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『薬師令嬢は二度目の人生で真実を選ぶ』  作者: 九十九 文


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第一話 毒と薬は、紙一重

リメイクになります。

シーン一 処刑台の記憶


冷たい風が、首元に伝う血の温かさを奪っていく。


鉄錆の匂いがした。それが自分の血なのか、それとも処刑台に染み込んだ無数の先人たちのそれなのか、エルナ・フォン・ヴァルトハウゼンにはもはや判別する気力もなかった。麻縄は首の後ろで固く結ばれ、繊維の一本一本が皮膚に食い込んでいる。薬師として鍛えた指先でさえ、今は後ろ手に縛られてどこにも触れられない。


何かを掴もうとする時、人は手を伸ばすのだと知っていた。


エルナが初めてそれを学んだのは、七歳の春だった。大人たちが社交の席で笑い合う声が廊下まで届く夜、彼女は一人で薬草園に忍び込み、名前も知らない小さな草花が月光の中で静かに咲いているのを見つけた。話しかけても答えない。抱きしめても離れない。しかし水をやれば葉を広げ、日差しを当てれば花を開き、正しく世話をすれば応えてくれた。植物だけが——人間のように嘘をつかなかった。期待を裏切らなかった。エルナが正しいことをすれば、正しく生きてくれた。


それから二十八年、彼女は薬草と生きてきた。


王都の広場に、人が波のように集まっていた。


「偽聖女!」誰かが叫んだ。「呪いの薬師!」また別の声が続く。石畳に反響して、罵声は何十倍にも膨れ上がる。祭りのような熱気——しかしエルナが薬草を研究し続けた三十五年の人生の中で、この種の「熱」が最も毒に近いものだと知っていた。群衆の興奮は伝染する。理性を溶かし、良識を揮発させ、あとには空虚な残酷さだけが残る。植物とは正反対の、醜い連鎖反応だ。


高台の貴賓席に、白い衣をまとった少女が立っていた。


妹のフローラだった。


聖女の衣装は、夏の陽射しを受けて神々しく輝いている。その唇には微笑みが浮かんでいた。冷たい、計算された微笑み——幼い頃、「無邪気な妹」を演じていた頃の笑顔とは似ても似つかぬ、完成された仮面。エルナは処刑台の上から、その表情を静かに観察した。薬師として毒草を見分けるように。ベラドンナの葉が美しい紫の花をつけるように、毒は時に最も美しい形をとる。


「お前のような毒草が、よくもフローラを——!」


王子レオンハルトの声だった。二十七歳になった彼の顔には、かつて十二歳の頃の少年の面影が残っている。しかし今の彼の目には憎悪が宿っていた。本物の、制御できない憎悪が。エルナを見る目は、断じて愚者のそれではない——だからこそ、この憎悪は深く根を張っているのだと分かった。


ああ。


エルナは目を閉じた。


(そうか。最初から、私が作ったのは『解毒薬』だったのに。)


すり替えられたのだと、今になってわかる。フローラが仕込んだ遅効性の衰弱毒——「サイレントウィード」の抽出物。毎日微量を摂取させれば、三年後に臓器不全を引き起こす。通常の毒検査では検出されない。そしてその毒を「解毒薬」の瓶の中に入れ替えたのは、「聖女」を渇望した少女の手だった。


ずっと気づいていれば。


セレンの濃度を測る検査法を、もっと早く実用化していれば。


処刑刀が持ち上げられる音がした。金属が日光を弾いて、一瞬だけ視界に白い閃光が走る。


その刹那、群衆の中に異質な影を見た気がした。


人々が一様に処刑台を見上げる中で、ただ一人だけ、別の方向を——フローラの方を——見ていた男がいた。背の高い、戦士のような体格。右手は外套の内側に伸びており、まるで武器を握ろうとしているような——だが、遠すぎた。石畳の向こうで、波のような群衆に阻まれていた。


(あの男は——)

 (まだ——)


