公爵家の娘にだって自由はある
·····暇だ。
私たちは王城のバルコニー手前の休憩室でのんびりと休んでいた。
一応私たちだけしかいない個室じゃなくて他の貴族とかもいる大部屋の休憩室だけど、結構ガッツリ休んでもいいみたいで校長先生なんかは机に突っ伏して爆睡中だ。
·····で、本当なら1時間で休憩時間が終わってウナちゃんの一般人への結婚報告と身分の公表をする予定だったんだけど、一般人が沿道に集まり過ぎて移動に手間取ってたり、最終調整が難航して1時間延期になってて暇なのだ。
「暇だぁ」
「まあ暇なのもいいんじゃない? ソフィちゃん結構忙しかったでしょ?」
「まあねぇ·····」
今日は一見働いてなさそうだけど結構ガッツリ働いたからなぁ·····
まず教会に行く前に曇天を晴天に変えて、そのあとウナちゃんの馬車の護衛をしながら王城から教会に向かって、教会内ではウナちゃんが光の大精霊を喰っちゃってヤバかったし、帰りのパレードも何もなかったように見えて集まった人の中で危険思想を持つ人を気絶させたりしたから結構疲れたのだ。
っていう感じで大忙しだったから、まぁ暇なのも悪くないかな?
「なんかさ、忙しかった後に急に暇になると『なんかやらなきゃ!』ってならない?」
「あー····· テスト開けの休日とか、勉強しなくてもいいのに勉強しなきゃって思っちゃうよね」
って事で、私はしばらくのんびり休むことにした。
◇
·····まぁ、休むと言っても完璧に休むんじゃなくて、頭の回転をゆっくりにしてのんびりお茶を飲んだりお菓子を食べたり仮眠をとりながら街の様子を見たりするんだけどね。
ちなみに今は千里眼で外の客の集まり具合を見ている所だ。
いやー凄いね、大人気アイドルのライブかってくらい集まってるよ。
「隣、よろしいでしょうか?」
「ん?あぁ大丈夫ですよ」
「ソフィ・シュテインさんですよね?娘がいつもお世話になっております」
フィーロ君と2人きりでのんびり話をしていると、2人組の若い貴族の男女が同じテーブルに座ってきた。
そうそう、今私たちが座っているのは円形の4人まで座れるテーブルでフィーロ君と2人で座っていたから2席分空いていたのだ。
そこにこの貴族の夫婦が座ってきた感じだ。
「ええと、お名前を·····」
「失礼しました、私は『グランディス・ド・ウィザール』と申します、そしてこちらが·····」
「夫でウィザール公爵家当主の『カズヤ・ド・ウィザール』です」
「えっ、ウィザールって、もしかして·····」
『ちょっ!?父さん!?母さん!?なんでここにいるのよ!』
「娘、グラシアルがここまで成長できたのもソフィさん達のお陰です、誠にありがとうございます」
「丁度いい、グラシアルも来なさい」
まさかのグラちゃんのご両親だった。
◇
その後、グラちゃんがブッフェ形式の軽食コーナーからスクランブルエッグやらベーコンやらパンやらを取ってきたまま大慌て私たちの元にやって来て止めようとしたが、抵抗も虚しくグラちゃんまで巻き込まれて話をすることになってしまった。
「それで、本日はどのようなお話を·····?」
「あぁ、娘の事なのだがな····· グラシアル、卒業したのだからそろそろクロベに帰るべきではないか?」
「嫌よ、私はこっちに住むわ」
なるほどわかった。
グラちゃんを引き取りに来た感じかな?
そんで居候というか同居してる家の主である私に交渉しに来たと?
