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厄介な部活勧誘に捕まったっぽい 3

 前回のあらすじ


 部員が増えた。

 本格的に始まった授業の終わりを告げるチャイムから数分後に、俺は必要な手荷物を持ち昨日紹介された部室(仮)に足を運んだ。

 徐々に暖かくなる日差しを浴びながら校庭の端の部室(仮)はその怪しい雰囲気を振りまいている。

 そのドアには昨日まで無かった木製のプレートがガムテープで貼られていた。


 掃除部!


 プレートに書かれた単語を凝視しながら俺は考えを巡らせる。掃除部……まさか……な。

 嫌な予感が頭をよぎったが、一応ドアノブに手をかけ中に入る。鍵は開いていた。

 部屋に入るとそこには――



 【厄介な部活勧誘に捕まったっぽい 3】



 いくら暖かくなってきたとはいえ冷たい水で雑巾を絞る、というのは気が進まない作業だ。埃を出すために窓が開いているので風も入ってくる。

しかしここは掃除部、そのような事は言っていられない。というか言ったら余計に仕事が増えてしまいそうだ。


「ふーふーふーん♪」

 鼻歌交じりにせっせと箒を動かす桂木はなぜか楽しそうだ。掃除をすることが男らしい、と思っているのかカスミに吹き込まれたのか。まぁどちらも同じ事だ。

 雑巾を絞り終えると俺は傷やゴミが張り付いた床を雑巾で拭いていく。

 かれこれ数十分は同じような作業をしているが、なかなか終わる気配がない。桂木が丁寧に埃を掃きすぎてペースがゆっくりになっているのだ。


「おいカオル。もう少しペース上げて掃けないか?」

「チッチッチ。甘いな駒人」


 フッと鼻で笑いながら箒を掃く手を止め、桂木は得意そうに説明を始めた。


「今世間は掃除ができる男子を男らしいと呼ぶんだ。

 丁寧に掃いてこそ男! ゴミを残らず駆逐してこそ日本男児なのだ!」

「じゃあ聞かない方がいいかと思ったから聞いてないが……その巫女装束はなんだ?」


 白と赤を基調としたシンプルな巫女装束を桂木はさも当然のように着ているが、それこそ男らしいという単語からかけ離れていると思うのだが……。


「巫女装束? これって巫女装束なのか? 

 ……噂には聞いたことがあるが、これがあの巫女装束か……」


 興味深そうに自分の服装(どう見てもコスプレです)を見つめ目を輝かせる巫女さん。


「古来から悪を退けてきたとされる正装をこんなところで着ることができるとは……カスミ、やるな」


 やっぱりアイツの仕業だったか……。しかもこの調子だと何吹き込まれたか分からないな。

 本人は喜んで着ているようだし、俺はそっとしておくことにした。




 結局掃除は開始から数十分で終わった。というか強制終了となった。その理由は……


「ただいまー! 掃除終わってるー?」


 カスミの帰還が主であることはいうまでもない。

 用事を思い出したとか言って掃除をさぼった時はどうなることかと……。


 部屋に飛び込むなりカスミは、

「うん。結構キレイになったじゃないの!」

 と掃除に終了の合図を出し、

顧問の先生(・・・・・)を紹介するからー!」

 と流れでとんでもないことを言った。


「顧問だと?」


 俺は素直な呟きを口にする。まだ正式に作られたかどうかも分からない部活にそうそうに顧問がつくとは……カスミはどんな裏技を使ったのか。

 不意打ちな報告にポカンと棒立ちな桂木を無視して、カスミは先生を招き入れる。


 部屋に入ってきた人物は、女性だった。

 長い髪を肩まで伸ばし、眼鏡をかけた美人、これが俺の第一印象。

 白いブラウスに黒いスラックスパンツを組み合わせて着ていていかにも先生らしい服装だ。

 少し不機嫌そうにはしているが、整った顔立ちをしている。

 可愛い、より美しいのほうが的確な表現であろう。


「先生、自己紹介を」


 カスミに言われ、腕を組みながら仕方なくといった感じで先生は口を開いた。


「二年担任の宮本みやもと竜子たつこだ。宮本と呼んでくれ」


 手近にあったホワイトボードに名前を書く姿はやはり先生なのだな、という印象を受ける。字は少々乱雑だったが。


「成り行きで入ったが…………なぜそいつは巫女装束を着ている?」


 宮本先生は桂木を指さしながら疑問系で指摘する。名前だけ紹介した後にその質問に入るのは、ある意味常識的か。


「悪を退ける男の正装、巫女装束を着て掃除をすればこの部屋の悪霊も去っていくと思いませんか? 先生」


 そして質問に質問を返す桂木。あと部屋に悪霊がいるとか初耳なんだが。、それも吹き込まれたのか?

