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東方八岐録 ~夜の細道~  作者: 桐生直隆
一章 鏡像夜刀神編
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13/34

十一夜 鏡写しの蛇の顔

 新キャラー。

 それと、総合評価が100超えたぜ!

 ありがとうございます! 皆さん!!

 

「ちょっ、旦那!? 無茶ですって! これ以上はァ!!」

「知ってるかい。無理ってのはできないけど、無茶ってのは頑張ればできるんだよ」

「じゃあ無理ですって! 無理、無理、ウサァアアアアアアアアアアアア――!!」


 西の里までの旅路。

 俺の妖気制御練習。てゐは快く手伝ってくれていた。

 そう快く。彼女が自主的に。服を作る要領で作った妖力縄で縛って無理矢理なんて、絶対にしていない。


「いやぁあああぁぁぁぁぁあああぁぁあぁああぁぁあ――!!」


 何も聞こえない。悲鳴なんて聞こえない。

 俺の眼前で妖気縄で縛られた化け兎の姿も確認できない。

 ……あ、泡吹いて気絶した。


 さて、気絶したてゐは取り敢えず放置して、現状を整理しよう。

 俺はどの程度の妖気なら、通常妖怪級なのか、中堅妖怪級なのか、大妖怪級なのか。そういった加減をてゐ計測器を使って算出していた。

 頑張ってみたが、俺がどんなに抑えて妖気を放っても中堅妖怪の中でも上位の妖気が出るそうな。てゐに聞けば、妖気の質自体がかなりの高純度なため、少しでも漏れ出ればこの結果らしい。


 妖怪の程度。分かりやすく(ランク)を付けるならば、


 低級妖怪。

 F(ランク)……最下級。浮遊霊や魑魅魍魎。


 通常妖怪。

 E(ランク)……通常の下級。地縛霊、動物妖怪やはぐれ妖怪。名前が無いものが多い。

 D(ランク)……通常の中級。名の知れた妖怪もちらほら。鎌鼬や上級怨霊。てゐもここ。

 C(ランク)……通常の上級。人型妖怪や大型動物妖怪が多い。妖狐や化狸など。退魔師や除霊師は大体ここが限界。


 中堅妖怪。

 B(ランク)……名の無い妖怪は皆無。鬼や、四尾以上の妖狐など。人里に一人でも紛れ込もうものなら大問題。ここが俺の妖気最低級。


 大妖怪。

 A(ランク)……一人で人里を壊滅。種族名だけならず、単体名で知れ渡ることが多い。九尾の妖狐や一人一種族(種族として生れない。強力な力を持った化身の類)など。神族は基本的にここと同等か、それ以上。土地神と崇められる妖怪もいる。

 S(ランク)……A級の中、一線を画す存在。後の世まで語り継がれる程の者。強さよりも何をしたかが重要となったりするので、極希にB級でここに入ることもある。


 と、大体こんな感じ。

 一応あと一個、級が存在する。本当に特別で特殊で特例な級が一つ。

 それは、


 EX(ランク)……測定不能。常識範囲外。天災級。何と言うか、俺や須佐之男。


 最後のは無視していいと思う。

 うん無視無視。この物語、基本真剣な戦闘モノじゃないから。だって勝負になんないし。


 俺はこの知識に則って自分の妖気の段階分けをしてみた。


 下から順に、組手(イージィ)限定(ノーマル)戦闘(ハード)殺戮(ルナティック)

 組手(イージィ)は妖気無し。妖気蛇口完全に締め切った状態での、更に身体能力も頑張って手加減。

 限定(ノーマル)はその名の通り、あらゆる能力を限定しての開放。頑張って制御。それでも中堅妖怪上位。組手より制御が面倒くさい。頑張って制御。

 戦闘(ハード)は気の緩んだぐらいの状態。言わば普通。妖気を意識するわけでもなく、自然体。これで大妖怪級。

 殺戮(ルナティック)は、戦うぞって感じ。割と真剣に戦う感じ。


 ざっとこんな感じだ。 

 本気? あるわけなかろうが。これはあくまで手加減の段階分け。

 

