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厄介な部活勧誘に捕まったっぽい 1

 ご感想ご指摘は喜んで受け付けます。

 ご感想を書いてくださる方は、なるべく詳しく書いて頂けると嬉しいです。

 

「――ん……。ふぁぁ……」


 俺の頭上の方から部長の眠たげで、それでいてよく通る声が部屋に響く。今起きたのだろう。


「ちっ……。起きやがったか……」


 部長の起床がそんなに嫌だったのか、俺の向かいに座っているカオルが小さく舌打ちをした。

 俺とカオルの間に置かれている少しへこみのあるスチール製の机には、マグネットタイプのちょこんとしたオセロ盤が鎮座している。現状では我が軍――黒が盤上を支配している。

 カオルは不愉快そうに顔をしかめながら、白い石を置いた。

 黒を一番多くひっくり返すことができる場所を選んだようだが……甘いな。

 端から見れば悪役もかくやというほどの笑みをこぼしながら、俺は黒い石を盤上へと静かに置く。


「う……っ」


 さらにしかめ面になり盤上とにらめっこをするカオル。その姿は外見も手伝ってとても可愛らしい。

 最良の一手がなかなか決まらないのか10秒くらいが過ぎていく。

 まだ悩んでいる敵将を、俺はみつめることにした。

 そんな俺の視線に気づいたのか、うがーっ! っと雄叫びをあげちゃぶ台返しよろしくオセロ盤をひっくり返す白石の指導者、カオル。


「今絶対俺を馬鹿にしてただろ……っ」

「負け犬の遠吠えだな」

「なんだとぉ!」


 凄い早口でカオルがなにかまくし立てているが俺には聞き取ることができない。とりあえず、逆ギレ乙。

 適当に文句を聞き流しながら落ちた駒を拾い集めていると、これまた頭上からミシ……という音が聞こえた。

 見上げてみると、増設しました感満載のロフトから部長がひょこんと顔をのぞかせている。好戦的な目だ。その目が意味するところは「静かにしろボケ」、といったところだろうか。

 部長は数秒そのまま顔をのぞかせた後、のそのそとロフトを移動する。天井が近いため、四足歩行必須のロフトだ。そして部長ははしごへとたどり着くと、ギシギシと音を立てるはしごを降りてきた。

 ホームセンターで買ってきて取り付けましたとでもいわんばかりの木造はしごは、とても不安定で今にも倒れそうだが、部長はきにすることなくそそくさとはしごを降りる。

 そうして無事地上に降り立った部長は部屋を満足げに見回すと、口を開いた。


「これより“部”活動を始めるわっ!」


 その細い右腕を横へビシっと伸ばし、このプレハブ小屋に思い切り響く声量で、高らかに。

 

 部活動入部から1週間、まさかこんなことになるとは入学式の俺は思っていなかっただろう。



 

 【厄介な部活勧誘に捕まったっぽい 1】

 

  


 校庭で行われる威勢のよい部活動勧誘。


 たくさんの人が溢れかえり、新しく入学した1年生に部活動の概要やらを説明したりと賑やかである。

 俺はそんな人混みを屋上から見下ろしていた。


 家から近い、そしてレベルもそこそこ普通だという理由で入学したこの私立高校だが、受け売り通り部活動の豊富さが校庭の様子から理解できる。

 部活が盛んなのだから、入学式の放課後に部活動勧誘がさっそくあってもおかしくないわけで、部活動目的で入学した生徒が多い分ほとんどの生徒が校庭にでていて校舎には人がほとんどいないわけで。

 とにかく、屋上に忍び込むのは容易だった。幸いにも鍵はかかっていなかったし。

 これといって部活動に興味が沸かなかった俺は、のんびりと時間をつぶすために屋上へときたわけである。

 実は高校の屋上というものに少しあこがれていた、というのもあったが。

 

(――まぁ昼寝でもしようかね……)


 屋上で昼寝……うん、悪くない。

 一人ほくそ笑みながら大きく伸びをして腰を下ろそうとしたその時――


 ギィ……


 校庭の喧騒など関係ないというように屋上に扉の開く音が響く。

 屋上で扉は1つだけ、出入り口の鉄扉だ。


(やば……っ! 入学初日から指導確定か!?)


