天穂の賢者姫
さて、泣いてばかりではいられない。
あっ、いや、泣いてないよ?
でも、ショゲたままではいい米は作れない。
私はやる気を入れるため、まだ小さな手で頬をペチッと挟むように叩いた。
「よーし!お米つくるぞー!!」
私は庭を歩いて田んぼへ向かい、裸足で田んぼの中に入って湿った土の上を歩く。
ふむふむ?
これなら大丈夫そうだ。
「水田の稲穂よ我が田畑で実り頭を垂れよ『グロウフラワー』」
「土よ良き種子を実らせる助けをせよ『フラワーファーティライザー』」
私は田んぼに向けて2つの魔法を発動させる。
片方は今日の野外授業でやった、既に米が実り黄金色に輝く稲穂を生み出す魔改造お花を生やすだけの魔法『グロウフラワー』
そしてもう片方が、生えてくる植物に対して魔力で栄養素を与えて育てる助けをする魔法を付与する『フラワーファーティライザー』だ。
実は稲穂を生やす『グロウフラワー』という魔法だが、これは私の予想だけど半禁忌魔法『オーバーグロウス』とほとんど同一の魔法だと思う。
植物などを急速成長させるタイプの魔法は、成長しても地面の栄養価が足りず痩せてしまう場合が多いと考えられる。
そこで『フラワーファーティライザー』に私の魔力を大量に込めて発動することで急速成長による負荷や栄養不足を補い、質の良い植物を生やすという方法を取っている。
·····ぶっちゃけ、これ土さえあれば稲でも生やせるから田んぼなんて必要無いんだけど、そこはまぁ、雰囲気だ。
◇
「おおおおっ!生えてきたー!そしてできたー!!」
縁側で暫くもっふすをモッフスしていたり、新しい魔物のザリガニとドジョウを呼び出して田んぼに放したりしていたら、突然田んぼから稲がニョキッと生え、一気に成長して実を作り、黄金色に変わって頭を重そうに垂らした。
「よし!収穫だー!!」
私はインベントリからナイフを·····
いや、ここは本気で挑まないと失礼だ。
改めてインベントリから『星核合金』を取り出し、足元から魔法で木を生やして持ち手の部分を確保、『星核合金』を草刈り鎌の形にして鍛治魔法の『刃付け』で刃を入れて、根元を持ち手代わりの木に突き刺して加工して完成!
世界で1番レアな草刈り鎌!!
「まっててねお米ちゃん、美味しく食べてあげるから!!」
◇
私は新しく作った鎌を持って田んぼに入り、黄金色の稲の中央付近を纏めるように持って、根元に鎌の刃を当ててスッと引く。
すると、ザクッという音と共に稲は気持ちが良いほど綺麗にスパッと切れ、地面から離れた稲穂は私の手にずっしりとした重さを感じさせた。
「おおおおおっ!!さっきのとは大違いだっ!」
だが喜んではいられない、この田んぼは15m四方の正方形に作っている。
そこに生える稲穂の量はまだまだ沢山ある。
さぁて!頑張りますかっ!
◇
「腰が痛い·····」
現在の収穫進捗率は、やっと1列終わった所だ。
稲は規則正しく15cm間隔で植えられているので、だいたい90株は自分の手で収穫したのだ。
えっと、残りは89×90だから····· 約8010株?
「·····ええい!『サイコキネシス』『マジックブレード』『グラスバインド』!あばばばばばばっ!?」
私は一気に全ての株をサイコキネシスで固定、魔法の刃で根元を切断、そして地面から生えた草が切り取った株の根元に巻き付き、強く縛り上げた。
しかし、流石の私でも8000にも及ぶ対象全てに魔法を3種類ずつ発動すると脳が爆発しそうになってしまう、耐えろ私の脳ミソ!唸れ私の脳細胞!!