 閑話休題。

 気絶したてゐを起こすとしよう。

 起こす前、恐怖だけはしっかり喰しておくことも忘れない。


「起きなー」


 肩を掴んで揺さぶる。


「――はっ! アタシャ一体!?」

「起きた起きた。出発すんよ」

「旦那。逃げていいですかね?」

「却下」

「旦那ァ、恐怖は無いと言っても記憶はしっかり残ってんですからね」


 涙目、上目使い、ジト目。

 ……甘いな、てゐよ。俺は何処ぞの銀髪麗人に洗脳まがいの誘惑を受けているんでね(遠い目)。生憎巨乳しか反応しないんだよ……まぁ、可愛いとは思うぞ。うん。


 てゐの肩を優しく叩く。


「頑張りな」

「よく分かんないっすけど、馬鹿にされたことは分かりやした」


 失礼な。馬鹿になんてしていない。ただ興味が無いだけだ。


「で、そんなことはいいから。もうすぐ西の里ってのに着きそうなんだろう?」

「あーそうですね。あと少しも歩けば付くと思いますよ」


 人里か……

 かの国。現、月の都市以降初の人里だ。何としてでもファンクラブが結成される前に里を出ねばならない。長居は無用。事件をかき乱し、楽しむだけ楽しんで、とっとと撤退。

 その為に、まず里の現状を知るとしよう。


「最終確認だよ。と言うか聞いてなかったからね。その蛇の化物って奴について」

「旦那の妖気調整と言う名を被ったアタシ耐久拷問でしたからねぇ……」


 てゐが唐突に遠い目をしだした。

 自覚はある。俺のせいだろう。しかし、後悔も無い反省もしない。する必要が無い。


「説明はよ」

「りょーかいっす」


 彼女が語った蛇の化物。

 何でも黒い鱗を持っていて、額からは剣のような角が一本。その体躯は巨大で、牛一匹丸呑みにしてしまうそうだ。

 また、人型にも変身できる。その姿は大層な美女の姿で、黒髪に瞳は紅いと言う。

 近づく者に災厄を振り撒き、その家系を末代まで不幸にするらしい。


 ……あれ? 俺と似てないかい? 気のせい?


「なぁ、てゐよ。それ、随分と俺に似てないかい」

「アタシも思いましたけど、旦那こそ知らないんで? アタシャてっきり知り合いで、そいつのことでも探してんのかと」


 俺は首を横に振った。

 知るわけがない。俺は先日まで月にいたのだから。


「他に情報は?」

「うーん。他にっすか。確か、一応神族の類で、でも人に仇なす荒御魂(あらみたま)――つまりは悪神って聞きましたねぇ」

「神、か。それにしても黒い蛇、災厄、角、紅い瞳と共通点が多すぎるねぇ」

「美女ってあたりも……すいません冗談です。苦しい苦しい……くる、し……」


 尻尾でてゐを縛り上げながらも先に進んだ。


 俺の平凡な思考能力では、考えたところで答えは出ない。

 行って、直接見て、会話して、もしくは叩きのめして、真実を暴くほかあるまい。


「むー! むむ、むー!! むむー!」

「何言ってんのか分かりゃしないよ。行くよ。真相を知るために。俺が楽しむために」

「むーんむー! む、むむー!!(これ解いてくださいよ!)」

「却下。反省してな」

「むむむむー!!(分かってるんじゃないすかぁ!!)」

「いや分からんなー」


 そのまま、森の中を歩いて行くのだった。てゐを引き摺りながら。



 ◆


 場所は西の里近く……


 人里から少し外れた所に建った社が一つ。

 少女がその縁側に腰掛ける。

 黒の髪は肩より少し長く、垂れる前髪の間からは刀剣を思わせる白い一本角。紅い瞳を持った相貌が描くのは無表情。赤と黒を基調とした服の隙間からは病的なまでに白い肌が覗く。