·····私としては、判断をグラちゃんに任せようと思ってるから明言はしたくないのよね。
「ソフィさん、グラシアルもそろそろいい歳ですので、一旦クロベに帰らせて婚活などをさせようと考えているのですが·····」
「嫌よ、マジで嫌よ」
「グラちゃん、彼氏がいるっていいよぉ~?」
「う、うるさいわよ!私はとにかく帰りたくないのよ!堅苦しい貴族の暮らしなんてクソ喰らえだわ、こっちで自由に生きるわ」
「·····はぁ、このような形で断固拒否されてしまうのです、ソフィさん、なんとかならないでしょうか?」
「うーん····· ご両親の話を聞かない限りは判断しかねます····· なのでなぜグラちゃんを帰らせたいか教えていただけないでしょうか?」
「教えたところで絶対に帰らないわよ!」
なぜかグラちゃんは実家に帰ることを断固拒否しているから、とりあえず原因が実家の方にあるんじゃないかと思って話を聞いてみることにした。
そして聞いた話をまとめると·····
帰って欲しい理由としては
・無事に卒業したことを祖父母に伝えてお祝いしたい
・この歳になっても相手がいないからお見合いの予定を立てていて、既に十数件は話がきている
・貴族としての所作を覚えるためにしばらく屋敷で普通に貴族の令嬢として生活してほしい
という三つの事がメインだったようだ。
まぁ、貴族の娘なら普通っていうか妥当な理由だなって感じの理由だ。
そしてグラちゃんの反論は、別に帰ること自体も祝われ事も嫌じゃないしむしろ行きたいくらいだけど、行くとお見合いさせられて好きでもないヤツと交際の話をしなきゃいけないし、かたっ苦しい貴族の風習なんかやりたくないとの事。
つまりワガママとガチで嫌がってるのが半々ってところらしい。
まぁ聞いた感じだと、グラちゃんの方がちょっと弱いかなって感じだ。
「·····なるほどなるほど、つまりグラちゃんは堅苦しい貴族に戻りたくないし、お見合いとか縁談がガチで嫌と?」
「そうよ、絶対に無理だわ、私はソフィたちと一緒に自由を謳歌するわ」
「グラシアル、いい加減大人になりなさい」
「いつまでも子供でいられないわよ、卒業していい機会だから大人になりなさい」
「大人って何よ!自分の主張を娘に押し付けるのが大人っていうの!?だったら私は大人なんかにならないわよ!」
まぁ大人ってそんなもんだけどね。
私も大人だった時期あるから何となくわかるけどさ。
「·····親に向かってその口は何だ?学校で学んだことは無駄だったのか?」
「あーちょい待ちちょい待ち!!!いったんストップ!」
大人の会話ってのは分かってたけど、流石にグラちゃんと両親が険悪ムードになり始めたから一旦私が仲裁に入った。
おかしいな·····
のんびり休んでいたかったんだけど、なんで私の元にはトラブルばっかり·····
まぁいいや!
「まずグラちゃん!別に辛い事とか嫌な事から逃げてもいいけど、逃げてばかりじゃダメだよ、大人になるって言うのは嫌な事に向き合って、それを受け入れるか真正面からぶっ飛ばす事だよ!逃げちゃダメだ!それに今のグラちゃんの主張は筋が通ってないよ、大人を納得させるにはそれ相応の理由が必要だし、今の『ただ嫌だから』って理由は子供のワガママでしかないからね?それだけじゃ両親は認めてくれないよ」
「そんでグラちゃんのご両親さんも、自分の意見だけを他人に押し付けるのは絶対にNGですよ、人は押し付けられて嫌々やっても長続きしませんし成功しません、もし本当にグラちゃんにお見合いをさせたり貴族っぽくさせたいなら、ちゃんとメリットとデメリットを伝えて、メリットが上回ってグラちゃんを納得させられるだけの材料を用意してください、じゃないとグラちゃんは絶対に反抗して逃げ出しますよ、·····今の娘さんにはそれが出来るだけの能力があります、それと今のご両親さんの主張を聞いていると本当にグラちゃんの事を想って言っているとは思えませんでした、お二人がみている先にはグラちゃんが成長した姿ではなく、ただの魔法学校卒の貴族の令嬢という『実績』しか見えていないように感じましたよ?あなた方の幸せがグラちゃんにとっての幸せとは限らないとよーく覚えておいてください、幸せって言うのはヒトによって形が違うのですから」
「そうね····· 逃げちゃダメね·····」
「·····たかが9年一緒に居た程度で娘の何がわかる」
「全部わかりますよ?少なくともお二人よりもグラちゃんと長く一緒に居ますし、寝食を共にして一緒に成長もしましたし、両親には明かしたくても明かせなかった秘密も本音も沢山聞いてきましたからね」
