一方その頃……。 レンゲと絵本部
強くて優しくてかっこいい。そんな王子様に出会うのが私の夢。絵本ではそれが簡単にできます、だからわたしは絵本が好きになりました。
この学園に絵本部があると知ったのは、小学校での自己紹介がきっかけでした。
「初めまして、水穂レンゲですぅ。好きなのは、絵本とぉ……絵本ですぅ」
自己紹介が終わると、先生がわたしに教えてくれました。
「レンゲさん、高等部には絵本部っていう部活があるのよ」
「部活ぅ? なんですか、それぇ」
「部活っていうのは、みんなで同じ目標に向かって頑張ろう! っていう集まりなのよ。絵本部の場合はたしか、絵本を作るんじゃなかったかしら?」
「絵本を……作るぅ」
その発想はわたしにはありませんでした。今までわたしは他人が作った物語だけを読むだけで、わたしだけの物語を作ったり、考えたりすることもありませんでした。
ーー絵本を作るぅ。
興味を持ったわたしは早速挑戦してみることにしました。
最初の作品は『もしも、まほうがつかえたら』
内容は魔法が使えるようになった女の子が、おつかいや宿題を魔法で解決してしまうお話。王子様は登場しないけど作るのって楽しい。
わたしはその後も絵本を描き続けました。
お花を題材にしてみたり、わんちゃんを題材にしてみたり……。
でも、中学生になったときから絵本は描けなくなりました。コウノトリさんがやってきたのです。
家で絵本が描けなくなったわたしは先生の言葉を思い出して絵本部のドアを叩きました。
そこで伝えられたのは、酷い現実。
「あー、ごめんねうちの部は。中学生は入れないんだよね。高校生になったらおいでよ」
わたしは待ちました、高校生になる日を。指折り数えました。
そして念願叶って高校生の入学式。
日高さんが二人いたことはビックリしたけど、わたしの頭の中は絵本部のことでいっぱいになっていました。
「ねー、レンゲ。やっぱり絵本部に入るの?」
話しかけるのと同時に抱きついてきたのは小等部からお友だちのタンポポちゃん。お花のたんぽぽと同じで明るく、元気な笑顔を見せてくれる女の子です。
「うん、そうだよぉ。タンポポちゃんも一緒に見に行くぅ?」
「あー、行きたいんだけど。わたし生徒会にスカウトされちゃってさ。いやぁ、わたしの頭の良さがバレちゃったのかな」
「そうだねぇ」
「おいおいレンゲ。そこはツッコむとこだろ?」
ーーツッコむぅ?
意味がよく分からなかったわたしは、首を傾げてカバンから色鉛筆を取り出しました。
「二十四本あるけどぉ、どれをどこに突っ込むぅ?」
「怖いわ!」
ーー違うのぉ?
色鉛筆をしまったわたしは、拳を軽く握ってそれをジッと見つめます。
「これをぉ……」
「やめて。お願いだから」
タンポポちゃんはわたしの拳を包み込みました。
「じゃあわたし、生徒会室行かないといけないから。また明日ね」
「うん。じゃあねぇ」
わたしは手を振って見送った後、頷いて自分に言い聞かせました。
「よーしぃ。行こぉー」
あの日の記憶を頼りに、わたしは特別教室棟を目指します。