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同じ穴の狢

作者: 木下風和

 同じ穴の狢。俺はこの言葉が大嫌いだ。

 朝、電車に乗れば目の前に広がるのは働き蟻の大群。せっせと金を稼いでは冬への備えを堅実なものにするために酒を飲み、髪を減らし、家族に恨まれる。これは日照りによるものなのか、広い荒野で迷子になったからなのか。分からない。とにかく「小さな一人」の全集合なのだ。そう、みんな同じ穴に落ちてしまった。

 今現在、蟻とキリギリスの話は確かに寓話として存在している。世界中で語り継がれ、子から親へ大きな夢は流れ込んで行ってしまっている。ならばそれは寓話になり得るだろうか。キリギリスが負けるなんて話、地球上には存在しやしない。「小さな一人」はそれをよく分かっている。

 

 夢見る夢子ちゃん。それは俺のことを言っていて、おまえのことも同時に説明している。どっちが正しいなんて知らないし、知りたくもない。俺が正しいはず。俺は「小さな一人」なんてゴメンだ。



 「佐々木さん、電話です」

 「何番」

 「一番です」


 こんな会話しか浮かばない灰色の大教室で俺は15年間、金を稼いでいる。仕事なんてものはしていないに等しい。しかし、デスクのある部屋の中にいるのも珍しく、大抵は外を這いずり回って、家の玄関で文字通り、日照りで瀕死に陥る。

 髪は減ってきた。家も傾いてきた。

 男は馬鹿だから自分のことを煙たがっている妻を俺は深く愛してしまっている。俺が馬鹿なのかもしれないが。


 「妻は藁なんだ。」


 もちろんそんな言い方をすれば世界中のフェミニストの踵が俺の体に落とされるだろう。でも「小さな一人」である私にとっては暖かい「藁」は同じ穴に落ちないための唯一の、分からない。言葉が浮かばない。ひょっとしたらもう落ちているのだろうか、俺は。

 そう言えば、俺はもう自分が「小さな一人」であることを認めてしまっている。あぁ、何だろうか。今日も俺は、8年ほど前、娘に蟻とキリギリスの話をしていた子を思い出しながら、暖かな穴に落ちていった。


 キリギリスは冬の雪をひたすら堪え忍んでいた。いるはずもない一匹の働き蟻を咥えながら。


 

この程度しか膨らまない・・・

 もう嫌~~~~

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