ちなみに『マクスウェルの悪魔』の発動対象は実はそんなに多くない、原子単位で観測はされてるけど基本的に範囲指定でやってるから楽な方だ。
そして魔法は無事に発動完了し、田んぼの上にはフワフワと束ねられた稲穂が浮くという奇妙な光景が完成した。
「よし!次は干す作業か·····」
◇
次の米を干す方法は、実は既に考えている。
闇魔法の中に、植物の水分を抜き取って枯らす魔法があったのだ。
その詠唱が、「草花よ萎れ干からび枯れ死に至れ『ウィザープラント』」なのだが、このままだと一気に水分が抜けてしまい、米がダメになるので魔改造で何とかしてしまおう。
「黄金色の稲穂よ2週間くらい干された感じでゆーっくり乾いて美味しくなぁれ♡『ウィザープラント』」
もはや原型が残っていないほど改変され、時空属性の魔力も込められた『ウィザープラント』が発動した瞬間、宙に浮いていた稲穂が輝き10秒ほど経つと光が収まって、光の中から現れた稲穂は少し緑がかっていた部分が無くなり、綺麗に乾燥した色になった。
「やった!成功したっ!!」
私は宙に浮かせていた稲穂を、家の前にある広場に移動させて、これまた魔法で作ったビニールシートを広げてその上に寝かせる。
「んじゃ、次は脱穀の時間だよっ!!」
◇
脱穀に使うのは、もちろん日本伝統のアレだ。
「千歯こぎ、初めてやるなぁ·····」
私は魔導障壁を櫛のような形で展開して、そこに『サイコキネシス』で掴んだままの稲穂を10束ずつ浮かべ、別のビニールシートの上に浮いている魔法千歯こぎに向けて振り下ろして引っ張る!
すると、籾が千歯こぎの歯に引っかかりポロポロと落ちていく。
いや、ポロポロなんてもんじゃない、大雨の中で傘をさした時みたいな『ザーーーッ』という音が響き渡る。
そして千歯こぎを通り抜けた稲穂を見てみると、1束に平均5個くらい籾が残ってしまっているが殆ど落とせていた。
「·····スズメちゃんたち、取り切れなかったお米とかって食べる?」
『ちゅんっ!!!』『ちゅんちゅんっ!!』『ちゅちゅんがちゅん!』
インテリアとして置いていた物干し竿の上にズラーッと並んでいた『ファイアスワロウ』たちが一斉に『食わせろ!』とでも言うかのように鳴いた。
「じゃあ食べていいよー!あとスズメちゃんたちが食べ終わった稲····· 藁を巣にしたい子は私に言ってね!巣にしたい所までもっていくよ!」
『クワッ!』
『ちゅんっ!!』
志願したのはカモ、スズメだった。
「んじゃ、精米が終わるまでちょっと待ってね!それか自分で運んでもいいよ!」
私がそう言うと、カモたちは巣材にするためなのか藁を何本か咥えて何処かにトテトテと歩いていってしまった。
スズメたちは藁の中でも細めの物を何本か咥えて飛び立って行った。
◇
その後、コツを覚えたソフィは一気に脱穀を終えて次の工程に移る。
「ええと、次の工程の名前なんだっけ?籾····· 忘れちゃった☆」
正解は籾摺り、その名前を完全に忘れたソフィだが、やり方だけは覚えてるので籾摺りを始めた。
「どーしよっかな、すり鉢と野球ボールを使うって書いてあるけどそんなもの無いよ····· あ、機械の方法ならできそう」
まぁ野球ボールじゃなくてもいっか!
機械の方が早そうだけどね!
弾力のあるロール状の魔導障壁を2つ作って、片方を早く、もう片方を遅く回転させてその間に一掴み分の籾を入れると·····
「あっ!出来てるっ!!」
お米を包む籾殻が割れて中から茶色っぽい玄米が飛び出し始めている。
だが、一部うまく外れていない。
·····これを外す方法かぁ。
試しに結界で閉じ込め、高速回転させてみる。
「よっしゃ!外れた!!」
遠心分離したらうまいこと全部外れた。
「じゃああとは·····」
1.ローラーに籾を入れる
2.出てきたのを遠心分離して籾殻と玄米に分離する
これをやって行くだけだ。
はぁ、単純作業はなかなか辛いものじゃのう·····
◇
単純作業を続けながら、私は選別と精米について考えていた。
まあ玄米の籾殻の選別は風魔法を米を飛ばない程度の強さで掛けてやれば、ほぼ籾殻だけが吹っ飛ぶからOK、飛んじゃった米はスズメたちが食ってくれる。
あとカモも食ってた。
「問題はなぁ·····どうやって精米しよ」
伝統的な方法だったら瓶に入れて棒でガシャガシャと突いてやれば良いのだが、それだとお米が割れたり傷んだりしそうで遠慮しておきたい。
だから私は機械式っぽく出来ないか考えている。
「·····よし、もう傷はどうでもいいや、1番簡単そうな家庭用精米機と同じ感じにしよ」