 少女こそが、里に畏怖されし悪神であった。


 彼女の脳裏。思い描くのは伝説の怪異王。

 彼女はその伝説より生まれた二次的存在。災厄・災害の化身たる怪異王の伝承。そこに人間の畏敬の念が軸となり、奉られ、そして生まれた存在。


 奉られることで神として生まれ、しかし存在理由が怪異王の鏡像。

 伝説とまでも行かなくも、その身に宿った力は人間を不幸にするものだった。故に彼女は悪神と呼ばれ恐れられる。


 しかし、それでいいと思っていた。


 伝説。闘神に退治された怪異王は、あらゆる災害を巻き起こし暴虐の限りを尽くしたそうだ。

 ……私の元がそうならば、私もそうであるべきだ。


 彼女は夜刀神(やとのかみ)八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の伝説から生まれた悪神。


 自分が何故生まれたか。それは人間が八岐大蛇の再誕を恐れ、畏敬の念を込めて奉ったから。馬鹿な話だ。そんなことしなければ、自分は生まれなかったのに。

 生まれたからには、存在理由を示そう。

 自分の存在の元となった、母である怪異王のした通りに自分も行動しよう。


 ……私の力は確かに母には遠く及ばない。でも、この調子で畏怖の念を集め力を付けよう。


 彼女は立ち上がって歩き出す。

 自分の持つ〝厄を振り撒く程度の能力〟を携えて、里の人間を不幸にするために。少しでも八岐大蛇に近づくために。


 里に着く直前、大蛇の姿に成りて坂を滑り降りた。


 彼女は知らない。知るわけがない。

 その里に、母にも等しい古の怪異王八岐大蛇本人が迫っていることを。



 ◆

 

 木々をの先、開けた場所。

 地面には僅かながら雑草が見えるが、大半は土気色の平坦が続いている。木々の中、開けた空間は幾つもの木造簡易住居を点在させていた。


「さぁ、着いたよ」

「みたいっすねぇ」 

「めっちゃ騒いでるね」

「みたいっすねぇ」

「件の化物でも出たのかね」

「みたいっすねぇ」

「取り敢えず、そのへんの人間に聞いてみるかい」

「みたいっすいたぁっ!! なにすんですか!」

「お前様ねぇ、その台詞だけで会話が成立すると思いなさんなよ?」


 人間への変化の術も完璧だ。

 角や尻尾も隠したし、瞳の色も変えた。

 そして、念には念を入れて顔も布で隠した。妖怪退治の旅をしている退魔師って設定だ。


 問題は変化できないてゐにあるが、


「ああ、アタシは大丈夫っすよ。人間に対して無害な方の妖獣なんで。それにアタシは能力ゆえに人間に好かれてるんすよ」

「お前様能力なんて持ってたのかい。で、どんな?」

「〝人間を幸運にする程度の能力〟です」

「は? 何だって? もう一回頼む」

「ですから〝人間を幸運にする程度の能力〟ですって」


 嘘だろ!?

 なんでこんな如何にも性格わるいですよって感じの兎にそんな能力が備わっている。

 割と本気で意味不明である。

 

 いや、考えてみよう。

 彼女は俺と出会う前に、そんな能力を得るために何か善行を積んでいたのかも知れない。本当は良い兎なのかも知れない。


「てゐ。俺と出会う前って、基本何してた?」

「そうっすねぇ、森に迷い込んだ人間を罠に嵌めて遊んだり。騙して金品奪い取ったりですねぇ」

「なんでそんなお前様にそんな能力が発現する」

「ええー酷いっすよ。どう見ても清純で愛らしい兎耳美少女ウサよ」

「なんだその語尾は、うざい」

「そうっすかねぇ、結構人気あるウサよ?」

「俺に需要は存在せんから、やめなさい」


 まったく。人間に悪戯してばかりだったとは、予想以上だ。 

 待てよ。悪戯?


「……ひとつ聞こうか、その罠って女性も引っ掛かったりするわけだね?」


 こちらの意図に気が付いたのか、てゐの顔が悪い笑みを浮かべる。

 俺も同じく悪戯な笑み。


「おやおや、旦那。お顔に似合わず好きですねぇ。ええ勿論掛かりますとも、罠によっては服がはだけたり、破れたりしますとも」

「てゐ。今度そういったことをする場合は、俺にも手伝わせなさい」

「了解でっす」


 いや、別に助平なことなんて考えておらんよ。

 これはいやらしくない。高尚で清く正しい――女体鑑賞という趣味だ。

 

 まぁ、手が滑って胸を揉んでしまうことが無いとも言い切れんが、あくまで手が滑っての話だ。わざとじゃない。そう、決してわざとじゃないのだ。

 他にもあんなことやこんなことをしてしまうかもしれないが、それも俺の色々な部分が滑ってしまったと言うことだろう。


「……くくくくくく」

「おやおや、旦那。悪いお顔ですよ。ウッサササササササササ」

「うん。笑い方、うざいな」

「酷いウサ」


 てゐとは良い関係を築けそうだ。今後共仲良くしていただきたい。

 でも実際のところ、なんでこんな場違いの能力を得たのだろうか。疑問が一つ残る。


「ま。悪戯に嵌めた後、無事帰って貰えれりゃこっちにも大した仕返しも来ないっすからねぇ。大体のや人間が迷い子状態ですから、帰れるようにするためには幸運にすんのが一番だったってことですよ」

