勇者姫アルム
『さてとそこの魔王、勇者の定めに従って退治させてもらうよ?』
ビシッ!
ねとぉ·····
黄金色の魔力を身に纏うアルムちゃんは、彼女を助けるため本来の力を解放したエビちゃんに向けてカニ味噌がこびりついてカニ臭くなった私の作った剣『七星剣プレアデス』の切っ先を向けた。
あぁ、カニ味噌が垂れて勿体ない·····
「·····何のことじゃ?あのカニは倒したのじゃから気張らなくても良いのじゃ、ほれ、その剣を仕舞うのじゃ、剣は気軽に人に向けていい物ではないのじゃ」
『悪事を働く魔王を倒すのは勇者の定め、キミは沢山悪事を働いたみたいだから向けられて当然なんじゃない?』
「悪事?」
「エビちゃんなんかやったっけ?」
『魔王軍の復活を目論んでたよね?』
「あーーーーーー·····」
「そういえばなかよし組の新たな名前決める時『復活の魔王軍』を推しまくっておったのじゃ·····」
『ケンカと称してソフィちゃんを殺してたよね』
「·····確かに」
「う、うむ、時々力と勢いが有り余って殺しちゃうのじゃ·····」
『魔王軍復活と称してそこら辺の魔物をスカウトしてた』
「はいダウト、エビちゃん大人しく勇者に退治されちゃったら?」
「なんでじゃ!?それだったらお主も瑞穂の里に魔物を住まわせてるではないかっ!」
「アレは友好関係を築いて住んでもらってるだけですぅ!エビちゃんみたいに魔物にチヤホヤされたいからスカウトしてるけど無視されてる残念な子じゃありませぇ~ん!」
「むっきいいいいっ!!!誰がヘタクソスカウトウーマンじゃ!一応何匹か配下はおるのじゃ!」
「へー?どんな魔物?」
「·····ぶっとびハゼとドリルタニシと落とし穴ウサギじゃ」
「ぷっ」
「むがー!笑ったな!?これでもワシ結構頑張ったのじゃぞ!!?」
「私なんか玄武さんとフェンリルとプリティアサシンキャットとアシュラスケルトンと家事精霊シルフィーとシルキーとか色々従えてるもんねー!このバーカっ!」
「バカって言う方がアホなのじゃベロベロバァッ!」
「なんっかむかつくうううっ!!ちょっと表出ろ!」
「おうおう表ってどこなのじゃぁ?もうすでに表じゃろぅ?」
「決まってんだろ画面の外だよ!場外乱闘じゃゴルァぁああああ!!」
「いいじゃろう次元の壁なんぞぶち破ってくr」
『·····どっちが魔王なんだっけ、いいや!どっちも悪そうだし勇者の定めに従って倒すっ!』
「「黙れデカパイ娘っ!」」
ベッチコンッ!!!!
『痛いっ!!?』
私とエビちゃんがケンカをしていると、勇者を自称するアルムちゃんが胸をバルンバルン揺らしながら襲い掛かってきた。
でもケンカの邪魔だったのと貧乳故の妬みで、私はエビちゃんとピッタリ同タイミングでアルムちゃんの揺れる双峰を思いきりひっぱたいた。
するとアルムちゃんは胸を押さえ、その場でうずくまって動かなくなってしまった。
更に、急激にアルムちゃんから黄金色の魔力が失われて行っていた。
·····が、私とエビちゃんはそのことに気が付かない。
なぜなら·····
「おうソフィ、表いこうや、けちょんけちょんにしてワシの配下にしてやるのじゃ」
「へー?魔王は倒される定めなのにそんな悠長な事言ってられるんだ~?今のうちに命乞いしといた方がいいんじゃないのぉ?」
「お主いつから魔王は倒される宿命だと思っておったのじゃ?魔王には負けイベントという手段があるのじゃぞ?」
「エビちゃんの方が無知じゃないのぉ?負けイベントの敵でも倒せることあるのよ~?」
「そんなの知らんのじゃ!では倒される前に倒すだけなのじゃ!」
「んじゃ私もそれでやってやんよ、んじゃ行くよ?」
「いつでも来るのじゃ、一瞬で決着をつけて貴様をワシの配下に」
一触即発
そんな空気が漂った瞬間、救いの神がやってきた。
「はいはいソフィちゃん落ち着いて、アルムちゃんが動かなくなっちゃってるよ?」
「エビちゃんとまって? ·····ふふふ?わたしと戦いたいのかしら?」
「「なっ!?」」
私の元にはフィーロ君がやって来てケンカを止めるように言ってきて、エビちゃんの元には真っ黒なウナちゃん····· いや、ついにウナちゃんに完全に取り込まれてしまったナイアルラトホテップの『ラーちゃん』がやって来て背後から羽交い絞めにしていた。