少なくとも、グラちゃんに立派な貴族であってほしい両親の前ではグラちゃんは本音があまり言えなかっただろうし、そもそも生まれてから入学までの6年と、ちゃんと言葉を覚えたり知識を身に付けた9年間では質に圧倒的な差があるし、時間も私たちの方が長い。
「ま、私が言えるのはここまでです、あとはちゃんとグラちゃんの意見も聞いて話し合って、自分たちの望むことが本当にグラちゃんにとって幸せな事か確認してください」
「貴族という立場に一個人の感情は関係ない、ましてや貴族の中でも最上位たる公爵家にとってはな」
「嫌よ、私は私よ!父さんの人形なんかじゃないわ!」
『あらあら?仲良く話しているわね?私も混ぜなさい』
「お、お姉さまっ!」
「お姉様ですか·····」
·····ホントにウィザール家の人に自分の事お姉様って呼ばせてんのかこのバケモノババ
\ドゴスッ!!/
「ホギャバラッ!!!」
私は頑丈な王城の床に頭まで埋まって下の階まで下半身が貫通した。
「カズヤ、久しぶりね、数か月ぶりかしら?」
\私はさっきぶりですぅ·····/
「·····貴女はちょっとは貴族らしくしなさい、地面に埋まってるのは貴族らしくないわよ?」
\誰のせいじゃゴルァ·····/
「はぁ····· 貴女は公爵級の権限がある者らしく振る舞えるようにウィザール家で修行させるべきかしら?\嫌ですぅ·····/·····でも今回はナイスよソフィちゃん、時間稼ぎありがとう」
そう、実はグラちゃんの両親と口喧嘩になってる間に校長先生を呼びだしていたのだ。
校長先生はグラちゃんの味方で、数少ないグラちゃんが本音を打ち明けた相手でもあるから助っ人として呼んだのだ。
前にグラちゃんが『魔法学校で研究者になる』って言ってたのも実家に戻るのが嫌で、校長先生に相談した結果、協力してくれることになって自身が校長を務める魔法学校で研究者としてグラちゃんを雇う事で帰らなくてもいいようにしていてくれたみたいなのだ。
あとはウナちゃんのお父さんは絶対にグラちゃんを貴族令嬢に仕上げたい派の人みたいだけど、お母さんはそこまでガッツリという訳でもなく、むしろ守りたい派だった。
でも娘が貴族社会に入ったときに貶められないように教育を施そうとしているため、結果的にお父さんと意見が一致しちゃった感じっぽい。
·····まぁ2人とも悪い人って訳じゃなくて娘に過保護すぎる親バカなんだけど、そこに貴族社会のアレコレが混ざってしまって厄介な事になっているっぽい。
あとお父さんはちゃんとした貴族、それも公爵でルールには厳しいある意味テンプレな貴族らしい人で、上下関係とかにはうるさいとか。
そこで私は知り合いで、同じSランク冒険者で、通っていた学校の校長と生徒で、親友で、同郷出身で、お米や味噌や醤油など取引先のお得意様である校長先生を呼びだしたのだ。
校長先生は『ウィザール公爵家』の初代当主であり、数千年経った今も存命の生ける伝説の存在だ。
決して公爵家に取り憑いて歴代当主にお姉様とか呼ばせてるただのバケモノババアではないのだ。
\ドゴァ!!!/
私は階下に落っこちた。
あっどうもメイドさん、自業自得なのでお構いなく。
つまり校長先生は、この状況においては最強の助っ人と言わざるを得ないだろう。
って訳で、私はこれ以上は手の打ちようもないので、この場を校長先生に任せて壊しちゃった床の修復に取り掛かることにした。
·····その前に、私はスマホを取り出すとグラちゃんに電話をかけた。
「あーもしもしグラちゃん?」
「何かしら?」
「戻ってくるの、待ってるからね」
「当たり前よ、しっかり待ってなさいね」
『じゃあ校長先生、あとは頼みます』
「任せなさい、·····ふぅ、カズヤに説教をするのは久しぶりね····· 覚悟なさい?」
名前:グラシアル・ド・ウィザール
ひと言コメント
「私は自由が好きなのよ、だからこれからもソフィたちと一緒に居るわ」
名前:サトミ・ド・ウィザール
ひと言コメント
「この9年で数百年分は説教をしたわ、何処かの誰かのせいね、·····でもそのおかげでかなり説教のスキルが上がったわよ?ソフィちゃんもエヴィリンちゃんも音を上げる説教、しかと受け止めなさい」
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「王城の床は欠けたけど、なかよし組は誰一人欠けさせないよっ☆」




