チェルへの強制学習っ!
私は頭を悩ませていた。
「チェル、『ပန်းသီး 』はこっちの言葉で『りんご』だよ、りぴーたふたみー?」
「れんけ?」
「ちがうちがう、り!ん!ご!」
「れ!れ!け!」
「あーーもう!!」
エルフ舐めてた、マジで物覚えが悪い。
みんなに日本語を教えた時は早い子で3日で基礎を覚えつくしてしゃべれるようになってる子もいたのに、チェルは3日たってもまだ一つも単語を覚えられてないし、発音もおぼつかないのだ。
いや何個かは覚えてたわ、パパ、ママ、すき、おはよう、おやすみ、ありがとう、さいようなら程度なら覚えてたわ。
でもそれだけしか覚えてないし、時間と状況で挨拶だとわかった程度っぽい。
それとエルフ語の発音は特殊なものが多く、私たちや日本人じゃ到底発音は無理な音が含まれてる。
チェルの名前だと『スェイゥルュゥ』の『イゥ』とかが該当して、なんというか、イとウを同時に発音するような特殊な発音があったりするのだ。
ちなみにチェルの名前をこっち流の発音に直すと『チェル・セユリュウ』って感じになる。
「·····で、チェル、どう?」
「ぜんぜんわかんない」
「むぐぐ·····」
一応脳に直接統一人類語をインプットして会話できるようにはできるんだけど、流石に脳みそへの負荷が凄いしアカシックレコードの記憶データに直接ぶち込む荒業だから時々記憶の混雑が発生するからやりたくない。
何度か私がその被害にあって頭あっぱらぴーになってひどい目にあったからやりたくないのよね。
·····この世の理を超えた情報を脳に書き加えようとしようとしたら脳細胞がバグっちゃったのよね。
なにが『問題無い』だ、問題大ありじゃねーかあのマダオめ。
もう二度とパンツを被って全裸で外に出ようとする事態を起こしてはいけないと誓ったのだから。
一週間ずっと恥ずか死で悶えるような事態は起こしてはいけない。
「どうやれば覚えられるんだ·····」
「みんながエルフ語を覚えたら?」
「そっちの方が大変なのよ·····」
みんなにエルフ語を教えることができても、私たち以外と会話できないから意味がない。
だからこそ、この国で生きていくためには統一人類語が必要なのだ。
まぁ識字率は低め、おぼろけながら46%という数字が出てくるくらいには低いのだけど。
おぼろけながらって言った理由は、最低限の日用会話や文字くらいなら覚えてるって人が多くて、向こう側の人みたいに不必要な言葉も知ってるって人が少ないからだ。
そういう人を含めると識字率は70%や80%に達するけど、私たち魔法学園生とかに比べると半分以下なので46%くらいが妥当なんじゃないかなって感じだ。
これでも校長先生のお陰で識字率はものすごく高くなってて、戦後すぐは10%行くか行かないかレベルだったそうだ。
だが必要最低限の言葉などを復興炊き出しの時とかに無償で教えたり、教えた人の中で上手な人に広めてもらったり、ギルド活動で普及活動をやってもらったりした結果、なんとかここまでこれたそうだ。
まぁそのせいでちょいちょい派生語とか方言はあるんだけど、概ねこの国では高水準な識字率へと至ったそうだ。
·····また話がそれた、世界観を語るのが楽しすぎていっつも書いちゃうのよね。
ほんっとこの世界って楽しいわぁ!
みんなも異世界来てみない?
今なら脳に直接統一人類語インストールサービスもつけるわよ?
え?チート?無いよ?
「·····ママ、あぅ、えぉあいめ?」
「ん?·····あーはいはい、わかった、続きね了解」
私はたどたどしいへたっぴなチェルの言葉を解読して、教育を再開した。
◇
2日後
私は強制インプットを決意した。
というのも、もうすぐみんなで日本に行く予定だからあんまり言語教育に時間を割けないのと、エルフ語でなかよし組のルールとか秘密の事について教えても全然覚えてくれないからだ。
本人に悪気はないのはわかってるし、頑張って覚えようとしてるんだけど、めっちゃ物覚えが悪すぎてもう無理だと判断した。
「じゃあチェル、ちょっと気分悪くなるかもだけど耐えてね」
「うん、ママがいればチェルは大丈夫だよ」
「いい子いい子、じゃあ準備を始めるね」
私はベッドに寝かせたチェルの頭を優しく撫で、早速作業に取り掛かった。
知識の強制インプットをすると割と激しめな吐き気を催したりするから、事前に回復魔法系統の酔い止めを使う。
まぁ車酔いとかとは別ジャンルで、神経の過敏状態とか脳の過剰反応とか魔力による酔いなんだけど、私の魔法ならそれも軽減することができる。
·····それでもシャレにならない酔いに襲われるけど、そこは仕方ないと割り切るしかない。
ちなみに私も最初はゲーゲー吐いてたけど、今はもう慣れて船酔いとかもしなくなった。
慣れって怖いねっ☆
「えーっと、まずは『酔い止め』っと····· よしチェル、本番行くよ!覚悟を決めてね!」
「うん·····ママ、手にぎって?」
「いいよ、どう?いけそう?」
「うん、大丈夫」
チェルは不安そうな顔をしていたけど、手を握ってあげたら途端に落ち着いてリラックスし始めた。
うーん、やっぱり私の娘可愛すぎない?
