厄介な部活勧誘に捕まったっぽい 2
前回のあらすじ
俺は捕まった。
青い空、グラウンドに響き渡る活力満載の声、春の陽気……。
屋上はいい。すべての悩み事から俺を解放してくれる。
カスミさんもそう、思わないか?
「ん? あ、ごめん聞いてなかった」
「だと思ってたよ」
「じゃあ何で呟いたの」
「聞いてんじゃねぇか」
入学式の翌日、俺はカスミに屋上に呼び出された。呼び出してくる相手が相手なだけに少々気分がブルーだったが。
「あと、さん付け止めて。カスミで呼び捨てでいいから」
確かにさん付けで呼ぶのは俺としても心苦しい。てかなんで部活に自分を強制入部させた相手にさん付けする必要があろうか。
「というか俺も名乗ってなかったな。
長良川駒人、駒人って呼んでくれ」
俺の提案に納得したのかカスミは、
「分かったわ。これからよろしくね、“駒”」
思いっきりあだ名を付けてくれた。
「止めて。駒、止めて」
「えぇー。いいじゃん駒。私が命の恩人なんだから駒扱いされても文句ないでしょ?」
「その命の恩人連発すんの止めろ! お前が俺の命救った訳じゃないからな! てか命に巣くってるわ! お前が巣くってるわ!」
必死の反抗もむなしく、カスミは駒駒と気に入ったように呟く。鼻歌交じりなところがさらにむかつく。
「あ、そうそう。今日呼び出したのは用があるからなんだよねー」
「そりゃそうだろうな。で?」
「3人目が見つかりましたー。てなわけでもうすぐ来ると思うんだけどなー」
「……まじか」
カスミは一体どうやって部員を確保したのだろうか。そもそも得体の知れない部活に入る物好きの顔が見てみたいモノだ。
【厄介な部活勧誘に捕まったっぽい 2】
結構物好きは早くやって来た。
「よぉ!」
威勢のいい高い声の挨拶が入り口から聞こえる。
俺は物好きの顔を見てやろうと振り向く。そして目を疑った。
笑っているせいか細く見える目はキリッとしている。全体的に整った顔は凛々しさ、というよりはかわいらしさを演出している。
髪は肩まで伸ばしていて、男とは思えにくい。というか髪型が顔のかわいらしさに拍車をかけている。
身長も俺より10センチほど低いし見下ろせそうだ。
「こちら、桂木香君ね。詳しいことはコレを見たらいいわ」
俺は桂木の入部届を部長から受け取る。俺も書かないといけないな。後で書くか。
とりあえず自分のことは後回しで、桂木君の入部届に目を通すことにした。
桂木香、漢字はこう書くのか。俺と同じ一年でクラスは1組、性別は…………
男……?
「……男の娘か」
「おい、今俺にとって心外な発言しなかったか」
桂木が不服そうに訪ねてくるがそんなことはどうでもいい。桂木の顔をまじまじと見つめる。
女子制服着てたら分からないな、というほどだ。ましてや女性用の衣装とか着たらどうなるんだろう。妄想がひろがりんぐ。
「おい、何ニヤけてやがる」
こちらの顔を下からのぞき込むように……というかのぞき込む姿勢になるわけだが、桂木は俺の顔をにらみつける。
そして数秒見つめたあと、まぁいい、と言ってのぞき込むのを止めた。
「改めて言うが、俺の名前は桂木香。呼び捨てで構わない。俺も呼び捨てで呼ばせて貰うからな」
「別に良いわ」
「まぁ俺もどっちでもいいが」
結構フレンドリー、というか馴れ馴れしい性格らしい。
「私の名前は盤仲カスミ。カスミでいいわ。カタカナ表記、これ重要ね。
それでこっちが駒」
「長良川駒人、駒人と呼んでくれ」
「え? 今カスミが駒って呼べっていってなかったか?」
「デマだ。ミスリードだ。気にしないほうがいい」
まったく、変な入れ知恵は止めて欲しい。
桂木は少々とまどってたが、別にどうでもいいことと判断したらしく話題を変えた。
「この部活ってなにをするんだ? あと部室、あるんだろうな」
確かに。何をするか聞かされていない。てか桂木も何で内容を知らされてもいないのに入部したのか。カスミに騙されたに一票。
「部活内容については追々説明するわ。部室もとびっきりすごいの用意してあるから心配しなさんな」
自信満々に発言しているが、カスミの言うことはよく分からない。仕事が早すぎじゃないか?
