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東方八岐録 ~夜の細道~  作者: 桐生直隆
序章 須佐之男之命編
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六夜 砕けた仮面と本音

 今回は夜さん視点、永琳視点、須佐之男視点の全てがあります。

 

 来た。


 空に浮かぶ巨大な影。最初に見えた頃に点のようだったそれは次第に大きくなってゆき、現在では空を埋め尽くさんと接近してきていた。


 永琳の予想通り、俺の力は増して行った。一ヶ月前の自分と戦えば、間違い無く今の自分が勝利するだろう。

 しかし、それでも隕石をどうこうできるほどの力は無かった。 

 まだ力が足りない。もうすぐ、隕石は大気圏内に突入する。そこで俺の力が極端に強化されるはずだ。脅威・危険が近付いて来れば来るほど力が増すなんて、ある種のチキンレースのようだと思った。


 大気が震える。

 巨大隕石が大気圏内に突入したのであろう。永琳の予測が正しいののあれば、もうすぐ俺の力が超強化されるはず。


 ……最後の宇宙船郡も無事出航したようだね。


 遠く、宇宙船が大地を離れた音が聞こえる。

 あれには永琳も須佐之男も乗っているはずだ。ここで俺が隕石を破壊しなければ、二人が乗った宇宙船は衝撃波に飲まれ大破。宇宙空間で投げ出されることになるだろう。なんとしてでもそれだけは阻止しなければならない。


 ――それは、突然だった。


 鼓動。

 どくんっ、と一際大きく心の臟が響きを見せると同時。俺の身体に膨大な量の力が流れ込んで来た。

 その量は余りに多すぎる。身体中に力が漲るが、それを制御することも容易ではない。

 力の奔流は、身体を内部から焼き尽くす。自分の限界を超えた力は、強化を与えると同時に身体を蝕み、激痛と共に俺の身体を灼熱が暴れ回る。身体のいたる所からは蒸気にもにた黒紫の妖気が立ち上り、臨界点を突破した災厄の妖気は身体に強制的な変化をもたらした。


 俺の体内の災厄が形を成していた角は、歪な形へと変化した。

 瞳の鬼灯色は一層と輝きを増した。目内部、瞳を除く余白の部分は黒く染まる。

 臀部からは、今や懐かしき化物だった頃のように、八本の尻尾が突き出した。

 身体中を亀裂のように、鱗に見えるように、黒紫の線が駆け巡った。巡った亀裂は鼓動の度に鈍い光を放ち、それが血管であるように妖気を身体に送り込む。


「ぐ、がぁあぁぁあああああああぁぁぁああぁあああぁあぁあああぁぁぁぁああっ――!!」


 這い回る灼熱と苦痛に耐えかねて声が上がる。

 少しでも気を抜けば、途端に正気を失ってしまうだろう。これは強化じゃない――〝暴走〟だ。


 荒い吐息が口から漏れでる。

 体内の何かが暴走を訴えかけて来る。力のままに全てを壊せと、災厄・災害の本分は破壊にこそあると。

 ……そうかも知れないね。確かに破壊しなけりゃならん。


 暴走を望む、自分の身体ではないような肢体を何とか抑え込む。

 自分が破壊すべきは、全てじゃない。破壊すべきなのは、頭上に迫る巨大な驚異だ。

 

