彼女に二股をかけられ捨てられた俺はキャバ嬢をやっている幼馴染と再会したのだが
「ねえ、恭太。一緒に帰ろう」
「ああ、いいよ、歩美」
俺は同じ会社の同期でもある自分の彼女に返事をする。
二人で会社を出て歩きながら俺と歩美はおしゃべりをする。
「そういえば総務部の陽花里ちゃんが結婚するって聞いた?」
「え? そうなのか。知らなかったよ」
俺と歩美は営業部なので俺自身はそれほど陽花里ちゃんと仲が良いというわけではない。
「なんかさあ、そういう話を聞くと私も自分の将来を考えないとなあと思うんだよね」
「そ、そうか」
歩美の奴、遠回しに俺と結婚したいって言ってるのか?
そうだよなあ、俺も歩美も今年で29歳になるし。そろそろ決断するべきか。
そんなことを考えながらその日は歩美と食事をして帰った。
自宅に帰り一人になった俺は歩美との将来を考える。
そうだ! もうすぐ俺と歩美の誕生日じゃないか。
その時にプロポーズをしよう!
俺と歩美が仲良くなったきっかけは同じ誕生日だったことで話が盛り上がったことだ。
同じ会社の同期に自分と同じ誕生日の人間がいたという偶然が歩美との最初の話題だった。
俺はさっそく歩美に携帯電話で連絡をしてみる。
「もしもし、歩美?」
『どうしたの? 恭太』
「もうすぐ俺たちの誕生日だろ? たまには奮発してホテルのレストランで食事しないか?」
『あ~、ごめん。その日は私の取引先のお客さんの接待があるの。だから別の日にお祝いしましょうよ』
「そ、そうか。それなら仕方ないな。分かった」
はあ、プロポーズは別の機会にするか。
溜め息を吐いた俺はその日はそのまま寝てしまった。
二人の誕生日の日。
仕事を終えた俺は自分の誕生日でありながらひとりでお祝いする気にはならず少し飲んで帰ろうかと繁華街の方に足を向ける。
そして飲み屋を探していた俺の目に信じられない光景が飛び込んで来た。
道路を挟んで反対側の歩道にいる歩美を見つけたのだ。しかも歩美はひとりの男性と一緒。
さらに言えば歩美はその男性と抱き合い路上にも関わらずキスをしていた。
しかもキスを終えた二人は繁華街の奥の方にあるラブホが立ち並ぶ方に歩いて行く。
俺は急いでその二人の後を追った。
そして二人がラブホに入る前に再びキスをしたので俺はそこで大声で叫ぶ。
「おい! 歩美! 何してるんだ!」
「え! きょ、恭太? 何でここに!?」
「なんでもいいだろ! その男は誰だよ! キスするなんてそいつが取引先の相手ってことじゃないだろうな!」
すると驚いていた歩美の態度も変わる。
「この人は取引先の会社の人であることには間違いないわ。でも私はこの人ととも付き合っていたの。先日、この桜樹さんにも恭太と付き合っていたことを打ち明けたら桜樹さんはそれでも私を選んでくれたのよ。だから私、桜樹さんと結婚するわ」
「なんだって!?」
「君が恭太くんか。歩美さんから君とも付き合っていたことを告白されて驚いたがそれでも私は歩美さんと結婚したいと思いプロポーズしたのだよ。ほら、彼女の左手の指には私からの婚約指輪があるだろ?」
歩美の左手を見ると確かに光り輝く指輪が見えた。
「俺と二股かけて歩美はそいつの方を選んだってことか!?」
「そうよ。だって恭太より桜樹さんの方が優秀な方だもの。この若さで既にA社の管理職だし将来性も圧倒的に桜樹さんの方が上。ちょうどいいから今日限り恭太とは別れるわ」
「そんなのこっちから別れてやるよ!」
俺は歩美に吐き捨てるように叫ぶとその場から走り出す。
歩美の奴! 絶対に赦さねえ!