っと、親バカをやってる暇は無いんだった、この後インプットした知識の定着とか慣らしとかが必要だから急がなくちゃいけないのよ。
だって明日日本行きだし。
「それじゃいくよ!『須臾』『精神安定』『身体鎮静化』『神経保護』『思考加速』『吐き気止め』·····『記憶挿入』っ!!」
「あ゛ゔっ!?」
思考速度を上昇させたチェルの脳とアカシックレコードの記録部分に一気に情報を流し込み、強制的に言語やルールなんかを書き加えてある程度まで定着させる作業を行う。
ただ、この作業はやられる側への負担が高いため、なるべく一瞬で終わらせる必要がある。
そこで使うのが時間の流れを遅くするタイプの須臾で、遅くなった時の中で一気に作業を進めて時間短縮をしているのだ。
「えーっと、まずは言語ファイルに統一人類語データと日本語データをコピペして、記憶ファイルに『なかよし組ルールブック』と『ソフィちゃんの秘密について』を入れて、あーあとこの国でやっちゃいけない事とかの倫理も入れておくか·····グラちゃんの倫理データがいいかな?私のはヤバい気がするし」
この作業は私みたいに精神が図太くないとできない作業なので、なるべく一度で済ませる必要がある。
だからとりあえず色々な生活に必要そうなデータを思いつく限りチェルの記憶データにぶち込んでいく。
ちょっとキツいだろうけどそこは我慢してもらうしかない。
って感じで、私はチェルの脳内に直接色々な事をインプットしていった。
◇
1秒後····· 私にとっては10分後、ようやく知識の定着や編集が終わった。
いやーエルフってすごいね、記憶部分の容量が人間の数十倍はあるってわかったときはびっくりしたわ、そりゃ森の賢者とか呼ばれるのも納得だわ。
「·····で、チェル、気分は良くなった?」
「ーーーー」
どうやらダメらしい。
というのも、記憶を入れた後チェルは吐き気に襲われてトイレに籠って出てこなくなってしまったのだ。
まぁどこぞの暗記麺麭とは違って出しても記憶はインストールされたままだから大丈夫だけど、普通に心配だ。
「お水いる?」
「~~ッ!」
水がいるか聞いてみると、トイレのドアがちょっと開いて手だけ出てきた。
多分欲しいって言ってるから、私はチェルに日本の自販機で買ってきたミネラルウォーターを渡してあげた。
もちろんキャップは外してあるよっ☆
「~~~!?」
「大丈夫だよー、普通に飲んでいいからね」
「·····!!?」
なんかトイレの中が騒がしいんだけど·····
まぁそりゃ超きれいな美味しい日本のお水をペットボトルで渡されたら驚かないはずがないもんね。
基本引きこもりのエルフにとっては目新しくて不思議なものだろうし。
·····そもそもこの世界には存在しない物だから驚くのも仕方ないよね。
チェルが日本を見たらどんな反応をするかなぁ·····
木々が生い茂るジャングルではなく、科学の結晶でできたビルが立ち並ぶコンクリートジャングルを見たらきっと驚くだろうなぁ·····
なんて、明日の日本旅行に思いを馳せながら私はトイレに引きこもるチェルが出てくるのをのんびりと待った。
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「日本の旅行計画どうしよっかな····· 大阪とかいいかな?いや私あそこに関係無いし今回は行かなくていいや、というかチェルの家族の依頼もまだできてないし····· ああっ!やることが多すぎるっ!」
名前:チェル
ひと言コメント
「えっ、なに、この、これ、頭に、チェルがしらないことが沢山ある、ママってパパなの?どういうこと?イセカイ?ニホン?かみさま?うぐっ、あたま痛い····· 気持ち悪い·····」