もう脳みそが限界の私は、お米を食べたい欲に駆られるがまま、魔法で精米機を作り上げて、精米を開始した。
◇
精米の途中で、私の家の縁側に1束の稲穂が放置されている事に気がついた。
近寄って見ると、それは私がこの世界で初めて手にした稲穂、授業中に魔法で作り出した稲穂だった、
「·····この稲穂は魔法で保存して私のお宝にしよう」
稲穂に対して私は保存の魔法を掛け、インベントリの大切な物用の枠の中に丁寧にしまい込んだ。
◇
数時間後·····
(※実際の時間では数十分後)
「ふふ、やっとできたわねぇ」
泥だらけで、籾殻まみれで、米ぬかで粉々して汚れたが天に掲げた私の両の手の平の中には、純白に輝く白い米があった。
それどころではない。
私の後ろにはほぼ完全に精米が終わった白米が山のように積まれている。
「ムフッ·····フ、フフヒッヒw グヒヒ·····ヌフフ·····」
その光景に、私は思わず変な笑い声が出てしまった
「じゃあお米でも炊こうかねぇ、は〜よっこらしょっと」
幸い、私の『あかしっくれこーど』には美味い米の炊き方が乗っておった故に、炊き方については心配が要らない。
まずは白米を1合ほど取り出し、水を流しながら研いで濃く白濁したとぎ汁が出なくなるまで研ぐ、このときやりすぎると米がダメになるのでやり過ぎないように注意する。
そして時空魔法で60分掛かる浸漬を短縮し、土鍋に研いだ米を入れる。
そして水を米1に対して水1.2くらいの量を入れて木蓋で閉じて火にかけ、じっくり炊いていく。
しばらくすると米の甘い香りが漂い、蓋の縁がフツフツと泡立ち始めたけれど、まだ蓋は開けない。
「はじめちょろちょろ、なかパッパ、赤子泣いてもフタとるな〜」
そして暫く蒸らし、ようやくその時がきた。
蓋を開けた釜の中には、ツヤツヤと輝く真っ白なお米が立ち上がるように水平に並び、なんとも甘美な香りを立てていた。
「うんうん、良い炊きあがりだねぇ」
炊けた米を木のしゃもじですぐさまかき混ぜ、しばし米を蒸らしている内に握り飯に必要な塩を魔法で生み出して握り飯を作る準備をしておく。
〜15分後〜
蒸らしが終わった土鍋の蓋を開けると、更に米の良き香りが私の顔を包み込んだ。
「うぅ、ヨダレが止まらない····· 味見っ!」
我慢できなくなった私は米を摘み口に放り込んだ。
「あふっ!はふっ!·····ふふふふ」
『美味いっ!!!!!』
米だ。
6年振りの、食べなれた懐かしい味だ。
私は急いで握り飯を作ってお皿に盛るとそれを縁側まで運び、縁側に座ってパクッと頬張った。
「おいしい、おいしい····· ぐずっ·····おいしい·····」
美しき田園風景を眺めながら頬張る、誠に懐かしい味に思わず笑いが漏れ、私の目から涙がとめどなく零れて落ちていった。
私から流れ落ちた涙は、斜陽に照らされキラッと輝いた。
◇
僕たちは学校から帰ると、ソフィの作った秘密基地に集まっていた。
「あれ?ソフィちゃんって居ない?」
「なんか部屋に『入ってます』って看板はかかってるから帰ってるとは思うよ?」
「どうせ何か中で悪巧みしてるのでしょう?」
「ぬぐぐ····· 開かない·····」
ノックしたりドアノブをガチャガチャしたり、ウナちゃんがピッキングしようとしていたが、結局ソフィちゃんの部屋から反応は無く、扉もあかなかった。
「仕方ない、僕は温泉に入ってくるよ」
「「「はーい」」」
◇
脱衣場に入ると、何だか様子が変だった。
明らかにそこら中に服が散らばったままになっているのだ。
とりあえず近づいて見ると·····
「うわっ!!?ソフィちゃんの服じゃんこれ!?」
なんとソフィちゃんが着ていた制服がそのまま脱ぎ散らかされていた。
僕は慌てて別の方を向いて、脱ぎ散らかされた服を見ないようにして服を入れる棚の所に向かった。
·····
·····ちらっ
「えっ!?ソフィちゃんまさか穿いてな····· いやいやいやいや····· うん、僕は何も見てない」
◇
服を脱いで裸になった僕は、まだお風呂に入ってもいないのにのぼせ気味になりながらお風呂のドアを開けようとして·····
「ま、まさか中に居るとかじゃないよね?」
不安になってドアの隙間から温泉を覗くが、ソフィちゃんが居るような様子は無かったので普通に入って、僕の名前が書かれた席があったのでそこに座って身体を洗った。
◇
その後、温泉でたっぷり温まった僕は、ソフィちゃんから貰った凄く良いパジャマに着替えて、脱いだ服を袋に入れてソフィちゃんの服を踏まないようにしながら脱衣場から出た。
·····ソフィちゃんの脱ぎ散らかした服には一切手を出してないよ?