怒りに任せて俺は繁華街へと戻る。
むしゃくしゃして頭が正常に働かない。
「お兄さん。うちのキャバクラで遊ばない? 安くするよ~」
普段ならそんな言葉など無視するが自棄になった俺はその男に誘われるまま一軒のキャバクラに入った。
俺が席に着くとキャバ嬢の女の子がやって来る。
「さとみです。よろしくお願いします……って、え? 恭ちゃん?」
「え?」
俺は自分の愛称を呼ばれて驚いてそのキャバ嬢の顔を見た。
記憶の底にあった女の子の笑顔を思い出す。
「も、もしかして……聡子ちゃん……?」
俺の記憶が正しければこの女性は俺が小学生になる時に引っ越す前に住んでいた家の隣りの家に住んでいた幼馴染の聡子ちゃんのはずだ。
化粧をしていても面影はちゃんと残っている。
「そうよ。恭ちゃんの幼馴染の聡子よ。源氏名はさとみだけどね」
「さ、聡子ちゃんがどうしてここに……?」
「う~ん、私はバイトでキャバ嬢をやっているの。それより恭ちゃんはどうしてここに飲みに来たの?」
「え、え~と、ちょっといろいろ、むしゃくしゃしてて……」
突然の幼馴染との再会で忘れていたが歩美たちのことを思い出し俺は怒りが蘇る。
「ふ~ん、何があったか話してみなよ、恭ちゃん。ひとりで抱えているより話した方が楽になるよ」
「う、うん、それなら俺の愚痴聞いてくれる? すごく情けないことなんだけど……」
俺は歩美たちとのことを全て聡子ちゃんに話した。
聡子ちゃんは黙って俺の話を聞いてくれた。
「酷いことするね、その歩美って人。そんな人のこと忘れちゃいなさいよ」
「うん。でも歩美とは同じ部署で働いているからまた会社で顔を合わせないといけないからそれが嫌で……」
「そうかあ。それなら転職しちゃえば? 私の知り合いがいる会社を紹介してあげるから」
「え? 聡子ちゃんにそこまでしてもらうなんて悪いよ……」
「もちろん条件はあるわよ。条件は私と恋人になること」
「え! こ、恋人!? 聡子ちゃんと!?」
「私、ずっと恭ちゃんのこと好きだったんだ。恭ちゃんは私のこと嫌い? それともキャバ嬢とは付き合えないかな?」
嫌いなどではない。俺の初恋は聡子ちゃんなのだから。
それに別にキャバ嬢だからという理由なんて関係ない。
「嫌いじゃないよ! 俺の、は、初恋は、聡子ちゃんだったし! でもこんな俺でいいの?」
「恭ちゃんだから恋人になりたいのよ。それじゃ、これからよろしくね。恭ちゃん」
「うん。こちらこそよろしく、聡子ちゃん」
聡子ちゃんはニコリと微笑んだ。
俺はその後有給休暇を使いながら会社を退職した。そのおかげで歩美と顔を合わせることはなかったのでホッとした。
そして聡子ちゃんが紹介してくれた会社でも営業職として働いている。
「仕事は慣れかい?」
「あ、課長。はい、もう少しで新しい取引先と契約できそうです」
仕事も順調で聡子ちゃんとも約束通りに付き合い始めて公私共々充実した日々を送っていた。
そして俺はある決意を抱く。
聡子ちゃんと結婚しよう。
きっと聡子ちゃんとなら幸せな家庭を築ける。
聡子ちゃんにプロポーズしようと思った俺は仕事が終わった後に聡子ちゃんとホテルのレストランで食事をする約束をした。
聡子ちゃんとホテルのロビーで待ち合わせをしていると俺の携帯電話が鳴る。
見たことのない番号だ。どうしようかとためらったがもしかしたら仕事の電話かもしれないと思い俺は電話に出る。
「もしもし」
『もしもし、恭太? 私、歩美だけど』
「歩美? 今更何の用だよ、電話番号まで変えて電話しやがって」
『ご、ごめんなさい。恭太が私の携帯電話を着信拒否するから友達の電話借りたの。そ、それより、恭太に頼みがあるのよ!』
「はァ? なんでお前の頼みなんかきかないとなんだよ! 桜樹って男を頼ればいいだろ?」
『それが恭太と別れた後に桜樹さんというか勇司さんと結婚したんだけど私との結婚は勇司さんの親族に反対されての結婚だったの!』
「それがどうしたよ。最終的にはその勇司と結婚できたんだろ?」
『それはそうなんだけど。こないだ勇司さんがある会社の偉い人を接待した帰りにその人を車で送る時に事故を起こしちゃったのよ! その時に取引先の人をケガさせた責任を取らされてクビになっちゃったの! 勇司さん自身もまだ入院してて私も妊娠してるから働けなくてお金がないの! 勇司さんの親族は元々私との結婚を反対してたからお金を貸してくれないし。お願い、恭太! お金を貸してちょうだい!』
あの桜樹って奴、取引先の人間を乗せた車で事故ったのか! ざまあねえな!
