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夜の8時、残業をしていた俺のところにlineの着信音が鳴った。
スーツのポケットから取り出して確認してみると、今日連絡先を教えたばかりの女子高生、優木梨花からだった。
『お仕事終わりましたか?』
「いや、まだ仕事してる」
俺はささっとそれだけ送って、また仕事に取り掛かる。
するとすぐに、『頑張ってください』というメッセージの書かれた可愛らしいキャラクターのスタンプがすぐに送られてきた。
(レスポンス、早っ)
まるで会話しているようなテンポで、返ってくる彼女からの文字。
「多治くん、もうすぐ終わりそう?」
隣の席の鈴木優那さんが、パソコンをシャットダウンさせながら声をかけてくる。
「あ。はい…もう少しです」
携帯電話をデスクの隅に置き、俺はパソコンのキーボードの上に置いた手を急いで動かす。
「何、嬉しそうに携帯電話なんて見ちゃって。彼女?」
見たわよーと優那さんがニヤニヤしながら俺の顔を見てくる。
「嬉しそうになんて見てないし!」
(彼女じゃないです!)
俺が必死に否定すると、優那さんが盛大に笑う。
「心の声の方が口から出てるわよ、多治くん」
(わー、俺アホすぎる!!)
「まずは仕事に集中しなさいねー。お疲れ様」
笑いが止まらないのかヒーヒーお腹を押さえながら優那さんは帰っていった。
(“彼女”…か)
彼女と呼べる人がいたのは、何年前だったろう…。
思い出すことを吹っ切るために、俺はまた仕事を片付けることに専念した。