家出、逃げ出したあと
「まったく、あのクソ姉貴め·····」
姉貴に散々ナデナデされてだらしない顔を晒してしまった私は、完全にキレて家出をしていた。
行先?決めてる訳ないじゃん、家出なんだよ?
あーもう完全にキレた、ほんっと節操なくナデナデするのホントやめてよ·····
嫌いか嫌いじゃないかって言われたら、嫌いじゃないけどさ·····
元々私はお姉ちゃんっ子だったし、小学校低学年までは良く撫でられてたし·····
「って!何で私は勝手に変な事暴露してるんだあああああああっ!!!」
私は歩きながら色々考えてたら変なことまで考えちゃってて、思わず道のど真ん中でくねくねと変な動きをしながら悶えた。
私って今15歳だけど前世含めると中身42歳のオッサンなのよ!?
姉貴は今29だったか30だったかだから、私より精神的には年下なのに·····
いやまてよ?
姉貴って確か前世はエビちゃんの姉で、死んだのはエビちゃんが1346歳の時に勇者に殺された後で、エビちゃんが魔王城地下に姉貴を逃がしてしばらく徘徊してたけど足を滑らせてすっ転んで死んだって聞いたな·····
ってことは最低でも1346歳以上ってことか·····
·····あれ?姉貴ってやっぱり私より年上?
「じゃあ甘えても·····って違ううううっ!!甘えたいんじゃないからっ!!あーあー!!もーっ!!」
『おっ?そこの子可愛くね?』
『お前声かけろよ、お持ち帰り得意だったろ?』
『おう任せろ、今夜はパーティーだな』
「おうそこのかわい子ちゃん、今夜俺たちと」
「あ゛あ゛ん゛?んだテメェら!?こちとら姉貴にナデナデされて気が立ってんだ話し掛けんなチ○ポ野郎共が」
「ひっ!?」
「こっ!こいつッ!!」
「お前ら!ヤッちまおうぜ!」
「「応ッ!」」
なんかウザッちぃチンピラ共に絡まれた。
これだから最近の若い男は·····
もういいや、腹立ってたし軽くぶん殴ってやろ。
「·····警告、5秒以内に尻尾巻いて逃げなきゃそのウザい顔を凹ます」
「はんっ、丸腰のガキが何言ってんだ?」
「大人に適うはずねぇだろ!大人しく大人の言う事には従えって学校で習わなかったか?このガキが!」
「3対1で大人3人相手に子供が勝てるはずねぇだろ!」
確かに、『質より量』『子供より大人』という事実は覆しようのないパワーバランスだ。
もし私みたいな子供が大人に絡まれたら、戦うよりも逃げるよりも周囲の人に大声で助けを求めるのが正解だろう。
でも、相手がどんなに強かろうが技術が高かろうが関係ない方法がある。
格闘技世界チャンピオンでも、世界最強の選手でも、地上最強の生物でも、一瞬で屠る方法がある。
相手より早く動けばいい。
早ければ早いほど、速度が高いほど、運動エネルギーが高いほど、力は強くなるとこの世界の理が定めているのだ。
故に、光を超える私の力は無限大で、成人男性3人なんぞに武器を使う必要はない。
まず、武器が無い時点で丸腰って思ってるのが間違いなのよ?
「残念5秒経過、最後に教えといてやる、こういうのは丸腰じゃなくて·····」
「徒手っていうんだよ?」
その瞬間、私の姿は通常の時間では感じ取れないほど加速され、その場から姿が搔き消えた。
そして、次の瞬間·····
「ぐえっ!?」
「ドぺ!?大丈夫かっ!?ウボァッ!?」
「おい!?リロ!?どうした急に吹っ飛んで!?」
リーダーらしきチンピラの周囲にいた雑魚共が突然何かに殴られたかのように吹っ飛び、壁に激突して地面に力なく倒れ込んだ。
「くそっ!何なんだよ!」
「·····狙う相手を間違えたってだけだよ?」
私は時の流れを元に戻し、チンピラのリーダーの前で動きを止めた。
本当にこの人不幸だよね、狙った相手、Sランク冒険者だったんだもの。
「ちっ!」
「あーあ、ナイフ出しちゃダメだよ?そんな危ない物人に向けちゃいけないって学校で教わらなかったの?」
ピンチになったのを悟ったのか、チンピラリーダーが懐から折り畳みナイフを取り出して私に向けてきた。
「うるせぇ!テメェは黙ってついてくりゃいいんだよ!」
「·····手入れはほとんどされてない、なのに切れ味は健在、切っ先に迷いがある、ふーん?」
「あ?なんだよゴチャゴチャ言って!」
「それ、脅しと捕まえた女の人の縄を切るくらいにしか使ってないね?」
「あぁん?それがどうしたってんだよ」
「はぁ····· ナイフの扱いも近接格闘のやり方も出来てないって事だよ」
チンピラが取り出したナイフは使われたり砥がれた形跡がなく、切っ先もフラフラしてて私に向けてんだかわからない程度の覚悟しか伝わらない。
「·····もういいや、めんどくさ」
「はぁ?うわっ!?」
ガキンッ!
