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「おい、多治っ」
手紙をボーッと見つめながら、自分の身に何が起きているのかまだ脳内の処理が追い付かないでいると、同じ部署の先輩が俺のデスクにやって来ていた。
中野忠直先輩は、俺の直属の上司でもある。
すらりと背の高い、渋い顔立ち。無精髭をはやしているのにそれすらも爽やかに見えるほどの35才の主任。
「昨日頼んでた書類!まだ出来てないのか?」
「あ!すみません、それなら…ーーー」
手紙を隠すようにしまい、書類の入ったクリアファイルを出そうとする。が、しかし、慌てていたために例の手紙がヒラリと床に落ちてしまった。
(あっ!)
「ん?ナンダコレ」
慌てて拾おうとした俺より早く、中野さんが拾い上げてしまった。
「わー、中野さん!!」
急いで中野さんの手から手紙を取り上げるも、呆然としている主任の表情からしてすでに手遅れだったか…ーーーー?
「見、みました?」
文章全ては見てないかもしれないと、わずかな希望を胸に俺はおそるおそる先輩を見上げる。
「お前も隅に置けねぇな」
(あぁ、やっぱ見られたか―っ)
ニヤリと笑う中野主任の表情を見て、俺は血の気が引く。
(俺のサラリーマン人生オワッタ…――――)
真っ青になったままの俺に、中野さんは肩にポンと手を置くと、
「お前、なかなか彼女作らないなと思ったらロリ…――――」
「なーっ」
社内で恐ろしい発言をしかけた中野さんの声を、俺は咄嗟に大声で防ぐ。
しかし、周りに怪訝な顔で見られ、ますます青くなる。
「中野さん、違いますからっ!」
思わず立ち上がって、全力で伝える。
「わかったわかった、捕まるなよ?」
口元に笑みを浮かべて、中野さんは書類の入ったクリアファイルを手に行ってしまった。
(わー…、全く分かってらっしゃらないっ、クソっ)
周りに冷ややかな目で見られている俺とは違い、爽やかに立ち去る中野主任。
(あぁ…なんでこんなことに…ーーーーー)
俺は頭を抱えながら、絶望と共に椅子に腰を下ろす。