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夏休みの思い出

作者: 催吐剤

 夏休みは家族で海に行きました。

「海に行くぞ」とお父さんが朝の四時くらいに言ったのでいきなり行くことになって、びっくりでしたがうれしかったです。

 それでトランクにニモツを積んで、海パンやゴーグルやタオルやビニールシートやスコップやバケツなんかを持って車で行きました。

 ぼくは乗り物酔いがすごくて、しかも車の中が臭かったので、ゲボがこみ上げて口の中いっぱいですごいきもちわるくて、車の中がすごい暑くて、とにかくすごかったですが、なんとかがんばって海までガマンしました。

 ゲボがこみ上げるたびに飲みこみました。何度も何度もこみ上げては飲みしていると、逆に「来るトチュウで食べたサービスエリアのカレーライスが何度も味わえてベンリ」と思いました。おいしかったです。

 

 海にはたくさん人がいて、ザワザワしてました。どれくらいザワザワだったかというと、両手でオチャワンを作って耳をふさいで、手と耳の間にセミを入れたくらいのザワザワでした。

 でしたが、ぼくとお父さんが車からおりると近くにいた人はみんなテンションが三つくらい下がって、ダマってよけていきました。

 お父さんは「どうだ。モーゼのようだろう」とはしゃいでいましたが、車をおりてすぐにぼくがチュウ車場でゲボを吐いた(さすがにゲボを何回も飲むのにはゲンカイがありました)のと、あときっと暑くて車が臭くてぼくとお父さんも臭かったせいです。サービスエリアの時もこんな感じでした。悲しかったです。

 

 海に入るとしょっぱかったです。どれくらいしょっぱかったかというと、塩みたいでした。

 なんで海はしょっぱいのかフシギだったので、ぼくはお父さんに「なんで海はしょっぱいのですか」と聞きました。

 お父さんは「ああ、それはな、海に入るとオシッコをしたくなるだろう」と言いました。

「なります。ですがオシッコしてはダメなのでは」

「いいんだ。みんなやってることだ」

「それほど大量のオシッコが海に。ダイジョウブなのですか」

「海は広いからダイジョウブだ。人類全員のオシッコぐらいなんともない。それに大きいしな、海は」

 ぼくは「なるほど」と思い「すごいな海は」と思いお父さんといっしょにオシッコをしました。ぼくとお父さんのオシッコが海の中でまざり合いました。海の水は冷たいのにそこだけちょっとあったかくなって、すぐにまた冷たくなって、なんかきもちかったです。

 

 海がなぜしょっぱいかというギモンがとけたので、ぼくは泳ぎましたが人がいっぱいなので、あまりきもちく泳げませんでした。

 海に入ったことで臭さがチュウワされたので〝モーゼタイム〟が終わり、ぼくとお父さんはもう臭くはなく、まわりにはジャマな人たちがいっぱいウジャウジャしていてスペースがなかったのです。

 見ると、泳ぎもせずに笑いながら水をぶつけ合う男女がいました。フシギだったので、ぼくはお父さんに「なんであの人たちは泳がず、楽しそうに笑いながらおたがいに水をぶつけ合っているのですか。もしや彼らは、きちがい、なのでは」と聞きました。

 お父さんは「ああ、あれはな、オシッコかけ合っているんだ」と言いました。

 ぼくはびっくりして「オシッコ。それはホントウなのですか」と聞きました。

「ああ、ホントウだ。ああして海の中でオシッコするというタイケンをわかち合うことでセイシン的なキズナが深まり、さらにはオシッコかけ合うことで、ニョウの中にふくまれるオスフェロモンやメスフェロモンでハツジョウをウナガしているんだ。そうすると夜いい感じになる」

「いい感じとは」

「オトナになればわかる」

「ハツジョウとは」

「オトナになればわかる」

 お父さんは〝オトナになればわかるバリア〟をはってしまいました。こうなると何を聞いても教えてくれなくなるのですが、ぼくはしつこく食い下がりました。

「ハツジョウするとどうなるのですか」

「ステキなことになる」

「ステキなこととは。グタイ的には」

「夜とてもいい感じになる」

「とてもいい感じになるとどうなるのですか。グタイ的に」

「とてもステキなことになる」

 ダメでした。ドウドウメグリです。ぼくは〝もしや〟と思いました。

「お父さん。これはもしかして」

「ああ、水かけ論だな」

 そう言うお父さんはすごいドヤ顔で、ぼくは死にたかったです。

 

 泳ぐ気力をなくして海から浜にモドると、何人かの男女が楽しそうに笑いながら人を砂に埋めていました。フシギだったので、ぼくはお父さんに「なんであの人たちは人を砂に埋めているのですか。ハンザイでは。もしや彼らは、きちがい、なのでは」と聞きました。