「あがったよー、ソフィちゃん来た?」
「来てないよ?ほんとどうしちゃったんだろ·····」
「案外怒られて凹んでいるのかもしれないわ」
「うーん、わたしはソフィちゃんに限ってそれは無いとおもうな」
「「「「だよねー·····」」」」
ついでに僕はあらぬ誤解をされないよう、脱衣所の惨状を先にみんなに伝えておく。
「あっ、あとソフィちゃん服を脱ぎ散らかしてたからさ、その、片付けておいてくれない?男の僕が勝手に触るとソフィちゃん嫌がるかもしれないし·····」
「りょーかい!」
「あと、チラッと見えちゃったんだけど、パ、パンツが無いのは僕のせいじゃないからっ!絶対に盗んでないからっ!!誤解しないで!!」
「·····まぁ分かったわ、でも後でソフィに聞くわよ?」
「フィーロくん、ヘンタイ·····」
「ウナちゃん違うからね!?それを言うのはちゃんとソフィちゃんに聞いてからにして!!」
「·····わかった」
「それじゃ!みんなお風呂いこー!ついでにソフィちゃんの服も片付けちゃおー!!」
「おーー!!」
「あっ、ちょっとまってて!」
·····はぁ、ほんとソフィちゃんは女子力が高いのか低いのか分からない。
ってあれ?アルムちゃんが帰ってきた?
「あのねフィーロ君、ソフィちゃんとみんなにはナイショだよ? 実はソフィちゃんね、いっつも同じパンツしか穿かないんだ、だから脱いだ所に無いって事は、きっと穿いてどっかに行ったと思うよ!ワタシはフィーロ君のこと疑ってないから安心してねっ!」
「·····よかった」
ソフィちゃん普段からちゃんと穿いてたんだ。
◇
その後、30分以上たった所でようやく女の子たちがお風呂から上がってきた。
そして僕達はいつも通りお喋りをしていると·····
ガチャッ
ソフィちゃんの部屋のドアが開いた。
そして中から·····
「はー疲れた、お米作りは疲れるからねぇ、よっこいしょっと、さてさてお風呂でも入ろうかのぅ、おや皆いたんだねぇ、勉強かい?いい子たちだねぇ頑張るのよ〜?」
「えっ、あっ、うん?·····うん?」
「ど、どうしたのソフィちゃんそんなに汚れて·····」
「それに口調もおかしいわよ、なんか田舎のおばあちゃんみたいになってるわ」
「ソフィちゃん、だいじょうぶ?」
「大丈夫よぉ、そうだ飴ちゃん食べる?おにぎりは食べちゃったからもう無いのよ〜、ごめんね?」
「「「「·····」」」」
「うちの湯はいい湯よぉ、ビバのんのんよぉ」
全身泥だらけで、何か植物の殻っぽいのや粉まみれになった、なんていうか、絵に書いたようなおばあちゃんみたいな言動をしたソフィちゃんが出てきた。
しかも目がなんか、上向いたまま····· いや、どこ見てるか分からない虚ろな目で会話もままならないままお風呂の方へ向かってしまった。
「·····何、あれ?」
「わ、わかんない」
「キッショ····· あっ素が····· 気持ち悪かったわねアレ」
「ひ、昼のいのししさんより怖い·····」
名前:ソフィ・シュテイン
年齢:6才?
ひと言コメント
「はぁ〜 極楽極楽、畑仕事は疲れるのぅ」
名前:アルム
年齢:6才
ひと言コメント
「つ、つかれてるのかな····· 後でソフィちゃんにワタシの秘密のスイーツ屋さん教えてあげよ·····」
名前:フィーロ
年齢:6才
ひと言コメント
「ちゃんと穿いてて安心した」
名前:グラちゃん(グラシアル・ド・ウィザール)
年齢:6才
ひと言コメント
「アレは正直ドン引きするわ」
名前:ウナちゃん(ウナ・ウェア・ラ・サークレット)
年齢:6才
ひと言コメント
「ソフィちゃんが夢にでてきそうなくらい怖い·····」




