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TS賢者は今日も逝くっ!  作者: すげぇ女神のそふぃ
第四章 TS賢者は世界を往くっ!
331/366

希望は残っているよ、生きてる限りね


 チェルの家族から直々に依頼を受けた私は、最後の一人と話し終わったチェルの元へとやってきた。


「チェル、そろそろ時間だよ」


「·····わかった」


「よし、ではみなさーん!チェルの周りに集まってくださーい!」



 私がそう声をかけると、50人ほど居るエルフたちがチェルの周囲に集まってきた。

 そして色々指示を出して、集合写真を撮るときの並びになってもらった。


 そう、今からやろうとしているのは記念撮影だ。

 もう二度と会えない家族たちの記録を、薄れてしまう記憶ではなく永遠に残り続ける画像データとして記録しておいてあげたかったのだ。


「じゃあ撮りますね!さん、にー、いち、はいチーズっ!」



 ·····なんて言ったけど、本当はずっとこの様子をアカシックレコードに記録しているから、いつでも追体験してみることができる。

 でもそこは気分が大事だからちゃんと言っておいた。



「えーっと、はい、オッケーです!」


「何をやったかわからないが、娘に記録を残せるのだよな?」


「そうです、ちゃんと撮れてますよ!」


「ならいいわ····· ソフィ様、もう残された時間もあと少しなのでしょう?」


「ええと·····あと3分くらいですね····· もうお別れの時間ですね」


「そう、ソフィ様、私たちに奇跡を授けていただきありがとうございます、これで安心して生まれ変わることができます」


「こちらこそ、娘さんは必ず立派なエルフに育てます、だから安心して逝ってください」


「お願いいたします、ほらテュイェル、ソフィ様の所へ行きなさい」



「·····やだ、離れたくない」



 チェルの家族たちはチェルを優しく送り出そうとしたが、彼女はそれを断り皆に抱き着いた。

 ·····そりゃそうよね、もう二度と会えないんだから離れたくないに決まってる。


 でも、現実は非情だ。


 このまま時間が来ると、チェルはあちら側へ引きずり込まれるだろう。

 そうなったらもう元には戻れない。


 彼女の本当の家族にはアズが事前にそのことを伝えてるから優しく離そうとしているが、チェルは離れようとしなかった。


 ·····仕方ない、私も行こう。



「チェル、君には選べる道が二つだけある、みんなについて逝くか、私について行くか、今ならどちらにでも行けるよ?チェルはどっちに行きたいの?」


「·····ママたち」


「·····わかった、家族と共について逝く、それでいいんだね?」


「うん」



 彼女が選んだのは、家族と共に逝くことだった。


 ぶっちゃけ、私の所には来ないとわかっていた。

 所詮私は偽物の母、彼女が求めていたのは失った母だったのだから、本物を選ぶに決まってる。


 本音を言うと、チェルを養子に、なかよし組のメンバーに入れて新たな家族として迎え入れるつもりだったから、ちょっとだけ悲しい。


 でもチェルは家族と共にあの世へ向かうという道を選んだのだから、私は引き止めない。

 死ぬのは不幸な事と思われてるけど、残された一人がみんなと再会して幸せなまま逝けるのであればそれはそれでいいのかもしれない。


 本当は彼女も村の皆と共に死ぬ運命だったはずが、そのイタズラ好きな運命のせいで奇跡的に1人だけ生き残ってしまった。

 だから、皆について行く方が本来の運命のはずだ。



「チェル、君をワイバーンから助けた後、冷たくしてごめんね、私、もっと優しくできたはずなのに····· うん、もう後悔してる暇はないね、ごめんねチェル、そして行ってらっしゃい」


「ママ、ありがとね、パパも大好きだったって伝えてほしいな」


『ソフィちゃ~ん、もう限界よ~、戻るなら此岸に戻ってね~』


「はーい、チェル、また来世で会う·····機会があったら、また私の事をママって呼んでね、それと、あと数年で私は子供を産む気だから、よければ私の本当の子供になって欲しいな」


「ママ·····うん、よろしくね」



 狙った魂を自分の子供に入れられるかわかんないし、いつ赤ちゃんに魂が入るのかもわかんないけど、必ず成功してみせる。


 そして、最後の瞬間が訪れた。



 砕け散っていた二つの次元の壁が端から修復されはじめ、穴はだんだんと小さくなっていく。



 それに伴い、彼岸に居るチェルたちエルフから光があふれ出し、ホロホロと崩れ始めた。


 私と女神様による創世魔法の効果が切れ始めたのだ。

 魔力で仮構築された肉体が魔力に戻り、崩壊して魂だけに戻るのだ。



 そして、本来の次元へと姿を戻しつつある世界で、本来三次元世界の住人であるチェルは四次元世界側に立っている。

 三次元世界の住人が向こう側にいると、三次元的要素である肉体が崩壊して魂だけになる。


 その後、魂はあの世へと引きずり込まれ魂の浄化を行って新たな生を受けるのだ。



「向こうでもう一人の私がみんなを案内するけど、なるべく浄化まで時間を稼ぐつもりだよ、それまでなら体はないけど家族のみんなと会話ができるから、たくさん話して悔いのないようにね」


