五話 オカルト研究会、始動いたしますっ!
ゆっくり投稿しているので、遅くなるかもしてませんがご了承ください。
河童の情報を得るため、取り敢えず学園内共有の図書館に来た俺とサクラ。二人で一カ所を探すのも効率が悪い、ということで別々に探すことになった。
「イブキ、そっちはどうだった?」
「このぐらいだな」
ある程度、本を集めたところで机に座っていた俺に話しかけるサクラ。俺の前においてある本は三冊。
サクラは図書館の風紀を守りながら驚く。
「うへー、凄いね。私なんか何も収穫なしだよ」
「そりゃ料理本のコーナーだったからだろ。あったとしてもかっぱ巻きぐらいだろうな」
やれやれ、と鼻で笑う。
「それよりも、イブキが持ってきた本にはちゃんと河童のことが書いてあるんでしょうね?」
「大丈夫だ、本当はこれだけで足りる気もしたんだけどな」
そう言って一冊の本を手渡す。風化した表紙に書かれた題名は『妖怪の、妖怪による、妖怪のための本』
「妖怪についての本?」
「たぶん、そうだと思う」
「妖怪のため、って書いてあるけど。人間に読めるの?」
「さあな、試してみてくれ。俺はもう一度別の本探してくるよ」
俺は音が出ないようゆっくり立ち上がって本の森に入っていく。乱雑に本棚が並んでいないあたり正しくは本の街だ。
ーー一応、動物図鑑でも見てみるか。
動物コーナーを目指すことにした。動物コーナーの棚は陸生生物だけの図鑑や水生生物、両生類、爬虫類のみの図鑑など種類が豊富だ。俺は近場にあった両生類の図鑑を手にした。数ページめくってみるものの載せられているのはカラフルな色をした毒を持つ蛙やイモリなどの有尾目など、正に両生類と呼べるものたちばかり。流石に河童などの架空と言われる生物は載ってはいないようだ。
俺は溜め息混じりに図鑑を戻した。
ーーここじゃなかったか……。
小声で呟き、他に生物に関係した本がないかと辺りを見回す。俺が見つけたのは本ではなく隣の本棚で高い位置に手を伸ばす小麦色の肌に赤味の強い栗色をした長さミディアムのおでこをだした髪型の女子生徒。前髪をそのまま上に持ち上げてヘアピンで留めてある。首もとで結んでいるリボンの色は一年生を表す緑色だ。
プルプルと震えながら必死に背伸びをしている辺り、どうやらギリギリ届かないようだった。
「この本でいいか?」
俺は指先の延長線にあった本をヒョイと取ってやると手渡した。女子生徒は俺の顔をジッと見つめていた。
「どうかしたか? 俺の顔に何か付いてるのか?」
「あ、いや。えっと、その……。ありがとう……」
女子生徒は本を受け取らずに、蚊ほどの礼を済ませると逃げるように走り去った。その後、図書委員から走るなと注意されて分かりやすく驚いていた。
「何だったんだ? あいつ」
俺は首を傾げた。
結局何も成果は無くサクラが待つ机に向かうと、こちらにおいでおいでと手を招いていた。
「何か見つけたのか?」
「うん。でも、キュウリが好物だとか尻子玉を引き抜くだとか有名なものだけどね」
「それだけか……。なら、次は目撃者でも捜すかな」
「そうだね。この本、片づけてくるからちょっと待っててね」
「いや、俺が持ってきたんだし。俺が片づけるよ」
「なら、二人でさっさと済ませようよ」
「そうだな」
ある程度の情報を得た俺たちは図書館を後にした。
部室のある特別教室棟に向かうため中庭を歩いていると、野球部の勢いある声が聞こえてくる。遠くからは管楽器の声、屋上で練習している吹奏楽部だろう。
そんなことを思っているうちに特別教室棟に到着、三階まで上り木製のドアを開ける。
「おーっす。って、水穂だけか?」
水穂はソファーにではなく床にペタンと座り込み、持参しているであろう絵本を読んでいた。
「カエデくんなら箱取り行くってぇ」
「箱? ああ、噂回収箱のことか。ていうかあれってどこに置いてるんだ?」
「なんかぁ、大学を除いて各校舎に置いてるんだぁ、って言ってたよぉ」
「一人じゃ無理だろ。ちょっと捜してくる」
俺は部室を飛び出した。特別教室棟を出て、まずは後期中等教育校舎に向かう。特別教室棟と教室棟は渡り廊下で繋がれているため図書館から中庭を経由したときのように外には出ず、廊下を競歩する。
各校舎に一個ずつあるとすれば、その校舎の全生徒が一度は訪れる管理棟に置くのが普通だろう。頷いた俺はまず管理棟を目指すことにした。
その途中、経由する教室棟で俺は段ボールに上半身が隠れた女子生徒を見た。前が見えていないのか重いのか、ふらふらと歩いている。
「大丈夫ですか? 俺、持ちますよ」
そう言って下から持ち上げる。
「ひゃあ!」
温かくてふにふにしたものに触れたが、驚いて手を離すことはせず一言謝った。
段ボールをどけると見たことのある顔が見えた。図書館で本を取ってやった女子生徒だった。
「お前、また一人でやろうとしてるのか? 誰かに手伝ってもらえよ」
「手伝いなんていらない……」
「お前な、人間が一人で出来る事なんて限られてるんだぞ。一人で何でも出来るような奴はこの世にいやしないんだ。だから誰かを頼ってみろよ」
女子生徒は呆気にとられたような顔をしていた。しばらくして顔を赤く染めると走り去ろうとする。俺は段ボール越しに腕を掴み、動きを止めた。
「待った。これ、どこに持って行けばいいんだよ」
