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これは“ドッキリ”だよな? どこかにテレビカメラとかあるんだよな?
それとも“オヤジ狩り”?え、俺まだ27才だけど、もうカモられてる?
突然現れた、魅力的な女の子。
しかも俺のことを“気になってる”とか“なぜ連絡をくれないの?”とか…ーーー思わせぶり満載、な言動。
こんな恐ろしい現実は起こるはずがないのだ。
俺は少女漫画に出てくる絵に描いたような“イケメン”でもないし、ましてやこんな可愛い女子高生に言い寄られるほどの魅力など、あるはずもない。
だからこれは悪戯で、彼女に弄ばれているだけで。
そもそも、俺は少女に興味はない。
年上の女性の方がはるかに魅力的だ。
俺が彼女に断りの言葉を告げ、暫くの沈黙があった。
彼女の中で、気持ちを整理しているのだろう。
そして彼女が、ゆっくりと口を開く。
「えっと…」
なんだか申し訳なさそうな表情で、俺は、泣き出されるのかと一瞬ヒヤリとした。
「とりあえず、lineアドレス教えてもらえますか?」
スクールバッグから携帯電話を取り出して、彼女が言った。
「?」
(あれ…俺今、ちゃんと断ったよな?)
どう整理したら、そうなったんだろうかと俺が唖然としていると、
「いや、私のだけ教えても、私から多治さんに連絡出来ないじゃないですか」
彼女は『なぜ連絡先を教えて欲しいのか』の補足を始めた。
(いやいや、lineの使い方なら知ってるよ?lineは俺も使ってるからね?)
どうやら俺の気持ちは全く通じていなかったらしい。
傷付けないように、回りくどい言い方をした俺が悪いよな。
「そうじゃなくて、俺は君と連絡するつもりはないし、君から連絡してもらうつもりもないから。」
「え?なんでですか?」
「いや、だから…ーーー」
(あれ?ここまで言っても察してくれないのか?)
日本人って、あれだよな?空気読むの大事にしてる人種だよな。大抵の日本人ならもう諦めるよな?
「私のこと、何も知らないのに。」
隣のベンチに座っていた彼女が、立ち上がって言った。
「!」
俺は、突然彼女が立ち上がったからか、ドキッとした。
夕陽が、彼女の横顔をほのかにオレンジ色に染めた。
「知る前に、拒否ですか?」
真剣な表情で、彼女が俺を見つめる。
「………。」
(なんだろう…すごく断りづらいなコレ…。)
「フるならせめて、友達として私を知ってからにしてくださいよ」
「友達って…」
(年離れすぎだし、異性だし…)
そんな子と“友達”なんて、おかしいだろ。
―――…周りはそんな目で見ないんだから。
「今日から私は、多治さんと友達です!」
強引にそう断定する彼女。
(―――まだ、断り方なら、他にいくらでもあったはずだ。)
それなのに、俺はまっすぐに向かってくる彼女の心に―――どういうわけか、逆らえなかった。