エルナの意識の中で、何かが叫んだ。


(まだ、終われない。)


視界が、白に染まった。


■シーン二 目覚めと衝撃


朝の光は、残酷なほど穏やかだった。


カーテンの隙間から差し込む春の陽射しが、フリルのついた天蓋を橙色に染めている。シーツは柔らかく、羽毛枕の匂いは甘い。エルナは反射的に跳ね起き、両手を自分の前に突き出した。


小さかった。


十本の指が、信じられないほど小さかった。皮膚はなめらかで傷一つなく、薬草の汁で荒れた形跡もない。三十五年かけて積み重ねた、時間の爪痕が消えている。


「エルナお嬢様、今日はお誕生日ですよ」


侍女の声が扉の向こうから聞こえた。


エルナは静かに息を吐いた。肺の容積が小さい。声帯が高い。心臓が——やや速く打っている。これは動揺ではなく、現在の状態を確認するための反応だ。薬師として、まず状態を把握する。


(十歳。誕生日。つまり今日は、前世の三月十二日)


記憶が、滝のように流れ込んでくる。三十五年分の知識と、処刑までの記憶——全てが鮮明に、薬草標本を一式並べるように整然と脳裏に広がっていく。荒れることなく、乱れることなく。薬師として培った習慣が、混乱さえも分類させる。


現状の整理はシンプルだった。


今は「聖女候補」の選定試験の、三年前。王子の婚約打診は——今日の午後。前世の自分は、喜んで承諾した。


鏡の前に立つと、焦げ茶色の瞳をした少女が映っていた。前世では「地味」と評された顔だが、今のエルナにはどうでもいい。顔よりも、時間の方が大切だ。


(そして——この時期なら、まだ間に合う)


庭の東側。月光草の開花まで、あと二週間。


■シーン三 薬草園の朝


朝食を手早く済ませ、エルナは伯爵家の薬草園へ向かった。


五月の朝の空気は、草の青々とした香りを含んでいた。土が湿っている。昨夜の雨の恵みで、薬草たちはそれぞれ葉の表面に小さな水滴を宿し、光を受けて銀色に輝いている。エルナは園の小道をゆっくりと歩きながら、一株ずつ観察した。ラベンダー、カモミール、ヤロウ——ここまでは基本的な薬草だ。しかし奥へ進むにつれ、品種は珍しくなっていく。


庭の土が、靴底を通して足の裏に伝わる。柔らかく、湿っていて、何かが生きている感触だ。


エルナはふと立ち止まった。


小さな手を、土の上に置く。十歳の、まだ何も知らないはずの手。しかし指先には、三十年以上かけて覚えた感覚が宿っている。土の温度、水分量、根の張り方——地面の下の状態が、触れるだけでおおよそわかる。この感覚だけは、身体が変わっても失われなかった。


(ああ。また、ここに戻ってきた)


処刑台の上で、最後の瞬間まで考えていたのはこのことだった。完成させられなかった脊髄損傷の治療薬。月光草から抽出する「ルナリン」の精製法。あと一年あれば——いや、あと半年でも——きっと誰かを歩かせられたのに。


植物を愛するのではない、とエルナは思う。植物に生かされてきたのだ。孤独な夜に傍にいてくれたのは薬草だった。裏切られるたびに立ち直らせてくれたのも薬草だった。そして処刑台の上でも、「まだやり遂げていないことがある」と叫んだのは——薬師としての義務感だった。


青心花の区画で、エルナは膝をついた。


「エルナ」


母の声だった。ヴァルトハウゼン伯爵夫人——薬学の素養があり、この薬草園を愛している数少ない大人の一人。朝の散歩の途中で娘を見つけ、不思議そうに近づいてくる。


「お誕生日の朝から、もう庭に?」


「植物は時間を選びませんから」とエルナは答えた。「朝露がある今が、青心花の観察に最適です」


エルナは膝をついて、株の根元を確認した。土の質感、根の張り具合、葉の色の均一性——全て良好。前世では三十歳を過ぎてから完成させた採取法を、今回は最初から正確に実行できる。