 桂木の返しに驚いたのか先生は少し表情を和らげた。

 そして言う。言ってしまう。


「別に悪霊は構わないが……巫女装束って女性が着る(・・・・・)ものだぞ?」

  


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 

 不幸な結果をもたらす真実よりも幸せな嘘のほうがよい、という名言を思い出してしまい、俺は涙が止まらなかった。


「それレンタルしたやつなんだから、ちゃんと洗濯して返してよねーーーー!!」


 部屋を飛び出したカオルの背中に、カスミの宣告が重くのし掛かったのであった。




 

 巫女服姿、写真撮っておけばよかった。


 ◇◇◇


 だいぶんさっぱりとした部屋で俺は一人、授業の課題に取り組んでいた。

 カスミと先生は家具の調達に行ったらしい。部費の無駄遣いだけは避けてほしいものだ。

 そんなことを考えながら課題に筆を走らせていた俺の耳に、ドアの開く音が入る。

 

「……ただいまー」


 桂木だった。巫女服のまま外を走り回っていたらしい。

 部屋に入りとぼとぼと自分の鞄がおいてある椅子に近づくと、はぁ、とため息を吐き桂木は


「……明日には俺が女装癖あるってこと、全校に広まるかもしれない……」

 と神妙な面持ちで呟いた。


「……ドンマイ」

 こう言うしかなかった。下手なこと言ったら余計に傷つくだろう。巫女服が原因で傷つかれるのもこちらとしてはシュールだが。


 しかしこの気まずい空気、一体どうすればいいものか。とりあえず黙って課題に集中しているふりをしておこう――

 そんな俺の考えを一蹴するように桂木は俺のほうをじーっ、と見つめる。

 何か嫌な予感がするので俺はさっと課題に集中するように下を向く、と俺の耳にシュルシュルと布のこすれる音が入り込んでくる。


「……カオルー、何してるんだ?」

「着替えてる」

「はぅっ!」


 やばいやばい、あと少しで見てしまうところだった……。


「何で急に下向いたんだよ。

 ……ってか首の角度おかしいだろ! もう下むくどころか頭が机の下に隠れてるじゃねぇか!」


 完璧だ……後は着替え終わるまでこの体勢で待っておけば……。


 と思考している頭を誰かに掴まれた、というか桂木しか部屋にはいないはず痛ぇ!!


「痛い痛いイタイィィィ!!」

 俺はついカッとなって頭を引っ張った主のほうを振り向いてしまった。

 そこには巫女服がはだけて半裸状態の桂木がいた。


「………………ごめん」


 俺は即座に謝罪を言うと逆を向き目をつむる。何も見ていない見ていない。


「ちょっ! 何視線逸らしてるんだよ!」

 うるさい! 右目が疼くんだよぉ!!


「まさか駒人、俺のこと女だと思ってるんだろ!」

「滅相もない! ちょっと君の姿がめんこいなぁと思っただけさ!」

「めんこい……ってそれも可愛いって意味だろうがぁ!」


 痛い痛いまた頭を引っ張れている! しかし目は開かん!


「ただいまーっと! 大体必要そうな物は持ってきた……うっ」

「ナイスタイミングだカスミ! カオルを止めてくれ!」

「目ぇ見開いてよく見やがれ駒人ぉ! 俺は男だ!!」


 目をつむっていて分からないが、カスミが帰ってきたらしい。ここはアイツに望みを託すしか……。


「アナタ達……不純異性交遊はやめなさい!」

「えぇぇぇぇぇぇ!!」

「そこは不純同性交遊だろおい!」


 この命を賭けたレスリングを不純異性交遊!? 目でも狂ったんじゃないのか!? あとカオルのツッコミはなんだよ! そっちのほうが質が悪ぃわ!


「謹慎だわ謹慎! 今日は部室前で反省してなさい!」


 目をつむっていてよくわからないが、カスミらしき手が俺の腕を掴み部屋の外へと引っ張った。

そしてカオルも同様に部屋の外へと放り出されると、ドアは勢いよくしまり鍵がかかった。

 どうしてこうなった。


「……カオル、大丈夫か?」


 もう目を開けて良いだろう、と封じられた目を開眼し俺は右隣にいる桂木のほうに語りかける。

 彼ははだけた巫女服のまま、三角座りで呆然と虚空を見つめていた。その目尻が夕日の反射でキラリと光る。

 涙ではないことを祈った。


 


 ついでに写真を撮ったことは内緒である。  

 途中に出てきた名言は、ペルシアのことわざです。

 


・良い結果をもたらす嘘は、不幸をもたらす真実よりいい。


 良い言葉ですね。

 こういう経験、あるんじゃないでしょうか。

 

 ではまた次回、心の片隅でご期待ください。

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