 意識は灼熱の中消え入りそうだった。あるいはもう消えているのかも知れない。

 それでも、護ると誓ったものを護り抜くために、強い意思で破壊の対象を、迫る驚異を黒に染まって鬼灯色に輝く双眸で睨み付けた。


 最早、思考能力は残っていなかった。

 巨大過ぎる力の奔流に飲み込まれ、知能は獣以下の破壊の化身と化していた。身体を動かすのは、思考を失う前に、誓った一つの思い。


「…………マ、モル……」


 これは俺の意識が途切れる直前の話。

 最後の意思で、俺は空に浮かぶ影に向かって吼えたのを覚えている。



 ◆


 吼えた。

 しかしそれはただの咆哮では無かった。


 夜は、〝巨大隕石を破壊する〟と言う鋼の意思を実行するため、無意識のうちにより体内に災厄を吸収しようとした。

 八岐大蛇と畏怖された頃のように生えた八本の尻尾が地面に突き刺さる。そしてその尻尾は根となり、地球から災害エネルギーを汲み上げて行く。

 鼓動のように、尻尾はそれぞれ脈動し、組み上げた力を身体に送る。


 ……破壊。


 思いの元、その全ての力は口内に蓄積され、圧縮され、凝縮され――咆哮と共に放たれた。

 地球上、全ての災厄と、迫り来る巨大隕石の災厄を、彼の妖気を媒体にして放たれる。打ち出した瞬間、発生した衝撃波だけでも、周囲の建造物を吹き飛ばした。


 禍々しい黒い極光の咆哮は、閃光と呼ぶには余りに太い。

 破壊の咆哮は一直線に隕石へと向かう。直径約三十キロメートルの巨大隕石に対し、それの三分の一ほどの太さを持った黒紫色(よるいろ)の極閃光は――



 ――見事、一閃の元に隕石を破壊してみせた。



 隕石は砕け、破片は地上に降り注ぐこととなる。地球上の生物はほぼ死滅することになるだろう。

 しかし、これで一つ一つの衝撃を拡散に成功した。地球は死の惑星になることはかわりないが、飛び立った宇宙船へ隕石衝突の余波が行くこともない。

 彼はたった一つ掲げた使命を無事遂行することに成功したのだ。

 

 ――が、それは同時に、使命による枷を失った夜の暴走の始まりだった。



 ◆


 遡ること少し前……


 宇宙船の入口での話だ。

 地上での全ての指揮を終えた永琳は須佐之男を護衛に付けて、宇宙船に乗り込むところだった。

 夜は地球に置いていくこととなる。彼は災厄の化身。死の惑星と化した地球でも生きていられると推測できていたからだ。それに彼には大仕事が残っている。

 永琳は胸中を引き裂かれる思いではあったが、こうするしか活路が無かった。


 彼が隕石を無事破壊し、生き残ってくれることを願うしか事しかできない。

 そんな自分が無力に感じて仕方無かった。

 何が天才なものか、愛する人を危険に放り込むことになっているではないか、と自分を責めずにいられなかった。


 しかし、地上に残ったところで自分にできることは何もない。

 彼女は仕方なく月夜見が現在指揮をとっているであろう月へ向かうのだった。

 夜は、事が全て終わった後に、小型艇で回収する手筈になっている。


 ……私に今できるのは、月へと渡って月夜見様の指揮を手伝うこと。


 思い、宇宙船への階段を昇る。

 見れば、須佐之男が立ち止まって階段を昇ってきていない。どうしたのかと声を掛けようとした時、逆に須佐之男より声が来た。


「――永琳殿。我は地上に残る」


 その言葉に耳を疑った。しかし、須佐之男は続ける。


「夜のこと、心配なのであろう?」

「……当たり前でしょ」

「だからこそ、我は地上に残って夜を手助けしようと思う」


 永琳はそれに対し、反対だった。

 須佐之男だって、永琳の大切な友人だ。自分と夜と須佐之男。三人の付き合いはとても長い。一人でも欠けて欲しくない。既に、一人危険の中に放り込まれた状況にあるのだ。それを二人に増やすだなんて考えられなかった。


 確かに、須佐之男が手助けできれば、夜の生存率も上がるだろう。

 しかし、それは手助け〝できれば〟の話だ。現在の夜は隕石襲来により災厄が増し、彼の力へとなって強化されている。その強化の度合いは、一ヶ月前の夜自身に圧勝できるほどのもので、最早須佐之男の強さでも届かない所にいるはずだ。

 須佐之男が行ったところで大した力になるとは思えない。


 と思っていた。が、それを見越したのか。須佐之男の身体から膨大な量の神力が溢れ出た。


「これは――?」


 眼前。神々しく輝く須佐之男が頷き、言う。


「神格化だ。

 境地に立たされた人々は、闘神である我に救いを求めた。それは純度の高い信仰心となり、我に大量の神力を与えた。それは既に人間の許容量を超え、身体は再構築して我は神となった。この力があったとしても、まだ足でまといと言うか?」


 彼から溢れる神気はそこらの神族ではとてもじゃないが、今の彼の足元にも及ばない。

 おそらくは能力の影響かと永琳は思考する。彼は人間でありながら神を超える力を持っていた。それは人間という種族から、彼の能力〝逸脱する程度の能力〟で逸脱していた結果であった。

 そして、現在の須佐之男は神格化を果たし、神になった。となれば能力で逸脱するのは神という種族から。元々人間から逸脱しただけで神を超える力を持っていたのだ。それが神からの逸脱となると、その力も計り知れない。


 しかし、


「駄目よ」


 永琳は言った。

 