 心臓が伸縮するような緊張感に負けないように俺は鉄扉のほうを振り向く。

 校舎見回りの先生か、それとも屋上にタバコでも吸いにきたヤンキーか。

 振り向いた俺の視線の先に写ったのは、どちらでもなかった。


 美少女、これが美少女……。今までの可愛い同級生は一体なんだったのかと思えてくるほどの美少女がいた。

 身長は俺より数センチ低いくらいだから167センチくらいか。

――すらっとしてモデルのような肢体。

――耳を隠すくらいに伸びている黒い髪。

――三白眼に近い目は、凛々しさを感じさせる。

 俺的に残念なのは、胸が少し小さい、ということだろうか。

 少し褒めすぎな感じが自分でもするが、そこは吊り橋理論というやつだろう。緊張感で第一印象がオーバーに見えているのかもしれない。

 

 俺が数秒の間美少女を呆然と見つめていると、彼女は俺に気づいたのかビックリしたような表情になる。

 そして口を手に当てメガホンのような形にして、第一声を放った。


「そこ、動かないで!」

「は……?」


 状況がよく理解できない。

 動くな……? ホワイ? としか言いようがない。

 そうこうしているうちに彼女はダッシュで駆け寄ってくる。まるで目の前で人が死にかけているような鬼気迫るような形相だ。


 と、そこまで考えて俺の思考がある考えへとたどり着く。


(あ……今の俺って屋上で校庭に向かってるわけで……。いやそれはいくらなんでもないだろ……)


 次の瞬間世界が回転した。


「はやまるなー! まだ人生は長いよー!」


 俺の途切れかけの脳に彼女の言葉が突き刺さる。


(あぁ、やっぱり飛び降り未遂と勘違いしてやがったか……)

 そこで俺の意識は途切れた。




「ってそんなわけあるかーーーーっ!」



 俺はすぐに立ち上がる。女子に投げ飛ばされて意識が飛ぶほどやわな体をしているつもりはないのだ。


「あれ、生きてたの。これはなかなかにポイントが高いわね……」

「いきなり人ぶん投げといてなにを!」

「ふむふむ、女子に対しても高圧的、と」


 うっ……なんか観察されてる?

 こちらをじろじろと眺めながら何かを推し量っている彼女を見ていると、なにかとてつもなく嫌な予感を覚えた。


「あ、そうそう。あなたって部活とか入ろうと思ってる?」

「はぁ? 投げ飛ばしたあとに質問とは忙しいやつ――」

「答えて」

「ないです」


 まるで獲物を狩るような目つきと棘のある声に即答してしまう。


「とにかく、俺になにか用事でもあるのか?」

「そうね。まぁ強いて言えば部活作るから部員になれ、ってところかしら」


 なるほど。

 つまり部活作りたいけど確かこの学校は最低限3人部員がいないと部活を作らせてもらえないからそのために俺を勧誘しているわけだ。理解。

 

 ……そんなバカな。

 

 今時自分で部活を作ろうなんてバカげているとしか思えない。上級生に睨まれること請け合いだ。

 そもそも部活に重きを置いているこの学校に存在しないほどマイナーな部活を作る気なのか?

 どんな部活だよ。


「そんなバカな」

 俺は声に出して呟く。


「確かに突拍子すぎたかもしれないわね。謝るわ」


 軽く頭を下げる美少女。

 1つ言っておく。それは謝罪ではなく会釈だ。


「そもそもなんで俺なんだ。俺なんて冴えない一般男子。てか男だぞ男」

「大丈夫。私が作る部活男女関係ないから。

 なんであなたか、っていうのはいろいろあるんだけど……」


 彼女はそこで言葉を詰まらせ、言いにくそうに顔を背ける。

 その仕草がなんだか告白みたいだなー、と思ってしまった自分を脳から弾き出し彼女の言葉に身構える。


「なんだよ」

「……あなたが飛び降り自殺を図っていたから、かな?」

「なるほど……分からん」


 そもそも俺図ってないし。そっちの思いこみだし。

 だが彼女は言葉を続ける。


「私が助けてあげなかったら死んでたでしょ?