 お父さんは「ああ、あれはな、死体を埋めているんだ」と言いました。

 ぼくはびっくりしました。楽しそうに笑いながら埋められている人はまだ動いていたのです。それなのに死体とはどういうことなのかすごくフシギだったので「あの人は動いていますが死体なのですか。それに動いている人を埋めるのはハンザイではないのですか」とお父さんに聞きました。

「ハンザイじゃないし、きちがい、でもない。ダジョウブだ」とお父さんは言いました。

「どうしてですか」

「なぜ死体は動かないかわかるか」

「はい。死んでいるからです。ですがあの人は動いていますが」

「埋めたらじきに動かなくなるだろう。どの時点で動かなくなったかはモンダイではない。ケッカとして埋められた死体が残ることに変わりはないからな。だからダイジョウブだ」

「ダイジョバないと思います。それにそれは殺人では」

「ああ。殺人とマイソウを同時に行えるんだ。実にコウリツ的だろう」

「ですがそもそも殺人はハンザイ」

「いいや。よく見てみろ」

 お父さんはそう言って右を見て左を見ましたので、ぼくも右を見て左を見てびっくりしました。

 なんと! 砂浜には楽しそうに人を埋めている人たちが、そして楽しそうに埋められている人たちが他にもたくさんいたのです!

 ぼくがびっくりしていると、お父さんはぼくの肩に手をおいて「あれを見ろ」と指さしました。そっちを見ると高いところにライフセーバーがすわってボケッとしていました。

 ぼくはアゼンとしました。生き埋めにされている人がたくさんいるというのに、ライフセーバーはそれをモクニンしていたのですから!

「ライフをセーブするはずのァーがなぜ殺人を見のがしているのですか」

「ァーがセーブするのはあくまで〝海でおぼれた〟人間のライフだ。ところで、埋める遊びとマイソウとをどうやってクベツするんだ」

「それは」ぼくにはわかりませんでした。

「そう、クベツなんて不可能だ。〝海でおぼれた〟人間なら、見ればわかるからセーブしに行けるが、〝砂に埋めてもらっている人間〟と〝砂に埋められている人間〟とはクベツがつかない。だからライフセーバーといえどもホウチせざるをえないんだ。ケッカとして埋められた死体が残る」

「どの時点で動かなくなったかはモンダイではないと」

「そうだ。であれば、カテイなんてどうだっていいんだ。そして海は埋められた死体を受け入れてくれる。海は広いからな。人類全員の死体ぐらいなんともない」とお父さんは目を細めて海をながめながら言いました。

 海がザザーン、ザザーンと鳴って、なにか〝いい話〟みたいなシメ方をしないといけない気がする空気になったので、ぼくは「それに大きいしな、海は」と言いました。

 お父さんはムスコのトウトツなタメ口にオドロいていましたが、すぐにニコッと笑ってぼくのアタマをなでました。

 ぼくはちょっとだけオトナになったような気がしました。

 

 夕方になって帰る人がけっこういたので、ザワザワが少しマシになって、ぼくのお腹が鳴りました。

 よく考えたら食べて吐いてでプラマイゼロなので、ジッシツぼくは朝からなにも食べていませんでした。さらによく考えると前の日は夕飯がなかったので、前の日のお昼からなにも食べていませんし、あんまり寝ていません。でもなぜかあんまりお腹がすいた感じはしませんでしたし、変にゲンキでした。海の力でしょうか。フシギです。

「ケズル、なにが食べたい」とお父さんは言いました。

「お母さんが作ったごはん」とぼくは答えました。

「無理だ」

「だよね。じゃあラーメン食べたい」

「よし。わかった」

 こんな感じでぼくはお父さんとタメ口でしゃべれるようになりました。きっと海のなかでいっしょにオシッコしたことでセイシン的なキズナが深まったのでしょう。オシッコかけ合ったりはしなかったので夜いい感じになったりステキなことにはなりませんでしたが、これで充分でした。

 それで海の家でラーメンを食べて(おいしかったです)、そのあとお父さんとぼくでトランクのすごく臭いニモツを降ろしてビニールシートでくるんで、がんばってスコップで砂をほって埋めました。

「じゃあな、母さん」とトウトツにお父さんが言いました。

「じゃあな、母さん」とぼくもマネして言いました。

 夕日がキレイでした。

 

 帰りも車の中は(行きの時よりはマシでしたが)やっぱり臭くて、ラーメンのゲボがこみ上げて、ゲボ飲んだり、またこみ上げたり飲んだりしながら、ぼくはヒヤケをいっぱいしたので、早く皮がむけないかなと思いました。皮をむいて遊ぼうと思いました。大きい皮がとれたらいいなと思いました。大きい皮を舌にはりつけてかわくまで待とうと思いました。

 楽しかったです。

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