3
神様って、いるのかもしれない。
私は書店に向かう途中で、目の前を歩くスーツ姿の人を見た瞬間、神に感謝した。
「オージさん、」
声をかけても、目の前の男性は振り返ってくれなかった。
「あのっ、待ってください」
私は走って彼の前に回り込むと、両手を広げて通せんぼした。
「ぅわっ!!」
目の前に妖怪でも出たかのような、見事なリアクションで、彼が後ずさる。
「すみません、あの…」
私は私で、引き留めたのはいいけどなんて話をしたら良いのかまでは考えていなかった。
(とりあえず、自己紹介よね?)
人が初めて話すときはまず名乗るべきかなと思ったので、
私はまっすぐオージさんを見つめて、
「私、優木梨花っていいます。あの…手紙、読んでもらえました?」
と話し掛けた。
「え、あー、うん」
困ったように、目をそらしたオージさんが頭をかく。
「じゃあ…どうして連絡、してくれなかったんですか?」
ずっと待ってたのに、と言いかけた私の口を、彼の手が塞ぐ。
色っぽい動作とかではなく、焦ってつい、という感じで。
「むごっ?」
(あの、この手は一体?)
オージさんが塞いできた手を指差して首をかしげると、彼はすごく小さな声で言った。
「…少し、離れて話しませんか?」
「むごっ?」
(離れて…?)
「…色々、困るんで」
困ってるんだ、やっぱり。そんなオーラ出まくってるもんな…。
でも、そんなことで私はへこたれない。
私の口を塞いでいた彼の手をそっと握ると、
「わぁ…っ」
と、彼が手を放す。
「どこでなら、話してもらえますかっ?」
口が使えるようになったので、私は早速オージさんに訊ねる。
オージさんが話す時間を提案してくれただけで、
私は舞い上がりそうなぐらい嬉しかった。
―――“離れて”という条件付きだったのは腑に落ちないけど。
「あ、あそこの公園でもどうですか?」
私が少し先にある公園を指差すと、
「分かったから、とりあえず離れて…」
オージさんが私がさりげなく腕を組んだのを瞬時にほどく。
「はい、離れます!」
私は2メートル程の間をあけて、近くの公園まで向かった。
(オージさんと、ついにデートだわ!!)
神様…ありがとう。 私、無宗教だけど。