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東方八岐録 ~夜の細道~  作者: 桐生直隆
序章 須佐之男之命編
3/34

二夜 見下すなんて莫迦のすること

 更新。

 

 俺は思う。

 大飯喰らいとは如何なものかと。

 正直、あっても意味のある設定だとは思えないし。ただただ食費が嵩むだけなのが目に見えている。私感的に客観的に、双方の視点から見ても必ずしも利点とは言えないだろう。と言うか欠点とも言える。

 その上、俺は怪異で妖怪の化物な災厄の権化。

 どんなに喰っても、太ることも無く。言い換えれば身体の栄養にもならない。


「――と、俺は思うんだが。お前様もそう思わんかね永琳。あ、おかわり」

「ふふふ。そう思うなら控えたら?」


 俺から器を受け取ると、そこに米を盛る銀髪の美少女。

 男であるならば確実に心を掴まれかねない、魅了の微笑みを浮かべる彼女。

 ……お、俺は別に魅了とかされてねーし。これぐらい余裕で耐えられるし。


 先刻。

 須佐之男を蛸殴りにしつつ、野郎の知り合いだという弁護もさせた。空間を震わせる勢いで殴打したというのに、あの変態全く堪えていない様子だった。あの人外めが、どんな耐久性してやがる。こっちは大地震級の災厄込めて殴っているのに、顔をぼこぼこに変形させる事しかできなかった。

 まぁいい。多少はすっきりした。


 そして現在。

 俺は須佐之男の弁明もあり、無事都市内に入る事ができた。今いるのは都市の代表の一人である八意(やごころ)永琳(えいりん)と言う少女の家でご馳走になっているわけである。

 彼女から様々な話を聞いた。

 まずこの都市。どうしてこれほどまでに発展しているかという話だ。

 元々、永琳と月夜見(つくよみ)と言う指導者の元でかなりの発展を遂げていた人里だったらしい。しかし、それはあくまで逸脱しない程度での話。それは都市とまで言えるようなものではなかった。

 では、何故急発展してみせたのか。


 ――それは須佐之男のお陰だとか。


 中途半端に発展していた当時の里は、妖怪に目を付けられ、連日のように襲われていた。

 そこに颯爽と現れ、里の危機を救ったのがあの変態である。

 その強さは修羅の如く。迫り来る妖怪共を人外な力を持って薙ぎ倒す。演舞にすら見える圧倒的な激戦の様は、〝闘神(とうしん)〟の名に相応しい一騎当千振りだったとか。

 余談だがあの変態、最近信仰心が集まってちょっと神族の力〝神力〟が使えるようになったとか。

 自慢げに語る須佐之男が鬱陶しかったので、取り敢えず頭殴って地面にめり込ませておいた。


 都市では永琳を始め三人の代表の一人で、英雄扱いらしい……あの変態がねぇ。


 で。その変態の持つ能力が信仰を始めた人々に影響し、里全体を著しい文化・技術の発展に導いた。

 それが須佐之男の持つ能力、〝逸脱する程度の能力〟。

 集団・常識・摂理などから強制的に逸脱し飛び抜ける能力だとか。……まぁ、納得はできる。須佐之男の永過ぎる寿命や驚異的な戦闘能力は能力故に、人間から〝逸脱〟していたのであろう。