 須佐之男は確かに今の夜を超えたであろう。しかし、それでも足りないのだ。夜はこれから大気圏内に突入した隕石の脅威で更に爆発的な強化と遂げる。

 その夜ですら、隕石を破壊できるか分からない。

 だと言うのに、危険の中に更に友人を放り込めれるものか。


 そう思い、言った台詞。

 しかし、須佐之男から返って来たのは嘆息だった。


「なぁ、永琳殿。自分に正直になろうか」

「何が言いたいの……」


 須佐之男は言う。


「我は、隕石騒ぎがあってから、国の代表の一人として永琳殿の補助を行って来た。近くで見てれば分かる。お前がいかに夜のことを心配していたかを。

 我は今は神だ。理屈の存在じゃあない。我は人の思いを助ける存在だ……」


 彼は訴えた。


「自分に正直になってくれ永琳殿!! お前が如何に夜を想っていたか知っている! 自分の無力さに嘆いていたことも知っている! 確率で、理論でものを喋るんじゃない!! 心のままに、想い願ってくれ! 我はその願いを絶対に叶えるから――っ!!」

「でも、貴方まで危険には……」

「本音で語れよっ!! 建前なんてもう要らないんだ――!!」


 須佐之男はそう叫んだ。



 ◆


 須佐之男は目の前の友人をもう見ていられなかった。無理をして繕って、理論・確率で自分を納得させようとする。今にも崩れてしまいそうなその仮面を、長く友人として付き添った彼が見抜けない訳はなかった。

 今も眼前には、愛する人が心配で心配で、目に涙を貯める友人がいる。


 息を整え、今度はゆっくりとした口調で言った。


「優先順位を間違えるな、お前は我より夜の方が大切なはずだ。助けて欲しいのならそう願え、確率が低いからと言って自分の本音を押し込めるな。願え、助けを求めろ。我はいつだって答えよう。神として、そしてそれ以前に、――一人の友人として」


 冷静を保っていた仮面は完全に崩壊し、涙を流す永琳がいた。

 国最高の天才と歌われた、外面上を気にして塗り固められた仮面の永琳はそこにはいなく、愛する者を想い涙を流す一人の〝人間〟である永琳がいた。


「…………けて……」


 言葉が紡がれる。


「……夜を、夜を助けて須佐之男さん……」

「ああ。神として永琳殿の友として、その願い聞き届けよう」


 須佐之男は力強く頷いた。

 そして続ける。


「永琳殿。お前はとても賢いが、感情を表現するのが苦手だ。我は知っているぞ。お前が一度も夜への思いを口に出して言ったことが無いことを。とても賢しく頭が回り、外堀から埋め立てるように夜との関係を詰めて行ったようだがな。うまく行っているようで、その関係は危ういものだ。確固とした形になるものが一つも存在しない。夫婦のようで、その関係は非常に不安定。

 この際だ。無事に夜が帰ったら、口に出して、想いを乗せて、言葉にして、言ってやるといい。『愛してる』とな」


 涙を流していたいた永琳は、その涙を拭いて、早くも平静を取り戻す。まだ僅かに頬が赤くあるが、落ち着いて話せるだけにまで回復していた。


「あら、意外だったわ。夜だけでなく、須佐之男さんにまで気付かれていただなんて」

「はっはっは。我もただの変態じゃあないさ」


 二人して顔を見合わせ、小さく笑う。


「そろそろ出航の時間だわ。……それじゃあ、お願いね須佐之男さん。夜のことを」

「ああ、勿論だ」


 まだ僅か、涙の残っていた目を袖で拭いながら永琳は言った。


「それと、貴方も無事戻って来ないと許さないんですからね。帰ってこなかったら、お給料は全て都市開発に回します」

「おお。それは何としてでも戻らないとならないな」


 階段を昇って宇宙船の中に彼女が入って行く。出航まで残り三分だと放送鳴り響く。

 永琳は最後に振り返り、


「愛してるとは言わないわ。これは夜に対して言いますから。でも、大好きですよ須佐之男さん。絶対生きて帰って来てくださいね」

「我も大好きだよ。永琳殿」


 その言葉を最後に宇宙船の扉が閉まった。

 須佐之男はもう引き返せない。ただ、前に進むだけだ。


「さぁ行こうか。夜の元へ。大切な友人との約束を守るため、大切な親友を救うために」


 地上から離れて行く宇宙船を背にして、闘神須佐之男は歩き出した。

 生涯で唯一勝てなかった、最強の親友を助けるために。




 今回は須佐之男さんが超男前な回だと思います。


 感想待ちに待ってます。

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