「炭素多め、焼き入れも甘い、砥ぎも悪い、安物だねぇ」
私は人間の反射神経を超える速度でチンピラの元に接近すると、ナイフの真正面から左手でパンチを食らわせた。
普通の人間なら鈍らなナイフでも切っ先が手に刺さって大惨事だけど、私の左腕は無敵の合金『星核合金』でできた義手だ。
炭素が多すぎて脆い鋼なんかが星の核を引き裂けるわけがないのだ。
私のパンチを喰らったナイフはあっという間に砕け散り、それでも拳の勢いは止まらずにチンピラの顎を捕らえると一撃で気絶させてしまった。
「·····さてと、もうちょっと家出しよっと」
地面に転がる不埒な輩を放置して、私は町の中に消えていった。
◇
·····ごめん町の中じゃなかった。
私は今、宇宙空間に居ます。
いやね?あの後街中をアテもなくフラついてたらまた絡まれたから、いい加減イラっとしてきたから誰も居ない宇宙空間に逃げてきたのよ·····
やっぱり宇宙空間はいいねぇ·····
無音だし、誰も呼びに来ないというか来れないし、のんびりフワフワ漂ってられるし·····
「はぁ、サイコー·····」
あっ、宇宙空間といってもここ衛星『賢者の杖』の展望デッキだよっ☆
そこで地球で買ってた宇宙食をオヤツとして貪りながら、意味もなくフワフワ浮いてのんびりしているのだ。
「宇宙空間で全裸でフワフワしてる奴なんて、元の世界でもこっちの世界でも私しかいないだろうなぁ·····」
ちなみに全裸だ。
いやな事があったら脱ぐのが一番だよね。
「·····しばらく帰らないでいいや」
なんとなく、姉貴に頭を撫でられた時の感覚が蘇ってきた。
別に私は膝枕されて頭を撫でられたり優しくされるのは嫌いじゃない。
むしろ好きなくらいだ。
あと姉貴の事も嫌いじゃない、むしろ好きと言った方がいいくらいだ。
でもこの歳になって今更姉貴に甘えるのは私のプライドが許さないというか、恥ずかしくてできない。
本音を言えば堂々と甘えたいけどね·····
「変に意地張っちゃうの、なんとかしなきゃなぁ·····」
そろそろ私も結婚してフィーロ君の妻になって、近いうちに妊娠して子供を産んで一児の母になるくらいの歳だ。
·····妊娠したら冒険者活動とかできないから、もうちょっとフィーロ君と相談してから考えるけど、決断するときは迫ってる。
男から女になったときのように、女から母になる決断をしなきゃいけない時期が来ているんだ。
こんなヤンチャで好き勝手で身勝手で自分勝手な性格じゃ母になんてなれっこないだろうなぁ·····
一児の母になる、自分の子供を産む、子育てをするって、結構覚悟が要るんだなぁ·····
「·····私、ちゃんとお母さんになれるのかな」
·····ぶっちゃけ、最近の私は子供を産みたい、妊娠したいってよく思うようになってきた。
でも、それはフィーロ君と私の愛の結晶として私利私欲の為に産みたいって言ってるような気が自分でもする。
いや、でもちゃんと大事なわが子をたっぷり愛して育てたいって思っている部分もある。
「·····覚悟が足りないだけ、なのかな」
それとも、母になるのが怖いのかな·····
·····自問自答してもわかんないや。
間違いないことは、私はいつか絶対にフィーロ君の子供を産んでその子を育てたいという事だけかな。
何人産むかも決めてないし、ちゃんと母親になれるかもわかんない。
でも·····
「·····生物のままでいるなら、生物の摂理に従いたいよなぁ」
私は神という上位の存在になったけど、まだまだ三次元生命体で子孫を残す事を望んでいる。
それが、ちゃんと私が人間だって証拠だ。
「あーもう、ダメだ、変な思考に陥っちゃう·····」
妊娠したいけど怖い、子供を産みたいけどちゃんと育てる自信がない、立派な母親になれる覚悟が足りない、たったそれだけなのに、答えも分ってるのに、何とか逃げようと無駄な事を考えちゃう。
私の悪い癖だなぁ·····
\ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ/
「あっ、もう夕飯の時間····· 帰らなきゃ·····」
なんて考えてるうちに時刻は18時30分になってしまった。
もう夕飯をつくらないとみんながお腹を空かせて文句言ってくるから、ちゃっちゃと作らないとなぁ·····
「·····やっぱり行き当たりばったりが一番かな、私がお母さんになるまではこのままでもいっか」
そう決断した私は、そこらへんに脱ぎ散らかしたせいで無重力空間をフワフワとばらばらに漂う服や下着を回収してちゃんと着て、自分の家へ、みんなが待つ家へと帰って行った。
ちなみに帰ってきたら不死川さんが酒の飲みすぎで肝臓がデロデロになって昏睡してたから、私のを移植して暫くウチで療養する事になった。
みんな酒の飲み過ぎには気をつけようね☆
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「私だって悩むことくらいあるんだよ?赤ちゃんを産みたいってフィーロ君と夜伽してる時はいっつも何回も思うんだけど、終わるとやっぱり覚悟が足りないなぁっ·····てなるんだよね·····」




