十八夜 これが萌えというものか
更新遅れて申し訳ない……
諏訪大国、洩矢神社。そこで奉られる祟神であり、土着神の頂点たる洩矢神。
国の人間からは絶対的な畏敬を集め、信仰はここら一帯で比べるものはないほど巨大。
その姿は巨大な蛙の姿と云われ。石蛇のミシャグジ様を統制する神。
洩矢神。その身より放たれる神気より、その存在の凄まじさが理解できる。しかし、その実態は――
……幼女じゃないか。
そうとなれば、行動は一つだ。
「夜刀ォ! いんだろ、出てきな!!」
「はっ、夜様。私はここに」
しゅるり。物陰より出てた黒蛇が人型になる。俺は夜刀に寝付くてゐを任せた。
俺は夜刀の顔と洩矢神の顔を見て頷いた後、
「帰っぞぉ!!」
「えぇええええええええええ!!」
その台詞にもっとも驚いたのは洩矢神だった。
「え、ちょっと!? 聞いてた話と違うけど!? 貴方私の仲間になってくれるんじゃないの!」
「知らん! 俺は幼女に興味はない!! 帰る! 蛙だけに!!」
「上手く無いからね!? ちょっと一人残された私はどうすればいいのさ! 大和の国との戦争に興味あんでしょ!? それもどうするのさ!」
「大和側に着く」
「最悪だぁああああああああああ!!」
「違う、俺は災厄だ」
「知らないよ!! さっきから何なの!? 大喜利なの!?」
何言ってんだが、この幼女は。嘆息。
「呆れられた!!」
「喧しい!! 胸と尻と身長と母性と色気と声と目付きと雰囲気とを成長させて出直しな!」
「訂正点がそんなに!!」
「馬鹿め、これでも遠慮した。俺が本気を出せば訂正点は百八個ある」
「煩悩!?」
「失礼な。煩悩で例えるなんて、人が欲望の塊みたいに言いやがってからに……」
「あ、ごめん。そういうつもりは……」
「まぁ訂正点は全て俺の色欲関係ですがね! 俺は破廉恥な事が大好きだ!」
「本当に欲望の塊じゃないか!!」
「えっへん」
「何故に自慢気!?」
無い胸を張ってみる。男だから無いのは当たり前なんだが、俺の横には女性版自分がいる訳で。何かこう、負けた気分になる。何故だ……
「そういう訳で、お邪魔しましたー」
「ね、本当に帰っちゃうの……?」
背を向けて歩き出した俺たち一行。
――空気が変わった。
背後で禍々しい気配が生まれた。
これまで立ち込めていた神々しい空気は一変。社の中に殺意の激流が吹き荒れた。肩越しに後ろを見ればそこには怒髪天を突く洩矢神の姿。顔は俯いた前髪で見えないが、きっと怒りの色に染まっている。溢れ出る怒気に祟りの神力を乗せて四方八方に振り撒いている。
「このまま、敵国に回ろうと言う戦力を放ってるものか。それにお前は妖怪だ。殺したところでどうということはあるまい。まぁ、私に楯突くなら神でも殺すが……」
先までの巫山戯た空気は何処へその。悍ましいほどの殺気のをこちらに向ける洩矢神。殺意の対象が俺だからいいものを、てゐ程の妖怪ならば死んでいよう。現に、この殺気の中。寝ていられるはずも無く彼女は夜刀の背中に隠れて震えていた。
背筋には悪寒が奔り、空気は極寒の如く凍り付く。がちがちと歯を噛み鳴らし震えるてゐがそれを物語る。
立ち上る怒りの神気に金髪を揺らめかせながら、洩矢神は冷笑を浮かべる。
そして、これが最後と言外に語って、言葉を投げた。
「ね。夜刀。貴女だけでもこっちにつかない? そうしたら命だけは保証するけど」
しかし、夜刀は首を横に振った。
その瞳に迷いは無く、
「私が配下に下るのは天上天下古今東西、夜様だけだ」
聞いてる俺が恥ずかしくなる。が、彼女は芯のある視線でそう言った。
対し洩矢神は「そっか」と小さく呟いて、怒気を一層強くした。
高位神族の殺意の波動。
これ以上はてゐどころか夜刀にまで危険が及ぶ。流石は祟神と言うべきところか。
洩矢神は言う。
「じゃあ、お前たち纏めて全員殺してやる。神の逆鱗に触れたことを後悔しながら死ぬがいい」
放たれた。
それは最上の呪いの力〝祟り〟。神が行う最大級の断罪。受けし者、全てを殺し、抗うこと叶わぬ死の宣告。よもやそれが土着神の頂点、大国を持つ強大な祟神から放たれるのだ。それはさぞや、
