一方その頃……。 ボタンとスミレ
にぃにと分かれた後、ボタンはミィちゃんとクラス分けを見に行った。
「もう三年生だよ、中学校の長だよ」
「タァちゃん、村じゃないんだから」
「なら、組長?」
「それも違うよ」
「じゃあ、番長!」
「喧嘩はしないでね」
「んー……。ところでさ、番長ってなに?」
「えー……と。が、学園内で一番強い人……かな」
「なにそれ! カッコイイ!」
「っ、しまった! た、タァちゃん、そんなことよりクラス分け。クラス分け見ようよ!」
そんな会話をしながら学園掲示板を覗き込むと、同じクラスの三年三組にボタンとミィちゃんの名前が並んでいた。
「やったー! また同じだね!」
「うん! よろしくね!」
両手を合わせて喜び合った後、新しい教室を目指し足を進める。
「ねぇ、ミィちゃん。ボタンって番長になれると思う?」
「お願いだから目指さないで、タァちゃん」
こんなに真剣なミィちゃんを見るのは久しぶりだった。きっと、ミィちゃんも目指してるに違いない。だって、カッコイイもんね。
「ミィちゃんが言うならそうするよ」
ここで譲ってあげるのが大人の対応ってやつね。
ボタンは空を見上げ、ミィちゃんはなぜか疲れの息を吐いた。
…………。
「ねぇ、ミィちゃん聞いてよぉ」
教室に着くなり机に脱力したタァちゃんがわたしの名前を呼びます。こういうときはお兄さんのことが多いです。
タァちゃんはお兄さんが大好きなのでお兄さんの前では基本良い子を演じていますが、お兄さんが見ていないときはダラダラしていて子どもっぽいです。それでも全教科の成績が良いので不思議です。
わたしは背もたれに肘を着きました。
「……どうしたの?」
「あのねぇ、今日占いが最下位だったの!」
あれ? お兄さんは関係ないのかな。
「意中の人に嫌われるかも。だって」
あ、関係あった。
とりあえず、しおれてしまったタァちゃんをなんて励まそうかと考えます。
すぐに名案が浮かびました。マンガみたいに表現するなら頭の上に豆電球です。
「でも。占いって、する人によって違うよ」
そう言ってカバンに手を伸ばすと、女子中学生に人気のファッション雑誌ファンシーレモンを取り出す。もちろん、ファッションチェックが目的ではなく雑誌の一番後ろのページ、占いのページが目的です。
「ほら! 見て!」
「えーと、おうし座は……。七位だ! 微妙……」
「でもほら、幸運の鍵は親友を助ける。だってよ」
「何か困ってることある?」
「今はないかな……あ!」
「どうかした?」
「わたし……やぎ座、最下位だ」
「え、本当! なになに、急な睡魔に気をつけましょう。だって」
「ど、どうしよう……」
「大丈夫! ボタンが起こしてあげる」
任せなさい! と言わんばかりにタァちゃんは胸を張ります。わたしが不安を感じているのは秘密です。手に汗いっぱいです。
…………。
「さて、 ミィちゃんのために頑張りますか!」
ボタンはにぃにのため、ボタンのため。そしてボタンために頑張る。
そう意気込み、その場で小さくガッツポーズをした。
今は朝のホームルーム、占いの通りミィちゃんに睡魔が襲いかかった。
「ミィちゃん! 起きて!」
背中を叩くとミィちゃんの身体がピクリと動いた。
「あ、ありがとう。タァちゃん」
再び、ミィちゃんに睡魔が襲いかかった。
「ミィちゃん! 起きて!」
「だ、大丈夫だよ。新しい教科書に名前書いてるだけだから」
また、ミィちゃんに睡魔が襲いかかった。
「ミィちゃん! 起きて!」
「ご、ご飯……ごほっ、食べてるだけだから……大丈夫」
またまた、ミィちゃんに睡魔が襲いかかった。
「ミィちゃん! 起きて!」
「大丈夫だから、チリトリ押さえてるだけだから。ていうかタァちゃんも掃除しようよ」
どうやら、睡魔に襲われてはいないようだ。しかし、気が緩んでいるときこそ最も危ないとき。そういえば教室を出たっきり、ミィちゃんの帰りが遅い。
ボタンは駆け足でミィちゃんのいるところへ向かった。
「ミィちゃん! 起きて!」
「もうっ、おトイレくらいゆっくりさせてぇー!」
睡魔には襲われてなかったみたい。
放課後になった。ミィちゃんの雑誌を読み返していると、やぎ座の幸運の鍵は胃薬らしい。
「この占い、当たってるかも……」
ミィちゃんはお腹を押さえながらそう呟いた。