幼年期の思い出://04
ブレンの予告より少し早い、その日の昼前に一行は屋敷に到着し、父を始めとする家人に出迎えられた。
私はその様子を家人達とは離れた屋敷の門の屋根の上から眺めていた。見晴らしの良いそこは、門の外の街道を遠くまで見渡すことが出来、また、屋敷の入口からは死角になっているために、無作法を咎められる心配もなくブレンの到着を待ちわびることができたからだ。
ブレン達一行は、昨晩は見かけなかった馬に跨り、衣服も騎士のような正装に改められていた。
そうした格好で、父に手厚く迎えられている姿を見ると、ブレンの身分は相当に高いように思われた。
そんなもの思いにふけっていると、ふいにブレンはこちらを向き、あろうことか遠く離れた私を認め、こっそり笑いかけてきた。その微笑みを見て、胸から暖かいものがこみ上げてきたことを、私は今でも覚えている。
その日の昼食には家族全員が呼び集められ、そこには予想通り装いを改めたブレンの姿があった。
家族全員が集まったことを確認した父はブレンをこう紹介した。
彼はブレン=トロオワ=ハイネル、この国の第三皇子で恐れ多くも私たちの従兄弟であるという。
彼は生まれつき体が非常に弱く、皇都では病状が悪化したため『静養』の目的で、暫く我が家に身を寄せるということだった。
と、そう紹介されたのだが、私は同一人物とは思えないブレンの紹介に首を捻った。なぜなら目の前にいるブレンからは、病人独特のひ弱さは全く感じられず、むしろ幼いながらも父達騎士のような力強い覇気すら感じられたからだ。
実際、後に聞いたところによると目的は『静養』ではなく、皇都で激化していた統皇の後継者争いからの『避難』が目的だったようだ。
そして、その後継者争いはその後3年間収まることはなく、ブレンはその間ずっと私の屋敷で暮らした。
そうして、その3年間は、私にとって何にも変えがたい大切な思い出となった。