられた婿という同情の目で見ていたのに、何だか近づきがたい人格に変わった。今は誰も彼に同情などしなかった・・。

今の、底まで落ち切って沈み込んでいる正孝に・・。劇の中で感情を無くしたかのようなシンゴの様子を見て、ウタの目は更に輝く。僕は彼の域に呑まれないようにして、必死でシンゴの隣にいた。       幸彦【・・俺が兄さんを呼んだのは・。】

正孝は幸彦の引き笑う顔を見た・・。

そして・・

ゆっくりと視線を下へ持っていく・。

彼は息を飲んだ・。

同時に喉がビクッと痙攣したかのように動く・・。

幸彦はそんな正孝にゆっくりと近づく・。

反射的に正孝は後づさる・・。

正孝【・・まてよ・。】

やっとのことで出した声は細くカタカタと震えていた・。

幸彦は表情一つ変えずに正孝に近づく・。

数センチだ・・・。

幸彦【ハッピーエンド・・。】

ズクッ・・。

鈍い音がして数秒・・

正孝は倒れた・・・。

幸彦は笑みを浮かべる・。幸彦【もう一人の俺なんかいらないさ・・。】   

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