「うん·····ありがと」



 穴はどんどんと狭まり、チェルたちの肉体の大半は光に包まれ消えてしまっている。


 もってあと1分というところだろう。



 ·····向こうでは、もう一人の私で魂を司る私、アズラエルがみんなの誘導とチェルの魂の追跡を行う準備と整えている。


 悲しくなんかない、人は必ず死ぬ、私でも不可能はある、もうみんなの運命は変えられない、仕方ないことだ。



 大丈夫、私は強い子だから、泣かない、泣いちゃいけない、いつか母になる女なんだから。




「·····さようなら、チェル、必ず私の所に来てね」


「じゃあねママ、きっといつかママの所に行くから」




 次元の壁は、まるで割れた窓ガラスを逆再生するように戻って行き、破壊の中心地点であるソフィアの槍のあたりへどんどんと近づいてゆく。


 最後に槍を引き抜けば、壁は元に戻って、チェルたちは魂だけに、四次元世界に適した姿に戻るだろう。



 ·····魂が浄化されると人はすべての記憶を失う。

 正確には、アカシックレコードに記録された記憶データにアクセスするためのアドレスが書き換えられ、魂自体に記録された経験なんかも大半がリセットされる。

 記憶自体はアカシックレコードにあるが、新生後にその記憶にアクセスすることは基本的に不可能だ。



 だから、生まれ変わったらチェルはもう別の人格になっている。

 この厄介でめんどくさくて変な性格だったチェルとは二度と会えないのだ。

 私がちょっとだけでも自分の子供だと思った人物は、この世から記録だけを残して消えてしまうのだ。



 いくら記録だけがあっても、それが書き加えられなければ意味はない。

 更新が止まった小説だって、完結した小説だって、何度も読み返して楽しめるけど、やっぱり私は続きがあって、新たな物語が紡がれる方が好きだ。

 人は未来へ進むことで生きて行く、新たな物語を綴る事が人が生きるということだ。

 そして、その生を終えた時、完結した物語の最後に自分の名前を刻むことが人の最後の使命なのだ。



 『アカシックレコード』とは、そうして綴られた人類の·····人々の人生の集合知、人生を綴る伝記の図書館なのだ。



 チェルたちの物語はあっけなく終わった、だから、次はもっと面白い、ハッピーエンドで終わる物語を綴って欲しい。

 そして、死が無くなり、自身の最後を記録することができない私に、永遠に人の物語を見ることになる私に、笑って見終われる楽しい小説を書いてほしい。



 そう願って、私はみんなを送り出す。




 本当は、連れ戻したい、今なら間に合う、戻して肉体を再構築すれば、一緒に居れる。

 あの面倒な子の面倒を見て、育ててみたい。


 みんなと一緒に居て、新しいなかよし組のメンバーとして、一緒に暮らしたかった。


 チェルの物語を終わらせないで、もっともっと長く続く楽しい小説を書いてほしかった。




 私の物語(TS賢者は今日も逝く)に、この子のことをもっと書いて綴っていきたかった。




 ·····でも、私は体は子供でも心は大人だ。

 ずいぶん体に引っ張られて、子供らしくなっちゃったけど、向こうで積み重ねた27年間の記録は消えない。


 もう40年近く生きてることになるんだから、我儘を言える歳じゃない。



 泣くなんてみっともない、私が泣いたってエルフの皆もチェルも救う事は出来ない。

 だから笑って、笑顔でいるのが私のポリシーだ。  


 私の物語は笑って楽しく見れることがモットーなのだ。




 でも、たまには悲しい話があってもいい。



「チェル、最後に顔を見せて、忘れないから」


「うん、生まれた時、間違わないようにしっかり見てね?」



 たった魂一つ分しかない次元の穴から、もう原型もとどめていないチェルの顔を私はしっかり目に焼き付けた。

 だがそれもあっという間に、彼女の全身が完全に崩壊し魂へと還ってしまったからだ。



「·····ありがと、もう忘れない、じゃあねチェル、元気で」


「ばいばいママ、今度は本当のママって呼びたいな」


「それは楽しみだな、待ってるよ、こっちも早く来れるよう頑張るから·····じゃあ、今度こそ最後だよ、槍を引き抜いて、次元の壁を完全に塞ぐね」


「うん·····」


「ありがとねチェル、私の事、ママって呼んでくれて、もしまた会えたら、私のこと、ママって呼んでほしいな」



 私は将来の娘の返事も聞かず、情けない泣き顔を見られないように、泣いているのを悟られないように、そして、次元の壁に突き刺さる転生を司る槍を、再び転生の奇跡が起きるよう願いながら、壁から引き抜いた。


 そして槍一本分の小さな小さな穴は、あっという間にふさがり始めた。





『今だッ!!!』





 ドンッ!