土をごく慎重に、爪楊枝ほどの力加減でほぐし始める。


「エルナ、その『青心花』の根は傷つきやすいのよ」


母が心配そうに言った。


「はい、知っています」エルナは手を止めずに答える。「根の繊維が切れると、有効成分のアルカロイド配糖体が酸化してしまうため、土を崩さずに掘り、直後に酢酸水に浸すんです。pH値は四・五が最適です。浸漬時間は三十分以内」


静寂が落ちた。


エルナは顔を上げた。母が、信じられないものを見る目でこちらを見ている。驚愕——しかしその奥に、もう一色の感情が混じっていた。前世の記憶の中では気づかなかった色が。


怖い、とその目は言っていた。ほんの少し、ほんの微かに。


愛しているからこそ生まれる類いの恐怖だと、三十五年生きたエルナには分かった。「この子は、私の知っている娘ではないかもしれない」という、ぬぐいがたい感覚。


(分かっている。今の私は、異様に映るだろう)


「……どこでそんな知識を?」


「お父様の書斎にあった『薬草典範』を読んだんです」エルナは微笑んだ。完璧に自然な、十歳の娘の笑顔で。「それに……庭の薬草たちが教えてくれました」


嘘ではない。ただ、読んだのが十歳の朝ではなく、三十年以上かけてのことだというだけで。


母は何かを言いかけて、口をつぐんだ。その沈黙の重さを、エルナは正確に受け取った。伯爵夫人は優しい人だ。しかし優しい人は時として、理解できないものの前で沈黙する。エルナに向けられた沈黙は、前世でも、そして今世でもきっと変わらない。


エルナは視線を戻し、作業を続ける。根を傷つけないよう竹製の細箸で丁寧に土を払い、準備しておいた酢酸水の小瓶に根を浸す。透明な液体が、一瞬だけ薄く黄緑色を帯びた。有効成分が安定している証拠だ。


(よし)


薬師の内側で、静かな炎が灯った。人間関係の複雑さとは無縁な、清潔な喜びだ。植物に向かう時だけ、エルナは過去も未来も忘れて、ただ今この瞬間の「正しさ」に集中できる。


■シーン四 王子来訪


午後の応接間には、薔薇の香りを混ぜた蜜蝋燃料の蝋燭が灯されていた。


ヴァルトハウゼン伯爵は正装で椅子に座り、伯爵夫人は穏やかな表情を作っている。妹のフローラは母の隣で無邪気に足をぶらつかせていた。エルナは彼女の横顔を、さりげなく観察する。今はまだ「可愛い妹」の段階だ。毒の種は、まだ発芽していない。


扉が開いて、王子が入ってきた。


レオンハルト・フォン・エルトラント、第三王子、十二歳。金の髪は整えられ、青い瞳には王家の教育が磨き上げた鋭さが宿っている。護衛が二名、後ろに続く。彼は部屋を見渡し——一瞥で空間の構造と人員配置を把握するような、訓練された目で——エルナの前で止まった。


傲慢ではある。しかし、ただの傲慢ではない。


父伯爵が椅子から立ち上がろうとするより早く、王子は片手を上げてそれを制した。「楽にしていい」とだけ言う。その動作に、染み付いた上位者の習慣があった。十二歳で既に、場を掌握する術を体に刻んでいる。


(やはり、侮れる相手ではない)


エルナは記憶を反芻した。前世のレオンハルトは、若い頃こそ傲慢だったが、三十代には王国でも指折りの政治家になっていた。知力は本物だ。だからこそ、彼の歪んだ論理は精緻で、彼の憎悪は持続する。


「ヴァルトハウゼン伯爵令嬢エルナ。本王子の伴侶となることを許可する」


前世では、この台詞に胸が高鳴った。今は、寒気がした。


(許可する、か)