ちなみにラーちゃんは滅茶苦茶強い、たった一人でエビちゃんと互角にやり合えるレベルの力はあるし、3人がかりで挑まれると私でも苦戦するレベルの強さだ。
そんなわけで、私もエビちゃんも抵抗できなくなってケンカは終わってしまった。
◇
その後、胸の痛みが引いたのかアルムちゃんが体を起こしたから、私たちも大人しく口ケンカを止めてアルムちゃんの話を聞くことにした。
「·····で、アルムちゃん、さっきから勇者を自称してるけど何なの?なんか声にエコーも掛かってるし超新星野菜人みたいな金色のオーラ溢れ出てるし」
『えーっと、何かわかんないけど突然頭の中に『魔王を倒せ』って使命感?がでてきて、急に力が溢れてきたんだ』
「ふんふん·····」
『えっと、うっ!·····そこの魔王倒していい?』
「いやダメだよ?今は普通に生活してるし、本気で魔王みたいに世界征服しようとしてる訳じゃない·····よね?」
「うむ、ワシは政治は苦手じゃからな!町程度なら良いが、国とか世界とかを管理するのは御免なのじゃ」
「·····だってさ?」
『そうなんだ····· でも魔王はたおさなきゃ·····』
「うーん····· これはアレかな····· ちょっと問い合わせしてみるわ」
そういうと、私はインベントリからスマートフォンを取り出してある人へ連絡をとった。
『はいもしもし?こちらお助け女神事務sy』
「ガイア様、率直に聞きます、なんかやらかしましたよね?」
『あっわかった?どうも勇者覚醒申告が来てたみたいなんだけどそっちの光の大精霊ちゃんがドジってYES押しちゃってさ、神界中大慌てなのよ~、魔王と魔神は今はもう無害化されてるから勇者覚醒は機能を極限まで抑えてたはずなんだけど、なんか突然ね····· 今は勇者の確保のために地上にいる天使に指示を出して捜索中だけど、ソフィちゃんも手伝って?』
「あー、もう見つけましたよ?」
『わかった····· って、えっ?もう?早くない?』
「覚醒したの多分私の親友のアルムちゃんですよ」
『あー、ちょっとまってて····· 第一種警戒態勢解除、目標確保を確認できたから捜索は打ち切り!あの引き篭もりのルミナリアには引き続きコンタクトを続けて、出なかったら私が直々に説教しに行くから』
「·····はやっ」
『お仕事は早い方がいいでしょ?』
「雑なシステム組んだの誰でしたっけ?」
『ダレダッケ、シラナーイ』
ちなみにそこら辺のUI開発したのコイツね。
めんどくさいからって改善を放棄してたツケが回ってきたようだ。
まったくこのお騒がせ女神め·····
やっぱりアルムちゃんが急激に強くなってエビちゃんを倒したがってたのは、この世界のシステムによるものだったみたいだ。
この世界には『魔王と勇者』という関係があって、この世界に魔王が存在しているときには勇者が現れる、というルールとなっている。
んで、ガイア様曰く『今は魔王が落ち着いてるから勇者機能を極限まで減らして、勇者じゃなくて『勇者候補』っていう勇者の卵が時々生まれる感じにしてるよっ☆ んで魔神の気配を感じたら勇者に覚醒するか否かの申請が神界に送信されて、私が許可をすると勇者に覚醒する仕組みだね!』との事。
ちなみに前に魔法競技大会で戦った勇者候補君もこの勇者の卵だったりする。
そしてアルムちゃんも勇者の卵だったし、すぐ近くで魔神の力を解放したエビちゃんの魔力を感じ取って、しかも間違ってガイア様が覚醒させちゃって·····
『本物の勇者、爆誕っ☆』
って事らしい。
『まぁ確保できてるならいいやー、サンキュー!』
「いやいやいや、ちょっと待ってください、どうすんですかコレ」
『これって?』
「アルムちゃん元に戻したいんですけど?」
『いや強くなれたからいいんじゃない?』
「そっちじゃなくて、エビちゃんと一緒に生活するのにずっと『魔王殺すべし慈悲は無い』って言ってたら迷惑極まりないんですけど?」
『まぁ勇者って言うのはそういうモンだからねー』
「·····もう一度聞きますけど、アルムちゃんが勇者に覚醒した根本的な原因って誰のせいでしたっけ?」
『あーはいはい!わーかーりーまーしーたー!!!その子の勇者権限をソフィちゃんのアカシックレコードに譲渡する!それでいい!?』
「·····ならOKです、マニュアルは?」
『自分で調べろー!!』
ブツッ!