 追記。程度の能力と言う名称は何なのだ、と永琳に聞けば、誰が始めか知らぬがその呼び方が定着していたそうな。


 編んだ長い銀髪を揺らし、永琳が言う。


「私は貴方の成り立ちの方が気になるのだけどね」


 こちらを見つめて妖艶に微笑んだ。

 彼女の言葉が続く、


「ねぇ。私の研究に付き合ってもらえないかしら?」

「ん。別にいいが。何の研究だ?」

「貴方って災厄の化身なんでしょう? 言うならば死の概念とも言える。反対側であるその性質を研究すれば、私の最終目標に到達できると思うの」


 俺が視線でその先を促すと、彼女は微笑みを絶やさず静かに言った。


「――不老不死の秘薬の製薬よ」


 一瞬。俺は呆けた後、その言葉を理解して思わずもくつくつと笑った。

 夢だ。夢物語。しかし彼女の瞳に巫山戯た思いなど全く無い。絶対的な自信と必ず叶えてやると言う信念のみが宿る。

 だからこそ面白い。


「いいよ。人間。その目標必ず成し遂げて見せな。そして俺を楽しませろ」

「ありがとう。貴方ならそう言ってくれると信じていたわ」

「出会って数時間しか経っていない俺の何を信じるって?」

「女の勘よ」

「そうかい」


 お互いの視線が交差して、両者共に笑う。

 一人の瞳には好奇心を、もう一人の瞳には信念を揺らめかせながら……


「ふふ……」

「くっくっく……」


 そこに玄関の方から声が飛んできた。


「おぉい! 夜に永琳殿!! 我が遊びに来てやったぞ!!」


 舌打ちが出た。


「いい雰囲気だったのに、あの変態が」

「そうね。ここから二人の愛を育む展開に入るところだったのにね」

「そんな展開じゃなかったろうに」

「あら。嫌だったかしら」

「そんな事はない。お前様のような美少女、むしろどんと来い」

「ふふ。それは良かった。私貴方に一目惚れしていたものだから」

「え? 本気で? 冗談ではなく?」

「ふふふ。さぁ、どうかしらね」

「むぅ」

 

 微笑む永琳のからかいを適当に流し、耳を澄ませる。

 どすどすと、変態の足音が近づいて来ている。

 さて、変態が来る。

 それは俺たちのいる部屋の襖の前で止まり、


「ここにいたかよぶるぁああああっ!!」


 麩が開いたと同時に見せた美丈夫面(イケメンフェイス)を、取り敢えずぶん殴って壁にめり込ませた。

 永琳は全く動じず、自らの前に用意されていた湯呑でお茶を啜りながら、


「須佐之男さん。壊れた壁の修繕費、貴方のお給料から差し引いておきますからね」

「ええ!? 今の我が悪いのか!?」

「全く、須佐之男。暴れるのも大概にしておきなよ」

「いやいやいや! これ壊したのお前だろうが夜!!」

「いや、俺壁に触ってないし」

「そうよ須佐之男さん。壁を壊したのは確かに貴方の身体よ。……そうね。お給料から更に差っ引いておきましょう」

「何故だ!? 何故払う金額が増えるのだ!?」


 嘆息。

 俺と永琳の声が揃って言う。


「「迷惑料」」

「納得行かない!!」

「そうね。まず、無駄に鬱陶しいこと」

「変態なところ」

「そうそう変態と言えばこの人凄まじいのよ。綺麗だったら、幼女から熟女まで。女性だけならまだしも男性でも良くって、男の娘や童児(ショタ)美丈夫(イケメン)までなんでも御座れなのよ」

「うっわ、引くわー」

「そ、そんな事はない! 我は健全だ!!」

「ほう、俺の顔の件は?」

「ぐぬぅ……」

「あら。夜さんも迷惑掛けられていたのね。ならもっとお給料から差し引きましょう」

「ぐわぁあぁあああぁあああぁぁあぁぁ!!」

「闘神が聞いて呆れるね」

「全くよ。闘神(笑)とかでいいんじゃないかしら?」

「闘神(笑)」


 顔を真っ赤にして屈辱に震える須佐之男。

 そしてとうとう爆発した。


「もう我慢ならんっ!! 表に出ろ! 叩き潰してくれるわ!」

「おう、いいともさ。望むところ!」

「夜さん頑張って」

「頑張るよ」

「須佐之男さん。周りのもの壊したら弁償ですからね」

「だから何この差別!?」


 そうして大喧嘩が始まるのだった。

 勝者はどちらかだって?

