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「あ!カフェオレの…」
何気なく寄った駅前の書店で、俺はそんな呟きを耳にした。
驚いたような、気付けて嬉しいような、そんな女の子の声。
―――まさか、その言葉が俺に向けられているなんて、思うはずがなかった。
「あの!カフェオレ好きなんですか?」
―――だから袖を引っ張られたとき、俺はビビった。
「…はい?」
(俺に言ってるんだよな…めちゃめちゃ俺の方見てるし)
ビビりながらも振り返った俺は、こちらをじっと見つめているその女の子に見覚えがあった。
腰辺りまである長い黒髪、真っ直ぐに整っている前髪、
二重で大きめな目に、黒くて大きな瞳。
背は低めだが俺が178だから、きっと155くらいか?
見た目幼いが、多分着ている制服はどこかの高校のものだろう。
―――つまりこの子は、現役の女子高生だ。
「あの…失礼ですが…。どこかでお会いしましたか?」
俺は今年27歳。
なのに、10歳ほど年の離れている女の子にこんな口調で話したのには、理由がある。
一つは、“変ないちゃもん”つけられたら怖いから。
もう一つは周囲の人間に、 “この子とはなんの関係もない”と分かって欲しかったから。
やってもないのに“変態発言”とかされて会社をクビになったらどうしよう…、俺の頭の中にはそんな不安しかなかったのだ。
(俺は、何もしてない!女子高生に知り合いなんているはずがないんだ!)
「私、分かりませんか?」
――――だから、そんな風にガッカリされる筋合いは全くないはずなんだよ、お嬢さん。
とりあえず、俺のシャツから手を離してくれませんかね、
色々と、怖いんで。