「とびっきりすごい部室……? ……いいねぇ」
桂木は手放しで喜んでいる様子をみるとなかなかに単純な奴なのかもしれない。
「とにかく、今日も私は部活設立のために色々動かないといけないから活動はできないんだー。
ってことで今日は解散。また明日ー」
おちゃらけた口調でそういい残し、カスミは颯爽と屋上から出て行った。意外に頑張っているらしい。
残された俺たち2人は数秒沈黙を維持し、2人とも同じ結論に至った。すなわち帰宅。
帰り道が途中まで同じらしいので、俺は桂木と一緒に帰路を辿ることにした。
身長のせいか歩幅が俺より短い桂木が少し早足なのが気の毒なので、俺は少しゆっくり歩いている。
「なぁ駒人、お前はこの部活どう思う?」
「どうって……無理やり入れられた様なものだしなぁ。特になんとも。というか部活してる実感ないし」
突拍子の質問に戸惑いながらも正直に答える。
俺の答えを聞くと、桂木はウンウンと頷き言葉を続けた。
「やっぱりそう思うよな。まず部長自体まだよく分からない状況だし」
「そういえば桂木はなんでこの部活に入ったんだ? やっぱり無理矢理勧誘されたか?」
「ハハッ、違うな。俺は自分から志願してこの部活に入った。まぁあの部長が声をかけてきたわけだが」
ビジュアル的マスコットが欲しい、といったところだろうか、とカスミの考えを自分なりに推理してみる。桂木自身はマスコットなどにはなりたくなさそうだが。
「しかし志願とは……何をする部活だとかカスミが教えてくれたのか?」
「いや、詳しいことは教えてもらっていない。だが……」
桂木は理由を説明するのを躊躇していたが、決意したように口を開けた。
「笑うなよ」
「笑わない笑わない」
「……ホントに?」
「ホントに」
「じゃあ一回しか言わないからよく聞けよ」
桂木が心を落ち着かせるために深呼吸する。
そしてフゥ、と息を吐き歩みを止めた。つられて俺も歩みと止める。
「――部に入ったら男らしくなれるって部長が言ってたから入部することにした」
「案外釣られやすいのな」
「なんだとっ!?」
ワーワーわめきながら俺の横腹をポカポカ殴ってくる桂木は無視して俺はまた歩き始めた。
しかしよくそんな説明信じたな。自分の見た目を気にしている辺りは馬鹿にしてはいけないことなのだろうが。
「男らしくなりたい、か……」
俺は桂木に聞こえないように呟く。
可愛らしい顔がコンプレックスの高校生が部活動で男らしくなるために奮闘する物語……胸が熱くなるな。
自分なりに桂木の身の上を整理し、会話を続ける。
「そこまで気にするような事じゃないと思うけどな」
「ということは駒人も俺のことを女っぽい顔だと思ってるんだな?」
「そういうわけじゃないが……」
「本当は?」
「体格はちょっと女子っぽいかも」
「んだと!?」
またポカポカと歩きながら俺の横腹を殴る桂木。そこまで痛くない辺り本気ではないのだろうが……腕力も女子並とか? ……あると思います。
「……分かってるとは思うが、部長にはいうなよ。というか誰にもいうな」
「志望理由?」
あぁ、と重たそうに答え、桂木は大げさに肩を落とした。
「なんでお前に話しちゃったんだろうな……」
「まぁ悩みは相談したほうが軽くなるぞ」
「心が?」
「まぁそんなとこだ」
適当かよ、と苦笑しながら桂木は呟く。適当で悪かったね。俺はこれで生きてきたんだ。
「……相談したほうが軽くなる、か」
俺の言ったことを繰り返し、ぶつぶつと考え込む桂木。
「相談できる友達ができたってのは良いことだよな」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか」
結局、その後の談笑は帰り道が分かれるところまで続いた。
2話です。10日間隔投稿ペースは緩みません、といってもまだ2話です。
まぁストックはもとから5話分あったので、1章完結まではノンストップです。
といっても……まぁそれは1章の最後であの人と討論することにしましょう。
では、次回ご期待ください。心の片隅でね。