 聞くだけ野暮ってもんだろう。



 ◆


 災厄――即ち死の概念についての研究、という名目で永琳亭に住み着いてどれほどの時が流れたであろう。文明が異常発達したこの国の事だ。調べようと思えば簡単に数字となって解ることだろう。

 とは言え、そんなこと調べる気力は無い。体感時間でおそらく数百年ほどだろう。


 その間、永琳も見事な美女へと成長した。豊満な胸に整ったプロポーション。美しかった相貌は磨きが掛かり、大人の女性の妖艶さも兼ね備えるまでになった。完璧麗人と言って過言ではない。


 数百年。その間、都市は国へと規模を上げる。

 永琳の知恵、月夜見の統制。そして須佐之男の能力もあり、都市内部の文化発展は凄まじかった。

 火力で発電していたものが、核エネルギーでの発電となり、それが廃れて自然エネルギーで全てを賄えるまでに成長した。全ての技術は飛躍的向上を果たし、地を走っていた線路は空中を駆けるようになり、礫発射機(仮)もとい銃は、鉛玉を飛ばす物から光線銃となり、医療技術の発達は人々の寿命を無くすこととなった。それは永琳の研究の成果が大きいだろう。

 不老不死の秘薬。そこに辿り着く過程で発見した〝穢れ〟というもの。

 何でも穢れとは生物が死する時に発生するもので、生者を巻き込もうとする性質を持つらしい。それは本当に微弱な力だが、人間及びほか生物を老いさせ死に追いやるそうだ。これも勿論俺を研究した結果、発見できたらしい。

 お陰で、死する者が極端に減少し、都市から国と呼べるまで成長した。

 

 地上での食物連鎖を見てきた。

 生物が死ねば穢れが発生するのであれば地上は穢れがまみれだ。それを気がつかない永琳ではない。


 そこで発案されたのが、〝月移住計画〟である。


 国民全てを宇宙船に乗せて、月に移住させるというものだ。

 なんともまぁ壮大な話である。

 月には生体は存在しない。返して言えば誰も、何も死んでいない。つまり穢れも存在しない。

 現行。永琳作の穢れの効能を薄める薬によって寿命が無いに等しいが、あくまでそれは定期的に薬を摂取すればこその話。しかし月に移住を実現すれば、薬の摂取の必要もない。

 月に新たな楽園を築く、それこそが月移住計画の全容である。


 ま、それだけが理由ではあるまいよ。

 近年になって、この国の人間たちは月夜見を中心に国外全ての人間を見下すようになってきた。その一方で自分たちを神が如く神聖視する始末。

 同種族でありながら、優劣を付けるだなんて何がしたいのだろうか。能力・思考は同じであろうに見下すだなんて莫迦極まりない。

 国外の人間と違うことなんて、技術力や文化のみだろうに。

 力を持つ者が力なき者を見下していいと言うならば、俺は全ての生物を見下せるじゃないか。え? マジで? 俺頂点? ひゃっはー!! ……って誰がするかこんなもん。面白くない。


 自身らの神聖視が始まってから、異常発展の元である永琳、月夜見、須佐之男の人気は鰻昇りだ。


 中でも須佐之男は神力が増大したが、本人は面白くなさそうであった。

 どうにも俺と同様で、見下し風潮が気に食わないようだ。

 同じく超越存在として、通ずるものがあるのだろう。彼の考えていることも理解できた。


 逆。なのだ。

 須佐之男はおそらくその逸脱した人外過ぎる力のせいで、人々より距離を置かれて生きてきたのだろう。俺は元から人外だから、これといって苦悩は無かったが。須佐之男は違う。彼は生まれは人間だ。故の苦悩もあるのだろう。流石に俺はそこまで解らない。

 強い者が故の差別への嫌悪だ。


 現状、この国の人間の思想。

 自分たちは特別な存在。下々の人間どもと一緒になどいたくない。我々は天に昇って、月の理想郷で過ごす。

 そう言っているようなものだろうて。


 一度、俺と須佐之男の二人で国を出ていこうかと言う話にもなったが、永琳に止められた。

 彼女は賢い。恐ろしく頭が回る。行動しようと決意する度に、あの手この手で決意が鈍る。事が終わってみれば、出て行くやら行かないやらそういった思考自体を忘れてしまう。

 いざ、思い出して見てもその繰り返しだ。連れの須佐之男がいくら単純と言えど、あの手管には敵わないと痛感させられた。

 俺、単体で出て行こうとしても、やはりいつのまに「次回でいいか」と思ってしまったり。

 ……べ、別に色仕掛けで折れたとか、そ、そんなんじゃねーし。


 …………

 ……何だよその目は。そうだよ。その通りだよ。色仕掛けに落ちましたが何か?

