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「おい多治!お前出先から戻るって連絡寄越してからずいぶん遅かったな!」
会社に戻ると、中野主任が俺を待ち構えていた。
「す、すみません!!」
(女子高生と連絡先交換してました、なんて…言える訳がねぇっ!!)
優木…梨花。
席に戻っても、つい先程自分の身に起こったあり得ない出来事を思い出してしまう。
「もうすぐ定時だろ、今日中に仕上げろよ?」
ボーッとしていたところを中野さんに見られて、俺は急いでパソコンに向かう。
「はい。分かりました」
(何してるんだよ…俺は…ーーーー)
仕事に取り掛かりながらも、何度も思い出してしまう女子高生の彼女。
『私のこと、何も知らないのに』
知ったところで付き合う訳でもないし、そもそも好きになることはない。
完全に失恋が確定しているのに、なぜ彼女は俺に構うんだ?
なぜ俺は、彼女に連絡先なんて…教えてしまったんだろう。
―――中途半端な優しさほど、傷つけるものはないのに。