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――――「運命」だって思った。根拠はない。理由だって無い。ただ、単純に…頭にそう浮かんだんだ。
多治さんに出逢ったのは三ヶ月ほど前だった。
それまで私は夕方からコーヒーショップでバイトをしていたんだけど、大学生のバイトの人が辞めてしまったとかで、その代わりとして朝の時間もシフトを入れるようになっていた。
朝はサラリーマンやOL、仕事に行く人の接客が主だった。
同じ仕事内容のはずなのに、時間に追われている社会人の接客は、なんだかピリピリしていた。
「カフェオレ、ひとつ」
そんな時、彼からの注文を受けた。
のんびりした雰囲気の、癒し系な人。
(イイ人そうだなぁ…)
彼の第一印象は、そんな感じだったのを覚えている。
彼が毎朝うちのコーヒーショップに寄っていることに気が付いたのは、それから数日後のことだった。
(今日は疲れてるなぁ…)
(今日はなんか張り切ってるなぁ…)
毎朝毎朝顔に出ているから、それを見るのが楽しくて。
私は勝手に多治さんを観察しては癒されていた。
頼むのは、いつも「カフェオレ、ひとつ。」で。
目の前で、毎朝会話をしているのに、“私”のことは見えていなくて。
日に日に彼を思い出す頻度が増えていった時。
出逢ってしまったんだ…駅前の書店で。偶然。
だから私はやっぱり「運命」だと思った。
そして願ってしまった。
彼の瞳に“店員”ではなく“優木梨花”として映りたいと…――――。