エルナは一拍おいて、優雅に立ち上がった。スカートを持ち、完璧なお辞儀をする。顔には、研磨された笑顔が浮かんでいる——三十五年の人生で培った、感情を一切通さない笑顔だ。


「ありがたくお断りいたします、レオンハルト王子殿下」


応接間の空気が、一瞬で固まった。


父伯爵が目を見開く。母が小さく息を飲む。フローラが「お姉ちゃん……?」と呟く。王子の顔に、理解が追いつかない空白の表情が浮かんだ——しかしそれは一瞬だけで、すぐに整然とした表情が戻ってきた。


「……理由を聞かせてもらおうか」


低く、落ち着いた声だった。感情を制御できている。それが逆に、エルナに緊張を覚えさせた。崩れない相手の方が、手ごわい。


エルナは続けた。笑顔のまま、明確に、淡々と。


「まず経済的な観点から申し上げます。我がヴァルトハウゼン家は王家からの年間補助金に依存しない独立採算の薬草商でございます。しかし王家と姻戚関係となれば、『王室御用達』の称号により他国との取引に制限がかかります。事実、ブルンハルト伯爵家が王太子妃を出した後、国外取引を禁じられ経済的に没落したのは記録に残る話です。我が家の収入の根幹は他国との薬草取引です。王室と縁続きになることで、その基盤が失われます」


王子が口を開いた。


「ブルンハルト家の例は、先代の失政が根本原因だ。取引制限は一因に過ぎない」


エルナは少しだけ、内心で目を細めた。(やはり、ただの坊っちゃんではない。史実を知っている)


「ご指摘はもっともです。しかし我が家の利益は薄利多売の積み重ねであり、一因が経営を圧迫するだけで他国競合に市場を奪われます。殿下の御政道が盤石であっても、その間に競合他社が我が家の顧客を囲い込んでしまえば、後から取引を再開しても以前の地位には戻れません」


王子が、わずかに眉を動かした。反論を探している目だ。


エルナは続ける。


「次に政治的なリスクです。殿下は現在、王位継承順位第三位。お兄様方が健在である限り、万一の政変リスクは排除できません。殿下が王位を継げなかった場合、我が家は敗者の姻戚として他貴族から冷遇されます。反対に継げた場合でも、小規模の伯爵家が王妃の実家として権力争いに巻き込まれる余力はございません」


「王位継承の見通しは——」


「殿下のお力を疑うのではございません」エルナは穏やかに遮った。「確率の話をしております。殿下がどれほど優秀であっても、不測の事態はあります。薬師として申し上げれば、どれほど優れた処方も、患者の体質次第で予期せぬ結果を生みます。政治も同様かと」


今度は王子が、すぐには言葉を返さなかった。沈黙。長い、数秒の沈黙。


(この男は、正しい沈黙の使い方を知っている。考えながら、同時に場を制御している)


エルナは、最後の切り札を使った。


「そして最も重要な点を申し上げます。殿下はご聡明ですから、遺伝医学に関心をお持ちかと存じます。ヴァルトハウゼン家の家系には——奇数代目に発症する進行性の神経疾患の素因がございます。私もその可能性を持っております。もし殿下のお子を産み、その子が発症した場合、王家の血統に医学的な瑕疵を持ち込んだのは我が家ということになりましょう。殿下の後継者問題に、それが影を落とすことを……本当によろしいのでしょうか?」


王子の顔色が変わった。明確に、血の気が引いていた。後継者問題は、いかに聡明な十二歳といえども、本能的に恐れる急所だ。


エルナはお辞儀をした。最後の一言を、花が咲くように微笑みながら添える。


「それに何より——私は薬師です。王妃になるより、野草を研究していたい。殿下のお気持ちは誠に光栄ですが、私の人生設計とは、完全に兼ね合いが取れないのです」


レオンハルトは、立ったまま一度だけ瞼を伏せた。感情を整理する、ほんの一瞬。そしてゆっくりと、踵を返した。退出の際、彼は父伯爵に向かって短く「失礼した」とだけ言った。声は平静だった。それがかえって——エルナには、この話が終わっていないことを告げていた。