 仕方ないじゃないか。あの完璧麗人の永琳がだよ? 俺だって男だよコンチクショウ。

 お前なぁ、あの永琳が胸元はだけさせて、スカートの裾めくって、涙目で頬染めて、


『夜、行かないで……』


 とか言われてみろ。とてもいい笑顔で頷いたわ!

 ええそうですよ。俺も須佐之男の事言えない程度には変態ですよ。


 閑話休題。

 

 現状。俺は須佐之男と対峙している。

 もはや国の名物となっている俺と須佐之男の喧嘩。頻繁に起こる二人喧嘩のためだけに建設された闘技場。

 俺も有名になったものだ。いつだっただろうか、喧嘩に本気になって角を隠すのを忘れてしまっていた時のこと。あの時は永琳のお陰で事無きを得たっけか。

 ま、それもあり今じゃ角を隠さなくてもいいんだがね。


 周りを一周する観客席には大勢の暇人たちが。おい今、日中だろうが、仕事はどうしたよお前様方……


 この闘技場。何を隠そう永琳が建設させた。観客席には最新の防御設備と国最高の術師でもある永琳の最高の結界が貼られている。

 観客には極力被害が行かないようになっている。無論、俺にしろ須佐之男にしろ直接攻撃を結界に打ち込めば簡単に壊れるのではあるが。


 まぁ、所詮は一体一。周りに被害を出すような攻撃はお互いに控えてはいる。


 永琳。本当に頭が回る。

 周辺への被害が半端ではない俺たちの喧嘩。それを損害を失くし、見世物にして、金儲けにまで仕立て上げたのだ。

 そして俺は気が付いている。

 あの女め、研究資金が足りない時に自然な流れで俺たちが喧嘩になるように誘導していた事もあった。

 ……まったくなんて女だ。可愛いから許すけど!


「今日と言う今日は勝たせてもらうぞ、夜!」

「はっ、抜かせ。毎回負けてるお前様が俺に勝つって?」


 戦歴で言えば、俺の連戦連勝。

 しかし須佐之男も最近力を増してきている。手を抜けないのが現状だ。

 もはや紙一重と言ってもいいだろう。


 闘技場の四方。巨大スクリーンに俺と須佐之男の姿が映し出される。

 響くアナウンス。


『今日も始まる因縁の対決! 闘神〝須佐之男〟VS古の怪異王〝八岐大蛇〟ィ!!

 今回も八岐大蛇の勝利で終わるのか! それとも闘神様が勝利を掴み取るのか!?

 極喧嘩(キョクゲンカ)、開始ィイイイイ――ッ!!』


 睨み合う二人。


「――祓厄(ふつやく)十拳之御剣(トカツノツルギ)』」


 初めてであった頃と変わらない、血色のに輝く巨大霊剣。あの頃と違うのは込められし霊力量と、新たに込められた神力ぐらいか。


「厄を祓うねぇ。その厄ってのは俺のことかい。大袈裟な名前を付けやがる」

「大袈裟かどうかはその身で味わうんだな」

「ああ、そうかい」


 俺は己の武器である拳を握る。

 災厄を表す禍々しき黒紫色の妖気を両拳に纏わせた。


 両者。一際大きく口の端を釣り上げると、同時に前へと飛び出す。

 直後ぶつかる剣と拳の衝撃波が闘技場を駆け抜けた。


 


 次回! 戦闘回!!

 ……とはなりません。まぁ感想によっては変わるかもしれませんが。


 そんなこんな、感想超待ってます!

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