「あ、あの女神ぃ····· まぁいいや、今はそれどころじゃないっ!」
とりあえずアカシックレコードのメニューを開くと、勇者管理って言う項目が増えていた。
すかさず私は勇者管理ソフトを立ち上げると、出てきたGUIにあった勇者リストからアルムちゃんを選択した。
「くっそ!!相変わらず分かりにくいなこれ!!!」
すると『ア』と『ル』と『ム』が名前に入ってる人総勢数千人が出てきて更に余計な項目まで出てきた。
クソが、検索システムちゃんと組めよこんにゃう!!!
私はエビちゃんに襲いかかろうとするアルムちゃんを羽交い締めにしながら、その中から必死こいてアルムちゃんの項目をみつけると『使命』の欄を選択して『魔王の討伐』という使命を削除した。
『やっぱり魔王は存在しちゃいけない!倒·····すってなんでだっけ?あれ?なんでワタシ、エビちゃんを倒そうとしてたんだっけ?」
「むっ?急になんか、元に戻ったのじゃ?」
「ふぅ····· 原因が分かったからアルムちゃんが勇者として魔王を倒したくなるって言うのを無くしておいたよ、これで一応大丈夫なはず」
「えっ?勇者?ワタシが?」
「うん、多分スキルに『勇者姫(覚醒済み)』って言うの追加されてない?」
「ちょっとまって····· あっ!ほんとだ!」
「でしょ?」
「ちょいまちなのじゃ、つまりこやつワシの天敵なのじゃ?」
「そういう事になるね、勇者と魔王のコンビって最強すぎじゃない?」
「いや、ワシ勇者こわいんじゃが·····」
「大丈夫大丈夫、アルムちゃんは勇者の力を得ただけで、エビちゃんを狙うように誘導するのは私が神様の権限で切ったからこれまで通りだよ!」
「そ、それなら安心····· って、つまりワシ、お主に殺生与奪権を握られてると?」
「·····あっ、んふふ····· そういうことになっちゃったねぇ·····」
「や、やめるのじゃ、ワシは悪い魔王じゃないのじゃ!」
「知ってるよ、私はむやみやたらに神様の力は使うつもりはないし、エビちゃんを殺すようなことは絶対しないから」
「ならよかったのじゃ·····」
「でもワタシは狙うよ?もちろん性的な意味で····· じゅるり·····」
「ひっ!?そ、ソフィ!お主何とかするのじゃ!コレ勇者の何かじゃろう!?」
「いやそれアルムちゃんの素だよ?」
「えっ、ひぃっ!?や、やめるのじゃァァァアアアあああああ!!」
「もちろんソフィちゃんもね♡」
「·····えっ?ちょ、舌なめずりしながら近づかないで····· んぎゃあああああああああ!!!」
草原に二人の少女の悲鳴が響き渡った。
そして、ここに魔王も神をも喰らう、世界最強の勇者が爆誕してしまった。
名前:アルム
職業:勇者姫
ユニークスキル:『勇者姫』
ひと言コメント
「なんだか物凄く強くなった気がする!うへへ····· これでソフィちゃんとエビちゃんも捕まえて百合百合できる····· うへへへへへ····· あっ!ソフィちゃんとエビちゃんは美味しくいただいたよ!」
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「えーっと?なかよし組のメンバーって『神』『準神』『勇者』『ダンジョン』『魂を喰らう白黒少女』『魔神姫』『超強ねぼけ天使』『エルフ』ってことになるんだよね·····? もうなんというか、バケモノ揃いだぁ·····」
名前:エビちゃん
ひと言コメント
「魔王は、勇者に敗北する定めだったのじゃぁ·····」
名前:フィーロ
ひと言コメント
「もうダメだ僕たちの中にマトモな人ひとりも居ない·····」
名前:グラちゃん
ひと言コメント
「唯一まともに人間だと思ってたアルムもこっち側だったわね·····」
名前:ウナちゃん
ひと言コメント
「えっ?魂を喰らうってどういう事なのー?って?·····えへへ、ひみつ!結婚式のときに言うね!」
名前:ミカちゃん
ひと言コメント
「勇者探せって仕事、きてた····· もちろん、無視してねてた」
名前:チェル
ひと言コメント
「カニさんピクピクしてるけど生きてる?わーっ!ハサミうごいたー!!?ママみたーい!!」