――美味しいのだろう。
「――いただきます」
変わらずに弧を描いていた口を、軽く開いて噛み締めた。
かちん。
歯が打ち合わさって音が出る。
その音は、小さいながらも、響きを持って空間に駆け抜け、それと同時に周囲の重圧を全て消失させた。何と言う事はない。俺を知っている者なら誰もが理解できる行動だ。事象は単純明快に記されるだろう。〝祟りを喰った〟のだ、と。
……味で言うなら、夜刀の厄より濃厚な旨味。しかしまぁ、若干濃すぎだね。何度も喰いたい味じゃない。
重圧が完全に消失した途端。
俺の斜め後ろで、咳き込むように荒い吐息が生まれた。重圧の中、碌に呼吸もできていなかったてゐが文字通り息を吹き返したのだ。死んでいたという意味でなく。
「旦那ァ! 能力使うのが遅すぎますよ!! 死ぬかと思いやしたよ本気で!! 何遊んでんすか!」
「え、ちょっおま、今何をしたの!? 私の祟りは何処に行ったの!?」
「夜様、流石過ぎます……はふぅ」
必死に訴えるてゐ。
と、洩矢神は周囲に忙しなく視線を泳がせ困惑。
夜刀は……通常運転。
三者三様反応を見せる。
「馬鹿め、馬鹿め洩矢神。これは俺の能力〝災厄を喰す程度の能力〟によるものだ。祟りは災厄として類することができるから、喰ったのだ。説明に手間取らせおって馬鹿め。幼女め」
「最後の関係ないよね! と言うかさっきまでの真剣な雰囲気は何処に!? あれ? 今絶対険悪な空気流れたよね!!」
「そう。その通り。俺の能力は災厄と類せるものを己の力とすることができる。俺の身体は基本的に世界の災害で形作られている」
「聞いてないよ!? と言うかなにそれ! そんなの祟りまともに受けたところで効果薄いじゃない!!」
「言ってなかったかい?」
「聞いてないよ!!」
「はっは。そりゃそうだ。言ってないからね」
「うがぁあああああああああああ!!」
洩矢神は感情のままに殴りかかって来た。拳を握り締め、怒りの神力をその身に迸らせ、全身の駆動を持ってこちらへと飛び出した。
……仕方ないねぇ。そんなに遊びたいのかい。これだから子供は。
俺はこちらに振るわれる拳を掴みとり、そのまま逆の手も掴む。
そして振り回した。
俺が回る、その周りを衛星のように洩矢神が回る。
ぐるんぐるん。
ぐるんぐるん。
「あ――――う――――――――!! 離せぇ! 目が回るぅ!!」
「え? 離していいのかい? 放して、も」
「何でもいいからぁ! 回すのやめろぉおおおおおおお!!」
「了解。洩矢神様や」
手を離した。離した故に放された、放られたとも言う。空中に。
「え? うわぁああああああああああ!!」
端的に言うなら、回した、離した、飛んでった、幼女が。倒置法。
紙飛行機ならぬ神飛行機。語感的には、凄い性能で運斤成風な飛行機のように聞こえるが、実際のところ、奇妙な帽子の幼女が錯乱しながらぶん投げられただけ。
神をぶん投げるなど、史上初であるだろう。そしておそらく今後も無い。俺は何と貴重な体験をしたのだろうか。
人間の目では到底追い付かぬ速度で飛んで行く洩矢神。社が無駄に広いこと幸いに、まだ壁に激突していないが、このままでは壁にぶつかってしまう。時間単位でして、激突は約一秒後。そうなれば大変だ。大怪我してしまうかも知らん……壁が。
ともあれ、放っておいた身の上であるが、放っておくわけにも行くまいよ。
壁にぶつかる直前、回り込んで洩矢神を受け止めた。
ぼふり。
優しく。なるべく衝撃が無いように彼女の身体を抱くように受け止める。貴重で異常な空中飛行、もとい発射体験がよほど楽しかったのか、目には涙を滲ませる洩矢神。
……ええ、分かっていますとも。確実に喜んでなんていませんね。怖かったんでしょうね。
俺は泣きそうな顔の洩矢神の頭を優しく撫でた。
その顔は天使のように、聖母のように、柔らかかった。と後日てゐに聞いた。
通りで、向こう、夜刀が鼻血出してぶっ倒れる訳だ。誰が鼻血の掃除したと思ってやがる。てゐだけど。
「あー、よしよし怖かったねぇ。もう大丈夫だよー」
「な、撫でるなぁ。子供扱いするなぁ。あ――うぅ―――――……」