『きゃんっ!?』







 だが、槍が引き抜かれた直後、完全にふさがっていなかった穴からエルフたちの声と何かを突き飛ばす音が聞こえ、穴から小さな光る星のようなものが出てきた。


 直感でわかった、チェルの魂だ。

 そして、エルフの皆の決断もわかった。


 その瞬間、私は後先考えず全身全霊の力を出した。


 たった数センチの穴であれば、先ほどの30分間で休憩したから十数秒くらいだったら維持できる。

 会話に混ざる余裕なんてないけど、チェルと家族の最後の瞬間が作れるならそれでいい!!



「急いで話してぇ!!止めるの数秒が限界だから!!!」


『パパ!ママ!なんで!私はみんなと一緒にいきたかったのに!』


『行きなさいテュイェル、あなたはまだ死ぬべきじゃない』

『ソフィ様と、新しいママと仲良くするんだよ』


『パパぁ!ママぁ!やだよ!行かないで!!』


『大丈夫、エルフは森と共に生き、森に還る種族よ、いつかまた必ず会えるわ』

『だから安心して生きるんだ、達者でな、テュイェル』


『ぱぱぁ!!ままぁ!!みんなぁ!!!』


「もう無理!!閉じる!閉じちゃう!!!チェル!別れを言って!!!」


『うっうっ、えぐっ、またねみんな!絶対に、チェルに会いに来て!!!』


『『またねテュイェル!元気で!』』



 なんとか家族が別れを言えたところで私は力尽き、ぶっ倒れた。


 そして維持する者がいなくなった小さな小さな穴は塞がり、親子は再び引き離された。



「よッと危ない、ソフィちゃんはまだやることあるでしょ?早くやらないと大切なわが子がきえちゃうよん」


「ありがとう、ガイア様·····ですね、最後の力を振り絞るとしますか!」



 倒れそうになったところを先輩女神のガイア様が支えてくれた。


 そしてガイア様が言った通り、魂だけになったチェルは三次元世界では長持ちしない。

 神が肉体を与えなければ、せっかくこちらへこれたのにまた向こうへ逆戻りだ。



 もう私もほとんど力は残ってないけど、永久機関『賢者の石』は伊達じゃない。



「アカシックレコードより肉体データを検索·····完了、データをもとに『創世魔法』にて再構築開始····· 異常なし、そのまま構築を続けよ·····」



 空っぽになった魔力タンクは無視して、賢者の石から無限に湧き出る魔力を使って私はチェルの肉体を再構築していった。

 胎児に戻して私の子宮で育てて生むっていう手段もあったけど、今回はこっちの方が早かったから0.01秒くらい考えてやめておいた。

 あと前者はできるかわかんなかったし。


 とか考えてるうちに、私の魔力がチェルの魂を中心に肉体崩壊前の形を作って元通りになってしまった。

 先ほどは3+4次元空間だったから物質を生み出せる創世魔法でも形状を保てなかったが、今ここは四次元に限りなく近い三次元だ。

 だから創世魔法で作った肉体は元と変わりなく、崩壊することもない。



「ぱぱぁ·····ままぁ·····みんなぁ·····」



 だが、チェルは先ほどまでつながっていた境界線付近の壁に張り付いて離れようとしなかった。



「ほらチェル、行くよ、私たちは生きてるんだから」


「·····でも」


「私だって辛いよ、君の家族を救えなかったから、チェルに悲しい思いをさせちゃったからね、でも、この世界に居る限り悲しいことも楽しいことも辛いこともうれしいこともたくさん起きる、向こう側はね、物語の終わりの世界、続きがない世界なの、私たちはまだ話を作ることができる、これからの行動次第で物語が楽しくなるか、悲しくなるかが決まる、だから、どうせならさ、楽しい物語にしない?」


「向こうで家族たちが楽しく笑顔で見れる本を書こうよ、チェル」


「·····うん」


「チェル、改めて言うね、私の友達に、私の家族に、私の娘になってくれないかな?」


「·····うん」


「じゃあよろしくね!チェル!そんじゃ我が家に帰ろっか!私には秘密がたくさんあるし、不思議なことがたくさんあるから覚えなきゃいけないよ?エルフだからって容赦しないからねっ☆ あーまずは私の事をママって呼ばれると色々アレだから変えなきゃかなぁ·····」


「うん!·····一つだけわがままいっていい?」


「いいよ、何でも言ってみな~」



「ママ」



「·····なに?」



「これからもママの事ママって呼ぶね、だって『もしまた会えたら私の事ママって呼んでほしいな』って言ってたでしょ?」


「·····あ゛っ」



 やっべ、雰囲気にのまれてそんなこと言ってたわ·····


 ええい!仕方ない!私もママになる覚悟を決めなきゃだめだこりゃ!!


 今から私がママになるんだよォ!!!




名前:ソフィ・シュテイン

ひと言コメント

「まさかこの年で300歳の娘ができるなんて····· まあ面白いからいいや!これから忙しくなるぞーっ!」


名前:テュイェル・スェイルュゥ

ひと言コメント

「今度こそ、よろしくねパパ!ママ!」



名前:ガイア

ひと言コメント

「うっうっ、いい話だなぁ····· ん?あれ?なんで私こっち側に····· げぇっ!!?!?やらかした?·····やべっ、やっべ!!!やらかしたァァアアアアアアッ!!!!」

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