■シーン五 波紋


王子が帰った後、応接間には沈黙が残った。


父伯爵がようやく口を開く。「エルナ……よくもまあ、あれだけ論理的に断ったものだ」声に呆然とした色がある。「ただし——遺伝病の話は、本当のことなのか?」


「本当です」エルナは答えた。「ただし発症は成人後、現在の医学では知られていない事実です。フローラが大人になったら、一緒に専門医に診てもらいましょうね」


妹の顔が、一瞬だけ引きつった。


エルナはそれを見逃さなかった。この八歳の妹が何者になるか、知っているのだから。しかし今はまだ、種の段階だ。水を与えない限り、毒草は育たない。そのために自分は戻ってきた。


父伯爵が書斎へ引き上げた後、エルナは母が自分を見ているのに気づいた。


「エルナ。あなたは……誰に教わったの。そんな話し方を」


「教わったわけではありません。考えただけです」


「十歳の子が、王子殿下を相手に政治と経済と医学の話を」


エルナは微笑んだ。何も言わなかった。母は長い間、娘を見つめた。それから「お誕生日なのにごめんなさいね」とだけ言って、部屋を出ていった。その背中に、愛情と、困惑と——どう扱えばいいか分からないという正直な迷いが見えた。


(仕方ない。私はこの家族の中で、前世でも今世でも、少しだけ浮いている。それは変わらないし、変えようとも思わない。孤独は、薬草園が教えてくれた——慣れれば、静かな場所になる)


その夜、フローラの部屋からは灯りが消えなかった。


(お姉ちゃんだけ)枕を抱えた少女は呟いた。(王子様に断るなんてできるなんて。私は……私はずっと姉の影だったのに)


侍女がこぼした噂話——朝、薬草園でお母様を驚かせた知識のこと——が、小さな胸の中で歪んで広がっていく。


(お姉ちゃんがすごいのは知識だけ。私が聖女になれば……)


フローラの瞳に、何かが宿った。まだ輪郭のない、しかし確かな光が。


■シーン六 月光草の下


数日後の深夜、エルナは一人で書庫にいた。


蝋燭の炎が揺れるたびに、古文書の頁に落ちた影が踊る。自分と同じ回帰者がいるとしたら——その痕跡は、最も古い記録の中にある。前世の記憶から導いた直感が、確信に近い形で囁いていた。


三十七冊目の古文書を引き抜いた時、一枚の薄い紙が床に落ちた。拾い上げる。


『時を越えし者へ——薬草園の東端、月光草の下。シグバルト』


エルナの心臓が、処刑台の上以来初めて、制御を外れた速さで跳ねた。


この字だ。この、力強く角張った筆跡。薬指の末節が欠けた手が書いたと分かるわずかな癖——処刑台の上で、群衆の向こうに見た影の男。あの日、一人だけ違う方向を見ていた男。フローラを見ていた男。外套の内側に手を入れていた男。「真実を暴く」と言っていたのは、後から牢獄の壁を通して届いた声だった——間に合わなかった、あの男の。


エルナは紙を持ったまま、動かなかった。


月光草の開花まで、十一日。


彼の回帰は自分より早かった——そういうことか。だから先に、ここへ来ていた。だから先に、メモを残した。


(奇跡か。罠か)


エルナは蝋燭を吹き消した。暗闇の中で、答えは出ない。しかしそれでいい。薬師は不明な成分を前にした時、廃棄しない。分析する。解明する。そして、使えるかどうかを判断する。感情ではなく、証拠で。


二度目の人生は、まだ始まったばかりだ。私はもう、あの処刑台に立たない。


——月光草の下で待つ男の正体を、まず確かめに行こう。薬草が初めて、私に正しい反応を返してくれたように。


(第一話・了)

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