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私とオージさんはベンチに並んで座った。
――――正確には、並んでいるベンチの右に私、左にオージさんが座った。
「あの、オージさんは…」
遠くて話しづらいな…と思いながら私は1メートル離れた隣のベンチに座っているオージさんに早速話し掛ける。
「王子?」
いったい誰のこと言ってるの?と混乱したような彼に、
私はキョトンとしてしまう。
「いや、“オージさん”ですよね?」
私は、会社のネームプレートを付けているスーツの胸元の方を指差して言うと、
「え?―――あぁ…」
自分の胸元を見て、オージさんが少し笑った。
「俺は“タジ”だよ。“多治”。」
(な、なんですってー!)
青天の霹靂。ピシャーンッと雷が落ちたようなショックだった。
まさかの漢字の読み間違い。
恥ずかしすぎる。てっきり“オオジ”だと思って、私の“王子”様だとか思ってたのに。
「すっ、すみません…」
恥ずかしくて真っ赤になって俯くと、
ブハッと豪快に吹き出す笑い声が聞こえてきた。
「あはははっ…」
(わ、笑った!!)
オージさん、いや、多治さんがこんなに笑うところを私は初めて見た。
(笑うと目が細くなって、すごくかわいい。子犬みたい。 )
恥ずかしくて真っ赤になっていたのも忘れて、私は多治さんに見とれていた。
私の熱い視線に気付いた多治さんは、きまりが悪そうに、すぐに笑うのをやめた。
(なんだ…もっと見ていたかったのに)
残念がっているところに、真顔に戻った多治さんが、
「手紙…読んだよ。」
と、小さな声で言った。
「はい!それで?」
隣のベンチに行きたかった。多治さんの座っている隣のベンチに。
だけど、きっと逃げられるから、私は右のベンチのギリギリ左隅にまで身体を滑らせて、多治さんの返事を待った。
(ドキドキする。告白の返事を聞くのって、こんなに緊張するのね…)
私が多治さんをじっと見つめていると、
多治さんは一瞬だけ私の方を見て、深いため息をついた。
「それでって…。君、高校生でしょ?こんなおじさん、興味持つの止めなよ」
(ん?)
私は今、多治さんがなんて言ったのか、意味がわからなかった。