しかも会社をクビになった上に入院してて金がないから俺に金を貸してくれだって?
てめえらに貸す金なんてあったとしても絶対貸さねえよ!
金融会社に借金でもして金を作るんだな! アハハハハッ!!
「お前に貸す金なんてねえよ、歩美。誰も貸してくれないなら消費者金融から借りろよな。二度と俺に電話するなよ」
『そ、そんな! 待って、きょう……』
俺は携帯電話を切りその番号を着信拒否する。
また歩美から電話がかかってくるのも面倒なので携帯電話を買い替えて番号を変えようと考えていたところに聡子ちゃんがやって来た。
「遅くなってごめんね、恭ちゃん」
「ううん。それじゃあ、レストランに行こうか」
二人でホテルのレストランで食事をしながら俺は聡子ちゃんに用意していた婚約指輪の箱を渡しプロポーズする。
「聡子ちゃん。俺と結婚してください」
「恭ちゃん……嬉しい、ありがとう。でも私は結婚しても仕事は辞められないよ。いいの?」
「うん。聡子ちゃんがやりたいならキャバ嬢を続けてもかまわないよ。キャバ嬢の聡子ちゃんも綺麗で好きだから」
「……ありがとう。私も恭ちゃんとずっと一緒にいたい。結婚をお受けします。仕事を続けても主婦業も頑張るからね」
聡子ちゃんが微笑む。
やったあァーッ!
今日は人生最高の日だぜ!
「行ってらっしゃい……ごめんね、私、もうちょっと寝る……」
「うん。ゆっくり休んでね。聡子は夜の仕事で朝方帰って来るんだから仕方ないよ」
恭太はそう言ってまだベッドに横になっている聡子にキスをして出社して行く。
少しだけ寝た聡子は自分用のパソコンを取り出し立ち上げた。
「さてと私も本業をしないとね」
パソコンには聡子の会社から報告のメールが届いている。
その報告書のメールを開けてみた。
『桜樹歩美という女性が我が社から5回目のお金を借りました。桜樹歩美に貸した金は総額500万になります。回収を開始致しますか?』
聡子はそのメールに「回収開始」の指示を送りながら微笑む。
「恭ちゃんを苦しめた歩美という女が破滅するのも時間の問題ね。利子分を考えたらあの女に返す方法なんてないもの。うちの会社のDM送ったらうまくうちから金を借りるなんてね。それに桜樹勇司も事故の後遺症で再就職ができないみたいだし。あの時に接待でうちのキャバクラに来たあの男は運転だから自分は酒を飲まないと言ったけど少しだけ遅効性の睡眠薬を交ざたらうまく事故を起こしてくれて助かったわ。恭ちゃんを苦しめた代償はきっちり払ってもらわないとね。それにしても恭ちゃんが私が仕事を続けることを認めてくれて良かったわ。まあ、恭ちゃんは副業のキャバ嬢が私の仕事だと思っているみたいだけど私の本業は消費者金融の社長なのよ。父から受け継いだ会社だけど。でも在宅勤務がほとんどだから主婦業も頑張るから許してね。愛してるわ、恭ちゃん、フフフッ」