何この生物(?)可愛い。
保護欲と言うか、父性と言うか、物凄く刺激されるんだが。いかんな、そして遺憾な。俺ともあろう者が幼女に物言えん感情を抱こうとは。世の中解らんものである。
言うならば、美女に対して下半身の欲望。この生き物に対しては、上半身の欲望だろうか。
下半身は言わずもがな。上半身の欲望と言うのは、抱きしめたいやら撫で回したいやら。そう言った感情。
この感情の波をどう表していいものやら。性欲や色欲とは真逆の場所にあり、恋愛感情とも違う。ましてや敬愛や博愛なんてものでもなく。言うならば親が子を愛でる感情に近く、小動物を保護したり撫でくりまわして甘やかしたい、そんな感情。
……これが『萌え』というやつかい。
成程。こいつは厄介な。
洩矢神の頭を撫でながら一人思ったのだった。
撫でるのを止める。するとまぁ、「撫でるな」と言ってた割に、やめたらやめたで寂しそうな顔をする。可愛いなコンチクショウ。
洩矢神が言った。
「ねぇ、本当に大和の国に行っちゃうの?」
「いんや。少々気が変わった、と言ってやらんこともないこともなくなくなくなくなくなくもない」
「……それって結局どっちなのさ」
「まぁ、今現在。俺の心の天秤が結構ぎりぎり、な訳だよ。存外、お前様が『仲間になって欲しい』と懇願すれば、そっちに傾くやもしれんよ。
ま、お前様お態度次第ってことだねー」
「それは、私の身体で払えってこと?」
ペしん。
最早隠す必要もない尻尾で彼女の頭を引っ叩いた。
「痛いじゃないか! いきなり何すんのさ!」
「誰が手前なんぞの幼児体型に欲情するかい。訂正点百八個看破してから出直しな。
それととんでもないこと抜かすんじゃないよ。うちの従者が暴走するだろうがい」
言って、洩矢神の後方を指差した。指先追って洩矢神も振り向く。
俺の後ろは壁。そして俺の前には洩矢神。先、俺が投げ飛ばしたことによって、てゐと夜刀かなりの距離が空いていた。
子供の教育に良くないものであったため、例の如く妖力砲で焼き払う。いい感じで黒焦げになって細部まで見えない。これで自主規制。化け兎をを巻き込んだ気もしたが、まぁ捨て置いていいだろう。
「ねぇ、貴方のお仲間が黒炭になってるんだけど」
「割といつもの事だよ。裸の女版自分なんて見えていない。『身体で払う? ならば私めが!!』なんて台詞も聞こえない。見えない聞こえない」
「よく分かんないけど。貴方も苦労してんだね」
何故か同情されてしまった。
取り敢えず撫でておこう。
「あーうー、撫でるなってぇ」
「可愛い可愛いよーしよし。
とまぁ、猥談はこれぐらいにしておいて」
「何時したのそんな話!?」
「じゃあ肌を重ねての触れ合い」
「頭を撫でてただけだよね! 何でわざわざそんな表現すんのさ!!」
「……ちっ」
「舌打ちされた!? 私間違ってる!?」
と、冗談は本当にこれぐらいにしておいて。
「さっきの話。どうするんで? 態度次第で敵にも味方にもなるが」
先のやり取り。巫山戯ていたといえ、いや巫山戯ることが可能なほど、地力の差があることは理解しただろう。自分で言うのもなんだが、俺を敵に回すと言うのは愚かなことだ、と客観視。
ぶっちゃけ、どっちに付こうが本格的に肩入れするつもりなんてないため、大和に付こうが諏訪に付こうが、力関係や勝敗や決着は大差ない。
むしろ、俺が大戦に関わりを持った時点で両国とも、俺を愉しませる玩具だ。エロい意味でなく。
そういう事情だが、言ってやる必要もない。
どっちに付くのも変わらない故に、ちょっと頼まれれば、そっちに付こう。が、それも言ってやる必要はない。
俺は洩矢神の応答を待った。
声が来た。
「……貴方が私より強いのは理解できた」
「神にそこまで評価されるたぁ、俺も捨てたもんじゃないね」
「だから、敵に回って欲しくない」
「うん。それで?」
俺は言葉の先を促して、洩矢神が言った。
「諏訪大国側に付いて欲しい。貴方の力を私に貸してくれないかな」
俺は、変わらずにやけて答えて応えた。
「喜んでその頼み聞き入れようかい。洩矢神様や――」
まさかの展開。
感想待ってます。超欲しい。




