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翌朝、いつも通っていたはずのコーヒーショップの前で、俺は立ち止まる。
『ちゃんと向き合えよ。そう思える相手なんて、そうそういないんだからな』
別に、早瀬さんに言われたからではない。ただ、急にここのカフェオレが飲みたくなっただけだ。
暫く店の前で入るのを躊躇っていると、店のドアが開いた。
「おはようございます、多治さんっ!」
明るい声が聞こえてきたと思ったら、スタスタと足早に近づいてくる彼女、――――優木梨花だ。
(バイト中なのに、出てきたのか?もしかして、俺の姿に気付いて?)
呆然と立ち尽くしていた俺の前で立ち止まり、頬をピンクに染めて、嬉しそうに目を細めてふわりと微笑む。
―――そんな彼女に、俺は心を奪われていた。
(あぁ…――――ダメだ…降参だ…)
自分の気持ちに気付いてしまったら、なんだかもう抵抗する気力もなくなった。
(何とも思えないわけ、ないだろ…)
「…おはよう」
俺がぎこちなくそう返すと、優木梨花は満面の笑顔で俺を見上げて言う。
「お待ちしておりました!」
――――その日のカフェオレは、いつもより甘く感じた。