 つまり私は命の恩人なわけであなたは恩人の言うことは絶対聞かなきゃいけないの。これ世界の常識」

 いつのまに世界はゆがんでしまったのだろう。

「熱弁中悪いが、俺は自殺を図っていたわけじゃないぞ?

 そっちの勘違いだ」


 そんな! と衝撃を露わにする美少女。

 そこまで露骨にびっくりされるとこっちが悪いことしたみたいに感じられるから不思議である。


「いや……でもどっちにしろ強風が吹いて落ちてた可能性もあるし命の恩人ってことに代わりは――」

「あるに決まってんだろ!」 

 もうやだこの子! 怖い!


「……そっか」

 いきなり残念そうに首を落とすと、彼女は呟いた。

「やっぱり無理があるよね……。いきなり見知らぬ女子に勧誘されてもオッケーしにくいよね……」

「え? いや、だから無理とか言ってるんじゃなくてだな……。急すぎてこっちもなんだ、対応しにくいというか……」


 さっきまで騒がしかった屋上のムードが一気に暗くなる。

 春の陽気が俺たちのいるところだけ降り注いでいない。カムバック紫外線。

「とにかく、断っているわけではないからさ」


「………………………………じゃあ入れよ」


 なんか今ボソって聞こえた。

 自分の空耳かと疑っている暇もなく、彼女は天を仰いだあとこちらをきっぱりと見据えこういった。


「私は1年、バンナカカスミ。将棋盤の盤に仲良しの仲で盤仲ね。カスミはカタカナ表記、オーケー?

 本題。あなたに拒否権はない。部員第二号確定だこんにゃろー」


「はぁ!? さっきまでの熱論とか関係なく最後は無理矢理なのか!?」

「とにかくこっちも限界近いんだー! あなた無駄に粘るしさー!

 てか校舎に残ってる時点で暇人なんだろだったら部活動くらい入ってくれてもいいだろー!」


 諦めやがった! もうキャラとか装わず素面で勧誘しだした!


「ちょっと待てって! 強引すぎるだろ!」

「でもどこかの部活には絶対入部しなきゃいけないんだぞー?

 だったら入ってくれても……」


 え、どこかの部活には絶対入部しなきゃいけない、だと? 


「嘘、だよな?」

「これを見ろ」


 彼女はそういうと、入学式直後に配布された学校の規則なるプリント冊子をとりだした。

 俺はパラーっとだけ目を通したが、そんなもの書いてあっただろうか……。


「書いてあったわー」

「ほら。嘘じゃないでしょーが」


 まさか……部活動に絶対入らなくてはいけないのか。

 冊子の説明には、「幽霊部員でもいいから入ってね☆」と書いてあるが……。

 チラ、と彼女のほうを伺うと、獲物を捕らえた狩人のようなしたり顔だった。

 もう観念するしかない。


「……仕方ない、のか」

「ほんとか!? 入るんだな!?」


 きゃっほいと喜ぶ狩人系女子を尻目に、俺は一人嘆息した。

 だがまぁこれも運命なのだろう。

 屋上にいくというきまぐれがもたらした1つの出会い、とでもいうのだろうか。

 でも、


「他の部活動よりは暇になりそうにないな」


 校庭で部活動勧誘にいそしむ先輩方と、喜びに浸っている美少女を交互に見比べ俺はまた深いため息を吐くのだった。


 やっときました新連載。

 前の学園ものからうって変わらずまた学園ものです。

 目標は定期更新と完結、といきたいところです。

 ただ定期更新につきましては、一章書けたら定期更新突入という具合になりますので、章と章の間は若干、の間隔が空くかもしれません。

 その辺はご理解ください。

 では次回でお会いしましょう。

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