ピクニックは汗と涙と血の匂い 1
桂木「ついに始動する部活動! 俺の活躍もさらに加速するぜ! 男らしさも加速するじぇい!」
駒人「噛んだな」
宮本「噛んだわね」
女子が家に来て朝に起こされるってシチュエーションあるじゃん? ギャルゲとかマンガとかで。
で、あれって現実では起きないもんだとずっと思ってた。ましてや自分にそんな日が来るとは夢にも思わなかった。いや、夢には見たけど。
しかしアイツは来た。俺の家に、朝7時から。
言うまでもなくカスミである。
朝ののどかな空気を肌で感じつつ夢に浸っていた俺の聴覚を刺激する目覚まし時計の音。
言うまでもなくカスミの仕業である。
なので寝起きの俺はもう異性が家に来たとかシチュエーションとか関係なく呆れていた。
「で、何のようだ」
枕元に立つカスミに問う。
「は? 遅刻しておいてそのセリフとはね。いい度胸してるじゃない」
「遅刻? 何が? まさか日曜の朝っぱらから体作りでもしようってんじゃないだろうな」
「連絡来てないの? カオリのヤツ……つかえないわね」
「カオルなら仕方ない。携帯の番号交換してなかったな……」
「そんなことはいいの。今日はこんなに天気がいいんだから」
朝靄がかっているような時間に何が分かる。
とにかく、今日はなにか集まりがあったらしい。
日曜の朝っぱらから活動とは、運動部並の熱心さだ。俺たちは運動部なのか文化部なのか分からんが。
ようやく回るようになってきた頭をフルカイテンさせ、俺はカスミに問う。
「今日の活動は?」
よくぞ聞いてくれましたといわんばかりに笑みを浮かべ腰に手を当て、部長様は言い放った。
「今日をピクニック日和といわず何と言おうか!」
5分後、俺は朝食のパンをくわえながらジャーシ姿でカスミとカオルの後について行くこととなった。
◇◇◇
ハッ、ハッ、と荒い息づかいを押し殺し、俺はその場にへたり込む。
右腕に擦り傷を負ってしまったが、たいした損傷ではない。逃げ切れただけでもラッキーだ。
どうしてこうなったのだ。
ピクニックのはずだ。
俺の予定という名の妄想シチュエーションでは、桂木かカスミがお手製弁当を作ってきたりだとか、一緒に山頂目指して協力だとか、ここは俺に任せて先に行け、とかいうのがあってもよかったはずだ。
どうしてこうなったのだ。
俺は草むらに身を忍ばせ、荒い息づかいを抑え、なぜこうなったかを想起する。
『今日は弁当持ってきたし、まぁ大丈夫か』
『あれ、カオリ弁当作ってきたの?』
『作ってねーよ。買ってきたんだよ』
『へぇ。今時の男子は弁当作れるのが普通なのになー(ニヤニヤ)』
『うるせぇ。そういうお前はどうなんだ』
『私は女子だし。作れるけど作ってきてないのよ』
『あ? お前女子なのに作れねーのか?』
中略
『俺は男だからペッタンコに決まってるだろーが!』
『ふぅん。アンタって男だったんだ』
『(血管ビキビキ)そういうお前は女子なのにペッタンコじゃねーか……』
『(血管ブッチーン)』黙れオカマがァ!!」
俺関係なくね?
だが敵はそんな甘い考えはしていない。会話を聞いていた俺に矛先が回ってきてもなんら不思議はないのだ。
敵の獲物は登山用の杖。対してこちらは素手である。不利である。
いや、一応俺も杖は持ってるんだけど曲がりなりにも相手は女子だし本気で殴り合うのもどうかと思って使用を視野に入れていないのだが……
「カァァァオリィィィィ……コォォォマァァァァ……ドコダ……ドコニイル……」
構わん! 使用を許可する!
脳内の大総統が俺に許可を下した。いい判断だ。
幸い敵はこちらに気づいていない。後ろから一気にたたみかけ気絶させれば勝ちだ!
勝利の道は見えた!
(君はなかなかいい部長だったが、君の体型がいけないのだよ!)
俺はスッ、とヤツの後ろに忍びより、手に持っていた長さ30寸ほどの杖を振りかざし、目の前の敵へと振り下ろし、
「ソコカァ!」
振り向きざまの敵の一撃で杖の攻撃を弾かれた。
「チィッ!」
敵のセカンドアタックをバックステップで交わし、対峙する。
くっ、正面対決では分が悪い。なにせ相手は理性を失っているのだ。
こちらも本気でいかねば……
「殺られる!」
フッ、と息を短く吐き、俺は持っている杖を敵に対し斜めに構えた。
我が長良川一族に伝わる一子相伝の必殺剣法、《鵜飼い》の構えだ。
鵜飼い、とは長良川付近で武士だった先祖、長良川一門の編み出した剣法である。
簡単に説明すると鵜という鳥に魚を捕らせる漁法のことを鵜飼いというが、この剣法では鵜が魚を捕る際のしなやかな動きと俊敏さを元に名付けられた。
この技の特徴は、一度フェイントの振り下ろしを行い、敵がそれを防ごうとした隙を下段から切り上げるといったものだ。
これさえあれば、負けん!
「うおぉぉぉ!!」
叫ぶやいなや俺は上段から〈鵜飼い〉のフェイントを仕掛ける。
しかし敵はそのフェイントをサイドステップで避けると、杖を構え……
俺が目視できたのはそこまでだった。
杖が俺の手からはじけ飛び、斜面を転がって下に落ちていく。
しかし敵はなおも追撃を加えようと接近してくる。
「すんませんしたーーーーーーー!!」
俺は全速力で山道を逃亡した。
実を言うと、剣法なんて無かった。
2章との間にはいる話です。
コメディー成分多量です。
1章がシリアスすぎたのだ……。