「罪逃れのための能力だってことかい」

「そっすね」


 そう聞くと納得できないこともないが、なんと勿体無い能力なのだろうか。

 もっと持つべき者が持てば、多くの者の救いになった能力だろうに……よりによってこんな悪戯兎の手に渡るとは。


「とにかく、お前様もその姿で問題はないんだね?」

「大丈夫ですよ。もしもの時は守ってくださいな、旦那」

「はいはい」


 二人して里の中に入る。

 人間たちは慌ただしく動き回り、男衆は武器や農作道具を持って一方へと走って行く。

 飛び交う声から、その先に夜刀神という大蛇が出たことを知る。


 ……神と言えど、仇なすならば敵と同義。その扱いは妖怪と同じ、かい


 考えて見れば可笑しな話だ。

 恐れは妖怪を創り出し、守ってくれる存在神を創り出し、畏怖し畏敬し、自分たちで生んだ存在に振り回される。一人相撲もいいところだ。

 その上、今回は悪神。自身たちを守護する神のはずが、何が間違ったのかその神に襲われる。


「人間とは忙しい生き物だねぇ」

「何を急にしみじみと」

「うっさい。行くよ、あの先だね」


 二人して走り出す。

 呼吸する度に、覆面がはすはすなって、凄く鬱陶しい。

 先、武器を持った男たちがたちが対峙するのは、巨大で黒鱗を全身に纏う一角の大蛇。既に何人かは殺されているようで、その顎門からは血が滴り落ちる。

 ……あれが夜刀神かい。


 空いた距離を一気に駆け抜け、男衆へと近付いた。

 風変わりな俺の格好に、何人かがこちらを向いた。


「俺は旅の退魔師だ。見る限り俺の仕事と見た。その大蛇の相手は俺がしよう」


 放った台詞に男衆から期待の声が上がった。

 ……まぁ、嘘だけどね。そもそもお前様方助ける気ないし、素敵イベントに飛び込みたいだけだし。


 てゐを後方に残し、男衆の前へと歩み出る。後ろからは「幸運の素兎じゃねぇか!」などと声がするあたり、てゐの言っていたことは本当のようだ。


 俺と夜刀神の視線が交差する。


「皆さんや、避難してくれると助かるよ。正直邪魔だ」


 数人が里を守ると、残ろうとしたが、


「大蛇と俺の戦闘。巻き込まれて死んでも責任は取れんよ。勇敢なことは結構だが。そこに転がってる死体連中と同じように死にたいかい?」


 言われ、男たちは言葉を飲んで悔しそうにその場から離れて行った。

 本音で言えば、顔を隠すのが面倒くさいから観衆を無くして、覆面を取ってしまいたいだけだったり。


 里の端の戦場。残ったのは俺と夜刀神。そして後方にてゐだ。


「人もいなくなったし、こんな息苦しい覆面もやってられんね」


 妖力で作った布が空中に霧散して消える。

 俺の顔が確認できるようになるが、見ているのは夜刀神とてゐだけだ。仮に誰かに見られていても、面倒なだけで大した問題でもない。


 問題無い、はずなんだが。俺の顔を見た大蛇の動きが凍ったように止まった。


「嘘……その顔」


 大蛇の身体に似合わぬ、女性の声でそう言った後。夜刀神の身体が霧散して行った。

 残ったのは黒と赤の装束に身を包んだ少女。

 その瞳、角はそのままで、人間に近い姿でそこに立っていた。


 しかし、少女の相貌は、


「嘘だろってのは、こっちの台詞だね。どうなってんだいその顔は。くくくっ、長く生きてれば面白いこともあるってもんだ」


 笑みを貼り付け、口の端で三日月を描く俺。

 対し、少女の顔は、無表情を貼り付けて、



 ――俺と全く同じ顔をしていた。




 諏訪子だと思った?

 残念! 夜刀神ちゃんでした!!


 感想待ってます!!

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