「理科……準備室」
場所を言い終わり俺を睨むと掴んだ手を振り払い、床を鳴かせながら走り視界から消えた。
「ったく。お礼くらい言えよ」
「おや、イブキさん。こんな所で何をしているんですか?」
直後。後ろから聞いたことのある声、カエデの声が聞こえてきた。振り返ってみたものの予想外の光景が目に入る。
「……お前こそ何してんだよ」
「何って、見たとおりですよ」
カエデは廊下だというのにも関わらず麦わら帽子を被り、首にタオルを巻いてリアカーを引いていた。荷台には三つの箱が載せてある。
「畑仕事の帰りか?」
「いやいや、畑でこれは採れないですよ」
スイカを選別するように荷台の箱をポンポン叩く。
「ところで、それは何ですか? 運ぶんでしたら載せましょうか?」
「なら、理科準備室まで安全運転で頼む」
「了解しました」
ゆっくりと進み出すカエデに俺はその速度に合わせるように歩く。カエデは唐突に質問を繰り出す。
「河童についての情報は得られましたか?」
「いや、それがあまりなくてな。キュウリが好物だとか尻子玉を抜き取るとか、有名なものばかりだ」
「あとは頭のお皿も特徴ですよ。濡れてないと力が出ないそうです」
「そんなのもあるのか」
関心を見せた俺は腕を組む。しばらくそうして歩いた後、思い出したようにカエデに問いかける。
「なあ、もしかして。アヤメを入部させたのって、あの二人目のアヤメが関係しているのか?」
「はい。アヤメさんに入部してもらって話を聞くつもりだったんですが……」
「聞くつもり、って。アヤメは見てたのか!」
「いえ、残念ながら詳しいことは聞いていないので分かりません」
「そうか。じゃあ、本人は知っている可能性があるんだな?」
「ない、とは言いきれません。生徒会のお仕事が落ち着いて、部室に来てくれればお話出きるんですけどね」
「なあ、カエデ。お前はどう考えてるんだ? もう一人について」
「そうですね。恐らくドッペンゲンガーではないかと」
「ドッペンゲンガーってあの?」
「はい。ドッペンゲンガーを三回見た者には死が訪れる、という有名なやつです」
「後、二回……」
俺は唇を噛み締めた。
「あくまでも、予想の話ですから。もしかしたら、ただのそっくりさんかもしれませんよ」
「そ、そうだよなっ! そうだよな」
「……ほら、もうすぐ部室に着きますよ。あと、この話をするのはボクら二人のときだけでお願いします。あの二人に心配をかけさせたくないです」
「ああ」
カエデはリアカーを部室前に停めて荷台から段ボールを二箱取り出し準備室のドアの開ける。
「さっさと終わらせましょうか、お二人が鼻を長くして待っていますよ」
「首だ首! 象みたくなるだろ!」
「あ! 見てください。カエルが酢漬けにされてますよ」
「骨が柔らかくなるだけだろ! 食欲旺盛だな!」
「このフナたちもいつかは煮物か何かにされるんですよね」
「だから、食欲旺盛だな!」
こうして、うるさいぐらい賑やかにおつかいを済ませた俺たちは再び畑仕事帰りの格好に戻った。
「ただいま帰りましたよー」
サクラと水穂は驚きの声を上げた。いきなり開いたドアもそうだが、カエデの格好に驚いたようだった。
「その格好何? 畑帰り?」
「何を収穫したんですかぁ?」
そんな二人に舌を鳴らしながら指を振って答えるカエデ。
「お二人とも、不正解です。ボクは噂回収箱の回収に行っていただけですよ」
「水穂のは質問だけどな」
「それで、中身はどうなの?」
「少々お待ちを……」
カエデは新聞紙に包まれた薄くて長いものを取り出す。新聞紙を剥がすとそれは両面に刃が付いているノコギリだった。
「ちょっと待った! それ開けるとこないのかよ!」
「はい。斬るしか方法がありません」
「何か他に、ノコギリ以外で開ける方法考えろよ!」
「でしたら……」
通称サーキュラソーとも呼ばれる電動丸ノコを取り出す。
「こらー! ほぼ一緒だろうがー!」
「ならば……」
アセチレンガスのボンベと酸素のボンベ、その先に付いた吹管を取り出し、それに適した保護具を着用した。
「溶断か? 溶断するつもりなのか? ていうか、その器具ははどこから持ってきたんだよ!」
「そんなに否定されては仕方ありません。普通に開けますよ」
「普通に開けれんのかよ。今までのやりとりは何だったんだよ」
カエデは箱を裏返すと豚の貯金箱のような黒い蓋を引っ張って開ける。中には一枚の紙が入っていたようで、机の上にひらひらと落ちてきた。
「匿名……みたいね」
二つ折りにされたそれを拾ったサクラは、開いて内容を確認した。
「何て、何て書いてありますか?」
「えっとね、『復讐のトイレ』だって」
「なるほど。今まで人間に虐げられてきた便器たちが、復讐を開始すると」
「何そのSF作品! 怖ぇよ!」
「やがて、彼らは気づくのです。『あれ? 俺たちって便器暖めるか、ウォシュレットで水鉄砲くらいしか攻撃できなくね?』と」
「水鉄砲はまだしも、便器暖めるだけじゃ相手のライフポイントは削れない! 弱ぇよ!」
「そして。計画だけ練って特に行動は起こさず、またいつもの日常に戻るのです」
「早ぇよ!」
その後、この投稿された噂は『河童の沼』が終了するまで待機。ということでホワイトボードの端に磁石で貼りつけられた。
感想、修正点などお待ちしています。