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「おーっす、大輔!!」
突然部屋に押し掛けて来たのは、隣に住む同じアパートの住人の早瀬要さん。
俺より2つ年上で、それだからなのか図々しさ半端ない。
「なんすか、早瀬さん」
「いや、今日はイイオンナがつかまらんくてな。仕方なくお前と飲んでやろうかと」
片手に持っていたお酒を見せるように挙げ、早瀬さんが笑う。すでになんだか酒臭い。
俺は、このパターンを知っている。
「あの…またフラレたんですか?」
「は?フラレてねーよ、こっちからフってやったんだ!」
(やっぱりか…―ー―)
この隣人は、なぜか彼女と別れる度に俺の部屋にやって来る。
「早瀬さん、声が大きいですよ」
夜9時過ぎは、色々と音に気を遣う。ここのアパートの壁が薄いからだ。
「んだよぉ、大輔!お前だって失恋ぐらいしたことあんだろ?」
酔っぱらいの早瀬さんが絡んでくる。
(失恋…)
「そりゃ…ありますよ」
「まぁ、呑めよ」
早瀬さんは勝手にキッチンからグラスを持ってきて、お酒をつぎだした。
「いや、俺は…―――」
(つうか、失恋話をしに来たんですよね?)
「おい、先輩の注いだ酒が飲めねぇのか」
「先輩…って」
「先輩だろ、人生の」
結局俺は、酔っぱらいの早瀬さんの注いだ酒を断りきれず、飲むことになったのだった。